伝承ということ
記事:Shoji THX Yamada(ライティング・ゼミ)
日本の正月は、伝承されていることが多数有る。
皆さんも、各自独特のルーティーンが年末年始にあるでしょう。
新年を迎える飾り物、大晦日に観るテレビ番組、どこへ初詣に行くか、新年のスポーツは何を観戦するか、初売りは何処へ行くのか、といった具合である。
昨年末、あるテレビ番組で伝承手法を受け継ぐ漆職人さんの話に感心した。
漆家さんと関係が深い仏壇職人の孫である小生は、興味津々で見入った。
生前祖父は「金箔の保ちは下地の漆で決まる。どんなに腕の良い仏壇職人でも、ヘボな漆の上にはマトモな金箔は貼れない」
と言っていた。その方面の手解きを全く受けていない小生には、十分理解出来ないが、祖父の言葉なので一応鵜呑みしている。
番組に登場された漆職人さんは、御年80は優に越えて見えたが、背筋が伸びた見事な姿勢で、黙々と名人芸で仕事をこなして居られた。
手を休めて仰ったことに、ハッとさせられた。
師曰く
「伝承と伝統を混同してはいけない」
“伝承”とは、古くから受け継がれ今後も同じ形で残されていくものだそうだ。
一方“伝統”を広辞苑で引いてみると
「ある民族や社会・団体が長い歴史を通じて培い、伝えて来た信仰・風習・制度・思想・学問・芸術など」と有り、「伝統を受け継ぐ」「伝統のある学校」と使うらしい。
しかし、師の意見は違った。曰く
「“伝統”とは、伝承された技を持った職人が、その時のベストと思われる改革を施したもの」
だそうだ。
すなわち、伝統とは新しいものを含むというのだ。
同じく昨年末、懸案であった国立競技場の新デザインが決まった。
木材を多く使った、デザインらしい。
小生は、少々驚いた。
ご存知の方も多いと思うが、1940年にオリンピック東京大会が開催される予定だった。
戦争の激化で、結局のところ開催返上となった。
開催返上の決定的理由が、戦争(日中戦争)が長引き軍需物資であるセメントや鉄材が、競技場建設に使えなくなり、木造にせよと軍部からの強い要請が有った為と、文献で知っていた為だ。
またしても、木造にすることで開催返上の事由にならないかと、思わず考えてしまったのだ。
これは東京に限ったことではないが、日本には歴史を感じる建築物が少ない。
勿論、奈良や京都に見られる神社仏閣は有るには有るが、極めて稀であり、全て木造だ。
映画好きの小生は、映像ではあるが、ニューヨークやパリの建設から100年は越えているであろう、石造りの建物をよく観掛ける。
観るだけではなく、愛着が沸いて来る位だ。
日本の都市には、見られない光景だ。
歴史を刻んだ、重量感が有る美しいビルディングが好きなのに、実に残念だ。
そういえば、ホテル オークラのあの美しい本館も今はもう亡い。
現在、三井本館が再建中の日比谷に以前、「三信ビル」というアールデコ様式の美しい建物が有った。家主が三井信託銀行だったので、その名が付いていたのだろう。
大好きなビルであったが、過去形で表記しているのはもう取り壊されて姿を消しているからである。
戦災を逃れ、戦後はGHQに接収されたほどの素晴らしい建物が、いとも簡単に亡くなったことは、悲しみに耐えない。
勿論、地震が多い日本では建物の耐用年数が低くなるのは致し方ない。
旧歌舞伎座の様に、内部の構造が耐震基準以上に、著しく時代にそぐわなく成った(座席が狭過ぎ! )場合は仕方がない。
しかし、第一生命ビルや明治生命ビル、はたまたJR東京駅の様に、外観だけでも原形を留める努力は出来なかったものかと思ってしまう。
旧東京中央郵便局建て替えに関して、大幅に取り壊された旧ビルを見て、暴言で名高い某大臣が
「トキを焼き鳥にしてどうすんだ! 」
と言った話は有名だが、思わず心の中で同意してしまったことは否めない。
このように、震災や戦災が有ったにせよ、日本に愛着が沸く歴史的建物が少ないのは理不尽でならない。
日本の街に魅力を感じられないのだ。
その上、これは心配なことなのだけれど、横浜の三塔のように建設当時のまま残った貴重な建物が、十分なメンテナスを受けていないように思える。
いずれは取り壊されるのではないかと、気が気ではない。
これは、国民性の問題になってしまうのだが、ドイツでは、戦災で破壊されたドレスデン国立歌劇場が、それこそ一つ一つ残された石を拾い集め、長い歳月を掛けて再建された例が有る。
日本ではどうだろう。
今後も、このような事例は出てこない気がしてならない。
充分な検討の後、真の改革を踏まえた伝統で、“変えない”という決断が出来る時代になってほしい。
その時こそ、美しい魅力に満ちた伝承が、為されることになると思うからだ。
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