メディアグランプリ

産後鬱になりかけていた私を救ってくれた一冊


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記事:恩田 遥(リーディング&ライティング講座)
 
 
赤ちゃんは可愛い。可愛くてかわいくてしかたない。でも、初めての出産を終えて4カ月経つ頃から、私は淋しくて淋しくて、孤独で孤独で、辛くてたまらない気持ちになることがあった。
 
私は30代半ば。大学を卒業してからずっとバリバリ働いてきた。仕事柄、朝は8時前には出勤。夜はいつも21時過ぎに帰宅。帰宅後も最低限の家事をこなしたらまた仕事をするという生活だった。土日もどちらかは持ち帰り仕事をしていたし、もう一日の休みは息抜きに遊びに行くことにしていたため、日々追われるような毎日だった。でも、そんな生活が私には楽しかった。
 
4カ月の息子はまだ、1日中ねんねをしている状態だった。1日が長く感じる。外にそろそろ連れ出そうかなと思っていた矢先、コロナが蔓延。赤ちゃんを連れていける施設も閉鎖。小さな子を連れて電車に乗るのもはばかられるし、他の人と会うのも、もしもを考えると恐ろしくて、結局一日中2人きりだった。夫は仕事が忙しく、毎日23時をまわってから帰宅。本当に2人きりのワンオペ生活が続いた。復帰後を考えて、仕事に関する勉強をしようと妊娠中は思っていた。しかし、不思議と、心が沈んでいるとやる気が出ない。なんとなく、赤ちゃんの世話と家事とで一日が終わっていくことに、人生の無駄使いをしているんじゃないか、自分はダメな人間だと思えてしまう日が続き、鬱々としていた。
 
5カ月になり、離乳食が始まると、いよいよその鬱々とした気持ちは強くなっていった。月齢が進むにつれ、食べる回数も増え、どんどん赤ちゃんにかける時間が増えていった。本当に一日が赤ちゃんの世話で終わっている毎日だった。
自分のやりたいこと、今日は何もできなかった……。自分は、社会からどんどん置いてきぼりになっているんじゃないか。でも、色々な人のブログを読むと子育てしながらも復帰後を見据えて勉強や趣味を両立している人もいる。やっぱり自分がダメなんだと余計に気落ちした。
 
そんななか出会った「母ではなくて、親になる」
この本のおかげで、やっと肩の力が抜け、心がふっと軽くなった。
作家の山崎ナオコーラさんが、妊娠中から子どもが1歳になるまでの間に思ったことを1カ月ごとに綴ったエッセイ集である。こういう育て方をしたらいいとかそういうことではなく、とても淡々と、そして押しつけがましくなく、日々育児を通して思ったことを書いている。でも、だからこそなのか、読む時々で心にしみる言葉、刺さる考え方がある。
 
「泡の時間」
おむつを替えたり、授乳している時間を、私の過ごしている育児に終わる毎日を「泡の時間」と表現していた。そう、それだ! 的確に言い表していると思った。
「『自分の時間を子どもにあげるので、母親は大変だ』といった科白(せりふ)を聞くことがある」
うんうん、まさに私の気持ち!
 
でも、ナオコーラさんは、やりたいことがあるのに時間が足りないと思っていらいらすることはあっても、「赤ん坊の世話も私のやりたいことだし、赤ん坊と一緒のときも私自身として生きているので、赤ん坊に時間を使ってあげている感覚は湧かない」と言っていた。当たり前のことかもしれないけど、そうだ……何も嫌々やっているのではない、子育てだって私のやりたいことだったと気づいた。
 
さらに、「赤ん坊と過ごしている時間が、この先に何にもならなくてもいい。私が今、赤ん坊と一緒にいて楽しい、それだけでいい」という言葉は刺さった。
「何にもならなくていい」私はいつのまにそんな風に思えなくなっていた。
社会人になってからは、仕事に繋がりそうなことや、自分が成長しそうなことをすることに重きを置いていた。でも、なにも仕事をしたり勉強したり、趣味の時間をもつことだけが有意義な時間というわけではない。未来の役には立たないかもしれないけれど、ただ純粋に楽しいし幸せだと感じることができる時間。そんな時間を過ごせるのは何にも代えがたい素晴らしいことじゃないかと気づけた。
 
タイトルの「母ではなく、親になる」とはどういうことなのか。
この言葉の意図することは本書を読むとわかり、さらに気持ちが軽くなる。
毎日、育児ばかりで辛い……こんな自分でいいのかな……と感じているお母さんたちにはぜひこの本を手に取ってもらって、このタイトルが意味するところを知ってほしい。
きっとこれまでとはちがう、明るい明日が迎えられるはずだ。
 
***
 
 
 
 
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2020-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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