イタリア旅行の失敗談 「××ミラノ」は「サイタマ」だった!
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記事: 森 団平(ライティング・ゼミ平日コース)
旅で大事なことは何だろう? 絶景、ご当地グルメ、出会い等々。
人によっていろいろあると思うが、僕はホテルにもこだわりたい派だ。
自由に回りたいのでツアーには参加せず、計画は全て自分で立てるようにしている。
ホテルの予算にはもちろん限りがあるが、味気ないビジネスホテルよりは雰囲気がいい所がいい。ごはんも美味しい所だとなお素晴らしい。そんなホテルを探して予約するようにしている。
結婚して間もないころ新婚旅行(2回目)と題して、イタリア旅行に行くことになった。
ミラノから入ってイタリアの各地を回り、ローマから帰ってくる計画だ。
旅の始まりの場所、ミラノでの宿泊は某予約サイトで、「ミラノ」で検索して中世のお屋敷っぽいホテルを選んだ。料金もミラノとは思えないくらいリーズナブル。
JALの直行便で、夕方にミラノ国際空港に到着、電車でミラノ駅に向かう。ミラノ駅を出ると夕日に染まる古い街並みが僕たちを迎えてくれた。
そこからはタクシーでホテルへ直行だ。タクシー乗り場でホテルの名前と住所を見せて向かってもらおうとすると、タクシーのおじさんがなぜか首を振っている。
イタリア語は話せないので片言の英語でなんとか教えてもらった結果、
「そのホテルはだいぶ遠いから、ミラノのタクシーじゃ乗せてあげられないんだよ」
とのこと。
そんなはずはないはずと思って、予約したページを改めて読むとそこには、
「ニア」ミラノの文字が……。
地図を開いて確認するとミラノ駅からホテルまで約30キロもあった。
もしここが東京だとして30キロ移動したとすると、それは埼玉じゃないか!
それを、ニアトーキョーって言う? 言うか? 言うのかもしれないが、「そりゃないよ」と取り敢えず心の中で突っ込んだ。
既に夕日は沈もうとしている時間、僕と奥さんはミラノ駅で途方に暮れた。
黙って突っ立っていても、宿には着かない。行動あるのみと僕が選んだ行動は、とにかく予約した宿に向かう事だった。
もし、今の僕なら予約したホテルはすっぱり諦めて、駅の近くの宿を取り直す選択をするかもしれない。だけど、当時の僕は決めていた宿に泊まる事しか頭になかったのだ。
奥さんに考えている事を説明する。
「ちゃんと宿に着けるの?」
怒っているというよりは不安そうだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになる、これは予定を組んだ僕の完全なミスだ。
駅員さんに地図を見せて行き方を聞いたところ、その方面へは電車は走っていないらしい。地下鉄で移動して、バスターミナルでバスに乗り、終点でまた乗り換えてバスに乗れば目的地へ着けるとのこと。
行けるか? 初めて訪れた場所、片言の言葉、そしてだんだんと迫る夜。
不安になる要素しかない。
地下鉄を降り、バスターミナルで、どのバスに乗ればよいのか迷っていたら、見かねたのかヒゲの立派なおじさんが声をかけてくれた。片言の英語で事情を伝えると、バスの番号と、降りるべき停留所の名前を手帳に書いてくれた。
お陰でミラノから無事バスに乗り、宿のある街「ネルヴィアーノ≒ニアミラーノ」(なんとなくゴロが似ている気がする)に向かうことが出来た。
降りるときにバスの運転手さんに乗車賃を払おうとしたら、乗る前にチケットを買うシステムだったらしく、
「しゃーないからサービスしとくよ」と降ろしてくれた。あーまた失敗した。
イタリアの人は、なんだかおおらかで優しい気がする。
色んな人に助けられてやっとたどり着いたホテル、明るく照らされた看板を見つけた時はちょっと泣きたくなった。
時刻は既に夜10時を回っていたが、フロントのお姉さんが暖かく出迎えてくれる。
チェックインを済ませると疲れがどっと出た、旅行初日からこんなに冷や汗をかくとは。
奥さんも疲れたのだろう。何も食べずにベッドに一直線で潜り込んで寝てしまった。
次の朝、種類豊富な朝食バイキングを前にして、奥さんも元気を取り戻したようで、ご機嫌でお皿一杯にフルーツを盛り付けている。取り敢えず良かったと胸を撫でおろした。
改めて辺りを見渡すと広がる青々とした牧草地、小川が流れる牧歌的な風景が広がっている。余所行きではないイタリアがそこにあった。もし、昨日諦めていたらこの風景を見ることもなかったのだろう。
信じられないようなミスだったけれど、お陰でイタリアの人たちの暖かさに触れ、普通に旅していれば見ることが出来ないような景色に出会うことが出来た。
今でもこの時の失敗は、奥さんと時々「あの時の夜は怖かったねぇ」と笑いながら話す。
ツアー旅行のように全て予定通りの旅も楽しいが、自分で計画を立て予想もつかない失敗をしてなんとか乗り越える。それもまた、旅の醍醐味なのかもしれない。
***
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