「頼まれごとは試されごと」―ボランティア活動の功罪―
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:永井 廣子(ライティング・ゼミ平日コース)
「頼まれごとは試されごと。返事は『はい』か『喜んで!』しかない」
これは楽しすぎる飲み会の最中にSさんに言われた言葉だ。
Sさんは私が住んでいる市の小中学校100校を束ねるPTA連絡協議会(市P連)の会長を引退して顧問をしていた。
確か、私が市P連の副会長になって間もなくのことだったと思う。
私が「誰に試されているのですか?」と聞くと「天に」と、珍しくまじめな顔で答えていたのが印象に残った。
もちろん頼まれごとを引き受ければ良いというものではなく、引き受けた役割に対する覚悟や心構えや取り組み方を問われているのだと思った。
「個人的に称賛されたいからではなく、天に喜ばれるためにやっているのか……」
訳も分からずに引き受けた市P連の役員だったが、その言葉に感動した私は素直に「見習いたい」と思い、天に喜んでもらおうと一生懸命取り組んだ。
Sさんほど面白い人を私は見たことがない。
頭の回転が速すぎて考えていることに口が追い付かず、壇上でのあいさつの時によく噛んでいたが、面白いことを言ってうけた時に物凄いドヤ顔をするのが印象的。
やんちゃ坊主がそのまま大人になったような人で、いつも周りに人がいないと嫌で、明るくて楽しくて人を喜ばせることの大好きな寂しがり屋に見えた。
曲がったことが嫌いで、カリスマ性があり慕っている人も多かった。
だが一方で、自分ができるので他人もできるだろうと思ってかなり厳しいことも言うし、忖度を知らずに正論をぶっ放してしまうところや、気が強くて喧嘩っ早いところがあるので、プライドが高い人には嫌われることも多かった。
欠点がたくさんあるのに、やらかす事が面白くて放っておけず、それが周りの人がついつい手を貸したくなるような、人としての魅力になっている気がする。
そしてSさんはその言葉通りにたくさんの役員を引き受けていた。
「嵐を巻き起こす男」と言われていて、いつも忙しそうだったが、会社の経営をしながら社会貢献をするその姿は尊敬できたし、私も影響を受けて、たくさん社会貢献をしたいと思うようになった。
市P連の役員の任期がおわってからも、Sさんとは飲み会やボランティア活動などで顔を合わせていたが、何度か「頼まれごとは試されごと。返事は『はい』か『喜んで!』しかない」という話をみんなにしていたのを覚えている。
大切にしている言葉なのだろうと思って聞いていたし、私もいろいろな「頼まれごと」が目の前に現れるたびに、覚悟を決めて引き受けることが多かった。
そもそも私がボランティア活動をするようになったのは40歳になる頃だった。
「もう人生の折り返しだが、何もできていない。私はいったい何のために生まれてきたのだろう」と思っていた時に、友達に勧められて、よくあたると評判の高尾山の麓にいる占い師に観てもらった。
その人に「目の前に現れることを一つひとつしっかりやっていくこと。一日一善を心がけること。募金でも何でもコツコツと善い行いをすること」と言われた。
それで「何か目の前に現れたらなるべく断らずに挑戦してみよう」と覚悟を決めた。すると、本当にたくさんのボランティアや役員の話がやって来たのだ。
「人の嫌がることを引き受けるのは、陰徳を積める良い機会だ」そう思って引き受けたものも多く、その生活は10年以上続いた。
そんな訳で、少し前まで私はたくさんのボランティア活動を抱えていた。
やってみたら意外にも楽しく、そこから広がる人間関係はとても魅力的だった。
地域の活動でも役員の当番があり、公民館やまちづくりセンターや区や市の会議に委員として出席をしたり、親としての意見を聞かれたりする機会も増えていった。
そのご縁で知り合った市の職員さんや会議のメンバーの皆さんには「この人と出会えてよかった」「この人の活動を近くで見ることができてすごく勉強になった」「こんなことを知っているなんて凄い!」「ものの見方や取り組む姿勢が素晴らしい! ぜひ見習いたい」などと思える素敵な人が多く、一人の人間として大切なことを学ぶ機会を惜しみなく与えていただいて、得られることがとても多かったし、地域の方々に育てていただいたという実感がある。
「そんなに良い事ばかりな訳ないよね?」
よく聞かれる。
もちろん良かった事ばかりではない。
家事を必死で片付けて、子どもを置いて夜の会議に出なければいけない時には、罪悪感があったり気がかりだったりと、切ない思いをこらえていた時もある。
大人のボランティアにも「いじめ」はあり、その標的になったこともある。
同じようにつらい思いをした人もかなりいるだろうと思う。
「何とかならないだろうか?」と、何度も相談を受け愚痴も聞いた。
他人に自分を認めてほしくてボランティア活動をしている人もいるので、なかなか難しいが、いじめをするその人が等身大の自分を自分で認められるようになることが、解決の一番の近道だと思う。
誰が悪いわけでもなく、ただ相性が悪くて一緒にいられない場合もある。
波長が合わないと、同じ日本語を喋っているはずなのに、言っていることの意味がお互いに通じないのだ。これには神経が参ってしまう。
それに加えて最近は「クレクレ星人」も増えてきている。他人の時間を奪うことや他人に何かしてもらうことを当たり前だと思っていて、感謝の気持ちもない人がいる。
残念ながら、そんな人間関係の悩みを抱えて落ち込むこともあるのだ。
「自分がその立場だったらどうする?」
ちょっと考えてみてほしい。
このコロナ禍で誰にも相談できずに、その人たちとどう向き合えばいいのだろうと、私はひとりで悩んでいた。
そんな時、お気に入りのYouTubeで断捨離の話をする男性が、Sさんと同じ「頼まれごとは試されごと。返事は『はい』か『喜んで!』しかない」という話をしていたのだ。
久しぶりに聞いたその言葉に、私の心は市P連の副会長をしていた頃に一気に引き戻された。
そして、あの頃の仲間たちの一生懸命だった様子や、それからの自分が経験した様々なことを思い出し、感謝の気持ちでいっぱいになった。
そのYouTubeでは「あなただからお願いするのだ。あなたにぜひやって欲しい。そう言われたものを引き受け、経験することによって魂が磨かれ、天職につながっていく」と言っていた。
涙が出た。
天は今の私に何を望んでいるのだろうと真剣に考えた。
「いつかは分かってもらえるだろう」と信じ耐えて頑張ることだけが最善ではないのかもしれない。
私が手を貸すことで他の人の学びの機会を奪ってしまう場合もある。
他人のことを痛めつけて平気でいる人に対して「嫌だ」と言える強さを身につけることが、今の自分に与えられた天からの「お試し」なのかも知れない。
そう考えたら、スッと腑に落ちて気が楽になった。
時空を超えてあの時のSさんに励まされた気がした。
もし悩みを抱えているのなら、それはもう手放していい。
心を病むまで耐えて頑張り続ける必要はないのだ。
「よく頑張った! いつの日かいい経験だったと思える時が来るからね」
「もう無理しなくても大丈夫だから、自分の心に正直に生きていいよ!」
そう言って笑おう。
いろいろな経験をするからこそ、きっと、もっと強くなれる。
***
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