私は彼に、恋をしてしまったのかも知れない
記事:世良菜津子(ライティング・ラボ)
いつからだろう?
気が付けば、彼のことを考えている自分がいる。
ここだけの話、今みたいに彼のことを考えることは、以前の私にはなかったと思う。
「そうだ、彼に会いに行こう」
そんな風に思うようになったのは、彼との距離が縮まった、ここ数年のことだった。
少し前まで、私と彼の間には、確かな距離があった。
当時、彼の話を耳にすることがあったが、興味を持つことができなかった。
むしろ、話題が出るたびに、不快に感じていたと思う。
彼に初めて会ったのは、実家がある北九州から福岡市内に引っ越してきた、6年前だったと思う。
会社の同僚に連れられて、初めて彼に会いに行った。
道中、彼女は、彼の魅力を、思う存分私に伝えてきた。また他の同僚も、目を輝かせながら、彼についていろいろと教えてくれた。
彼女たちの話を聞いているだけで、知らず知らずのうちに、私は彼に興味を抱き始めていた。
その日以来、気が付けば、彼のことを考えている自分がいる。
前まで、こんなことはなかった。
その異変に、私自身、もちろん気づいていた。
この気持ちは、まさか……。
「次、いつ会えるかな? 」そう考えると、胸が高まる。
彼と会える日は、仕事中も、どこかソワソワしていると思う。
彼はいつでも、私をあたたかく迎えてくれた。
彼はいつでも、まぶしいくらいに輝いて見えた。
彼の姿を見ているだけで、私はしあわせだった。
彼が喜べば、同じように私もすごく嬉しくなる。
彼が落ち込んでいると、同じように私もなぜか落ち込んでしまう。
一喜一憂、いつも彼といっしょに感じていた。その空間が、とてつもなく幸せだったし、楽しかった。
この気持ちは、やはり、恋かもしれない。
彼は今、ものすごく大事な局面を迎えている。
そんな彼を、私はただただ、遠くから全力で応援することしかできないのだ。
現在、日本一を目指して、福岡ソフトバンクホークスが日々熱い戦いを繰り広げている。
北九州に住んでいた頃、福岡ソフトバンクホークスに、プロ野球に、それほど興味がなかった。
子供のころ、晩御飯の時に、野球好きな父が「ナイターを見たい」とテレビのチャンネルを変えることが、私にとっては不快でしかなかった。
おそらく、姉と弟も同じ気持ちだったと思う。
「野球の試合とか見て、何が楽しいんかいっちょんわからん」
子供ながらに、こんな風に思っていたと思う。
ホークスの試合を生で見たのは、今の会社に勤め始めた頃だった。
取引先に、「野球観戦チケット」を頂き、会社帰りに先輩たちとヤフオクドームに行ったのが、私にとって初めての野球観戦だった。
今勤めている会社は、ホークスの本拠地でもある「ヤフオクドーム」から、徒歩10分圏内にある。
その日、仕事終わりに、先輩たちと他愛もない話をしながらヤフオクドームに向かった。
ドームに向かう道中、先輩たちが「ビール飲もう! 」「今年のホークス、強いけんねー! 」「風船買わんといけんね」と、口々に話していた。
私をその会話を聞きながら、初めての野球観戦に、内心ドキドキしていた。
いっしょに行った先輩たちは、実に手慣れたものだった。
席に着くと、売店に食べ物を買いに行ったり、ビールを買ったり、「ドームでの野球観戦のやり方」を熟知していた。
私は、というと、初めて見る目の前で行われているプロ野球の試合に、初めて目の当たりにするドームの広さに、満員の観客に、ただただ、圧倒されていた。
ホークスの選手がヒットを打つと、ドーム中から歓声が上がる。
ホームランが出た瞬間、みんなが立ち上がり、どよめきと歓声が起こる。
7回には、「ラッキー7」と称し、ホークスの応援歌を歌い、みんなでジェット風船を飛ばして、勝利を祈る。
「なんなんだ、この一体感は! 」
今までに味わったことのない一体感。自然と歓声を送っている私がいた。
気がつけば、野球観戦を全力で楽しんでいた。
その日以来、すっかり野球観戦の楽しみ方を覚えた私は、仕事帰りに、度々ヤフオクドームを訪れるようになる。
日々ニュースで流れるホークスの情報は、なんとなく気になるし、リーグ優勝のときは、他人事とは思えないほどうれしかった。
実家にいた頃は絶対に考えられなかったが、家でナイターを見ながら晩御飯を食べるときさえもある。
「福岡は、ソフトバンクホークスのファンが多い」
「地元の人は、ホークス愛が強い」
ほかの県に住んでいる人から、そんな風に思われているらしい。
福岡に住んでいる私たちにとって、ソフトバクホークスは、すごく身近な存在なのだ。
ホークスが私たちの身近にある理由の一つに、ソフトバンクホークスの本拠地でもある「ヤフオクドーム」へのアクセスの良さが、あるかもしれない。
天神からは、ヤフオクドームの最寄り駅まで、地下鉄で約5分、西鉄バスでも約15分ほどで行くことができる。
博多からは、地下鉄で約11分、西鉄バスで約30分程度で行くことができる。
「福岡はコンパクトな街」という特性があるため、ヤフオクドームへも、仕事帰りに気軽に足を運ぶことができるのだ。
私のように、チケットをもらって行ってみたら、思いのほか楽しかった! という人。
会社帰りに、居酒屋に行くような感覚で、同僚とドームを訪れて、ビールを飲みながら野球観戦を楽しむ人。
デートのときに、知識がない彼女に、いろいろと教えてあげながら野球観戦を楽しんでいるカップル。
もちろん、熱狂的な、ソフトバンクホークスファン。その家族。その友達。
気軽にドームに足を運ぶことができ、みんながホークスを応援する。
「ドームに足を運ぶ理由」はそれぞれあっても、「ホークスを応援する」という目的は、ドームに来ている大勢のひとたちと、同じなのだ。
もともと福岡人は、地元愛がほかの県よりも強い気がする。
私自身も、福岡が大好きだ。それ故に、「地元の球団を応援しよう! 」という気持ちが、ひょっとしたら強いのかもしれない。
リーグ優勝が決まった日、地方テレビ局が、深夜にこぞって特番を組んでいた。クライマックス優勝時も、各番組で取り上げられていた。
家でビールを飲みながらその特番を見ていると、福岡中の人たちが全員、リーグ優勝を、クライマックスシリーズ優勝を、祝福しているような錯覚さえ覚えた。
福岡市内に住んでいると、ソフトバンクホークスファンが、自然と周りに何人かいる。
その人たちち連れられてドームに足を運び、ホークスに魅了される。
そしてまた、ほかの友達を連れて、ドームに足を運ぶ。
いつからか、ソフトバンクホークスは、私の生活の中に溶け込み、「どこか気になる存在」となっていた。
この気持ちはやはり、恋に近いのかもしれない。
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