まるで恋? それは子育て
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記事:岩槻まなみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「大きくなったらパパと結婚する!」
我が家には二人の娘がいる。二人とも幼い頃からずっとパパが大好き。パパも娘たちにゾッコンだ。妻の私にはいつも冷静な夫が、娘たちにはバカがつくほど甘い。
「パパとママと、どっちが好き?」夫の質問に私は鼻で笑ってしまった。
「パパ、大好き! エリは大きくなったらパパと結婚するの!」
幼くても女の子は賢い。パパを喜ばすツボを心得ている。自分の味方につける口のうまさは天下一品だ。
それは女子大生となった現在も変わらない。
「パパとママが離婚したら、エリはどっちにつく?」相変わらず夫の質問はアホだ。
「パパは一人だと食事のこととか何もできないでしょ。だから私はパパと一緒にいるよ」
むろん離婚の話など全くない。これは娘の愛情を確かめるための質問だ。
ニヤニヤしながら報告にやってきた。
「エリは、ママよりもパパが心配だから側にいたいんだってさ。しょうがないやつだなぁ」
「それは、よかったね」
一応、返事しておいた。
娘はその後、お高めの時計とバックをパパからちゃっかりゲットしていた。口の巧さは健在だった。
もともと、夫も私も「子ども好き」ではなかった。
甥っ子や姪っ子でさえ、どう扱っていいのか悩んだ。ほんの1時間ほど一緒に遊んだだけでぐったり疲れてしまう。
それが、なぜか自分たちの赤ちゃんを身ごもった瞬間から、私は俗に言う「母性」がムクムク湧いてきてきた。生まれてからは、授乳の度に「可愛いね!」と娘に話しかけ、愛しさが止まらなくなった。
夫は、最初こそぎこちなかったものの徐々に愛情が溢れていき、イクメンへと変身していった。
これには理由があるらしい。脳にオキシトシンというホルモンが出ているからだと本で読んだ。
オキシトシンは、相手を信じ、幸せを感じるホルモンと言われている。
例えば、人工的に鼻にオキシトシンをスプレーされると、目の前の他人を信じてしまい、たとえ不利な契約を要求されてもサインをしてしまうそうだ。効果が切れた瞬間に我にもどって疑問が湧くが、またスプレーされると再び信じこんでしまう、相手に尽くしたくなる、そんな効果があるということだ。
出産時にオキシトシンのシャワーを浴びた私は、娘たちが自分の命よりも大切な存在になった。どんなことがあっても守ろうと心が強くなった。
夫は、以前よりも帰宅する時間が早くなった。娘たちをお風呂にいれるためだ。オムツ替えも絵本を読みながら寝かせることも夫だ。おっぱいを飲ませることができないぶん、この役割は私には渡したくなかったようだ。
「本当にかわいいな。恋している気分だよ」
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。が、夫の表情を見ていると分かる気がした。娘と視線が合っただけで顔がニヤけていた。
夫の娘たちに対する愛情、娘たちが幸せのためなら苦労をいとわないという姿勢。オキシトシンは人の性格をこれほどまでに変えるのか。どれほど巨大なパワーを持っているのか。そして、いつまで効果は続くのだろうか。
オキシトシンは幸せホルモンというが、同じくらい意外な作用がある。それは、他者に対して「排他的になる」ということだ。
オキシトシンが分泌されると、仲の良い人とはさらに強い信頼関係を結び、そうでない人に対しては排除しようとする。しばしば攻撃的になるらしい。
そう言えば、子育てをしている動物をテレビで見たことがある。警戒心が強く、子どもに近づいてくるモノに対して異常に攻撃的になっていた。
顧みると私も同じだ。
確かに自分の子どもが一番大事で、あらゆる敵から守ろうとしていた。
見ず知らずの他人の汚い手で、娘にベタベタ触わられようものなら虫唾が走ったものだ。
2020年、日本の出生率は1.36という。
「生涯未婚率」は男性が23.4%、女性が14.1%。男性の3人に1人、女性の4人に1人は未婚だ。結婚しない理由は「金銭や行動の自由度を確保したい」とか。
結婚後のアンケート調査で「子どもを持ちたくない」あるいは「一人でおさえたい」、その理由として、「家計の圧迫」が大きな理由をしめることが明らかになっている。
皆、それぞれの人生がある。結婚や出産は個人の自由だ。個人の意見や世間がどうだからと、個人の価値観が冒涜されることはあってはならないと思う。
それでも、あえて言いたい。
子育ては幸せを連れてきてくれる。家庭に小さな子どもがいるということは、それまでの人生では考えられないような驚きや発見がある。なんと言っても恋愛にも似たワクワクした気持ちが味わえる。
娘たちの寝顔を見るだけで、お金や自由な時間が減ったことなど埋められるし、余りある幸せがもらえる。何とか多くの人に子育てを経験してもらいたい。
この恋する気持ちを味わってもらいたい。
私たちは、子どもたちの成長を通して、たくさんのことを勉強させてもらった。たくさんの幸せをもらった。
子どもたちには、輝く未来が待っている。無限大の可能性が待っている。
パパもママも負けないようにまだまだ人生を楽しむつもり。
そして、これからもあなたたちから学ばせてもらうね。
ありがとう。そして、これからもよろしくね。
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