僕がクリスマスイヴに怪談に浸るほどに、会社の売上げが上がる理由
記事:岸★正龍(ライティング・ゼミ)
これを書いているいまの時刻は、12月24日の23時過ぎ。
日本のGDPを上げるのに尽力した熱い恋人達は、高い確率で性なる夜を過ごしている時刻と拝察しております(下品な表現でWEB天狼院を汚してしまって申し訳ないと思いつつ、だって本当だからしょうがないじゃん、と開き直る聖なる夜)。
ひるがえって本日の僕を見ると、毎年恒例で絶賛怪談浸り中。
「は? なんでクリスマスイヴに怪談?」と思われたあなた。イギリスでは古くからクリスマスになると暖炉を囲んで怪談話に興ずるという伝統があるのですよ。
だからなのかはわかりませんが、サンタクロースがでてくる読後感ウルトラ最悪な話だってちゃんとあり、それは(有名なのでご存知の方も多いと思いますが)こんな話です。
クリスマス、
トムはサンタクロースからのプレゼントを楽しみにしていた。
朝起きるとクリスマスツリーの下に
プレゼント箱が3つほどあった。
窓からサンタが中を覗いているのが見える。
サンタはニタニタと笑いながらトムを見ている。
トムはニタニタ笑っているサンタを見て
少し不機嫌に思いながらもプレゼントの置いてある所に行った。
トムはまず一つ目のプレゼントを手に取った。
サンタは更にニタニタと笑っている。
プレゼントの箱を空けると中から長ズボンが出てきた。
トムは少しがっかりしたような表情をしながらも次の箱を手に取った。
サンタは腹を抱えて笑っている。
二つ目の箱を開けると中からサッカーボールが出てきた。
トムはますます不機嫌になり、とても腹が立った。
トムは続けて一番大きな最後の箱を開けた。
すると中から自転車が出てきた。
サンタは雪の上を転がりまわって笑っている。
トムはとうとう耐え切れなくなって泣き出してしまった。
生まれつき
トムには
足がなかったから……
主人公の名前がトムではなく、マイケルになっている場合もありますが、まさにメリークリスマス=楽しいクリスマスを! に中指立てた嫌な話です。
そして僕はクリスマスイヴの間中、本やネットやストリーミングやDVDからこういう嫌な話や怪談を拾ってはそれに浸り続けるのです。だってそうすればするほど会社の売上げが伸びるのですから!
と言っても僕は怪談を販売する仕事に従事しているのではありません。メガネ関係の零細企業の経営者をしています。
ここで、普段メガネをかけられていない方のために、いまのメガネのトレンドをお話しします。大きく分けてふたつ。昔おじいちゃんがかけていたような「クラシックスタイルと言われるメガネ」と、ショッピングモールに出店しているチェーン店が店頭で山積みしている「軽くて壊れにくい(そして安価な)素材を使ったメガネ」です。
これに対して僕の会社は「機能面ではまったく無意味なギミックが詰まったゴツクて重いメガネ」を主力商品として扱っています。メガネ業界のトレンドとはまったく逆の道を突き進んでいるわけです。
つまり「異端」。「異端」を売る経営戦略。僕の会社のような零細企業は大手が主戦場とする「王道」リングで戦っても負け戦が見えているので、「異端」に逃れ、ニッチなターゲットを相手に販売をして生き残る作戦です。
そんな「異端」が売りの僕がクリスマスイヴにイタメシとか、シャンパンとか、シティホテルとか言っていたら幻滅しますよね? 「異端」が売りなら「異端」が売りらしく「異端」を押し出した過ごし方をしないといけない。
だから僕はクリスマスイヴに怪談に浸っているのですし、浸っていることをSNSで拡散するとブランドの「異端度」が上がってファンの方が喜んでくださり、ひいては売上げが上がるというわけです。めでたし。めでたし。
なんて。
こんな感じでまとめると、きれいですよね?
けれど残念ながら、くだらねぇことほざいてんじゃねぇよ!です。
人間をなめるなバカタレ!です。
人間には「察知する」という素晴らしい能力が備わっています。
大手の「王道」には勝てないから「異端」でいく? その「異端」を「異端な行為」で補強する? はははははははは、笑っちゃいます。そんな小手先の考え、そんなペラペラな意志や行動は、すべて簡単に見透かされます。と言うか、インチキ臭さ、ペラペラ感を瞬時に察知され、誰も近づいてきてくれません。
実際、僕の周りには「売れているから」とか、「誰もやっていないから」という表面上のペラい理由で商品の取り扱いを決め、調子に乗って大量に仕入れをし、けれどそれがまったく売れず不良在庫になって資金繰りに詰まり地獄を見る、という例が数多あります(恥ずかしながらつけ加えると、商売を始めた頃の僕もこうして地獄に落ちた一人です)。
そうじゃなくて! そういうペラい理由じゃなくて!
零細企業には、絶対に圧倒的な「熱」が必要です。
それが好き、好きで好きでたまらない、それのためなら死ねる、という「熱」。その「熱」があれば「王道」だろうが「異端」だろうが生きていけます。とうか零細企業が大企業に勝てるのって「熱」しかないのです。実際、王道中の王道のクラシックスタイルが好きで好きで死にそうで、好きが高じて店を出し、並み居る大手を蹴散らして地区ナンバーワンになっている友人がいますし、天狼院の近くにも爆弾級の「熱」を放射している安さ全面押しのお店だってあります(個人的には大好きな匂いの店です)。
僕の場合は、なんだか知らないけど「異端」に惹かれるのです。生まれる瞬間に「異端」が性格に潜り込んだんじゃないかと思うくらい「異端」が僕を魅了するのです。たとえば週刊少年チャンピオンが漫画週刊誌の王者だった小学校のとき、同級生が「ドカベン」や「がきデカ」に夢中になっているのをよそに僕は「魔太郎がくる!」に夢中で、世の中が「なんとなくクリスタル」(田中康夫)に浮かれていた大学時代にはバロウズやケルアックに傾倒し、怪談で言えば名古屋に住んでいるのに夜中に開催される怪談を聞くためだけに東京や大阪に新幹線の終電で出かけ始発で戻ることを繰り返し、メガネで言えば「機能面ではまったく無意味なギミックが詰まったゴツクて重いメガネ」を世界の誰よりも愛しています。語れと言われれば365日24時間語り続けます。好きなのです。好きで好きでたまらないのです。それはもう身体を斬ったら血の変わりに「異端」が流れてくるのではないかというくらい。
わかっていただけますでしょうか?
僕がクリスマスイヴに怪談に浸るのは「熱」のためなのです。「異端」を愛する者として、世の中に中指立てて「熱」を溜めているのです。誰にも知られることなくてもいいのです。僕は僕の中に「熱」を溜めるのです。やがて沸点に近づき、そして噴火するそのときまでジッと溜め続けるのです。
これを書くことで、お店としてかき入れ時のクリスマスイヴに、怪談を見て遊んでいたことを正当化したいわけではありません。決してありません。いや、それは、その、あの、ええ、ありませ…………ごめんなさい。すいません。あります、あります。実のところは正当化したいです! だってクリスマスイヴの怪談浸りは、年に一度のたのしみなんですから。世の中が性なる夜に精を出している時刻に怪談に浸るこの感じが好きで好きでたまらないのですから!
だからスタッフの皆さま。どうかどうか僕のわがままを、クリスマスプレゼント代わりに許してください。よろしくお願い申し上げます。
追伸
イギリスの怪談に興味を持たれた方、この本がオススメです。
イギリス怪談集 由良君美 (編集)河出文庫
古い怪談を19編集めた本であり、読みごたえあります。
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