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3度目の受験 ~私に足りなかったもの~


Koikeさん 受験

記事:Ryosuke Koike(ライティング・ゼミ)

 

通勤途中に高校生の集団を見かけた。大学入試だろうか。
雪が降り積もった1週間前に比べ少しは暖かくなっているものの、インフルエンザも流行りはじめたということもあってか、マスクにマフラーと完全防備している。

私にも同じような時期があった。
十数年前のことを思い出してみる。
私は、これまで訪れたこともない関西の地で、雪が降り積もる中、足を滑らせないように試験会場へ向かった。
同世代の知らない受験生に囲まれながら、大学の入学試験を受けていた。
暖房のあまり効いていない部屋の中、凍える手で答案用紙を書きなぐっていた。
直前の模試では「A判定」だった。
日頃の実力をいつものように発揮できれば合格できる水準だった。
自慢話のようで面白くもない話だが、精神的・肉体的コンディションを当日に上手くあわせることができた私は、良いパフォーマンスを出すことができ、無事合格した。

大学入試から遡ること3年。
私は、地元の試験会場へ向かった。
同じ中学からの受験生と一緒に、高校の入学試験を受けていた。
どんな試験問題だったかは、今となってはもう思い出せない。
高校入試の直前の模試も「A判定」だった。
これもまた面白くない話だが、無事合格した。

勉強はできる方だったと思う。
知らないことを覚えることは好きだったし、問題を解くのはクイズ感覚だった。
難しい問題を解くと、夢中になっていたテレビゲームをクリアしたときと同じくらい爽快感を味わうことができた。
現在の中学・高校の勉強内容、形態や試験問題がどのようなものかはよく知らないが、私が中学・高校生だった当時は、よく言われてきたように詰め込み・暗記型の勉強が中心であった。
覚えれば覚えるだけ、解けば解くだけ試験の点数に直結していたので、記憶能力が優れていた私は有利だったのだろう。中学、高校とも、どんどんと成績は上昇していった。
もちろん、そのために朝から晩まで勉強ばかりの日は続いていたけれど。

大人になり、今から2年前ある試験を受けた。
楽勝だろうと思い、特に準備はしていなかった。
当たり前のように、普段どおりにしていれば合格できると思っていた。

数週間後、送られてきた結果通知を見て愕然とした。
目立つような「C判定」の文字。
そんなはずはない、何かの間違いだと思い何度も目を凝らしてみた。
なんといっても、これまでの人生で「C判定」をとったことはなかったのだ。
だがしかし、まぎれもない事実がそこにあった。
思い描いていたよう点数が全く取れていなかった。
もちろん不合格である。

しかし、そんなに落ち込まなかった。
すぐに自分を取り戻した。
今回の試験は準備できていなかったのだ。
また、来年も受ければいい。
来年は、少しでも対策をとって挑めば、問題なくクリアできるはずだ。
今年は運悪く調子が出なかったのだ。
そんな風に、楽観視していた。

今から1年前、もう一度試験を受けた。
前回の反省を活かしたつもりで、そこそこ準備していった。
この位やっておけばいいだろうという程度は用意していた。
私としては手ごたえを感じ、試験会場を後にした。

数週間後、送られたてきた結果通知を見て再び愕然とした。
「なんで!」
思わず声まで出るくらい、前回以上に驚いた。
そこには、「B判定」の文字。
いやいや、ちょっと待てよ。おかしいだろ。受かるくらい必要なことはやってきたのに。
もちろん、1年前よりは良い判定である。
でも、「A判定」じゃなきゃだめなのだ。意味がないのだ。
というより、自分自身を許せないのだ。

何が足りなかったのか。どうすればよかったのか。
理由がわからず、しばらくもやもやとした日を過ごした。

数日後、あらためて結果通知を見てみた。
変わらない文字。
情けない。

厳しい現実にもう一度直面し、より落ち込んだ。
けれど、次第に心の底に何だか熱いものが湧いてきた。
怒りに似た感情であるが、少し違う。
次こそは絶対に合格してやる。
何が何でも「A判定」を取ってやる。
ようやく気付いた。

私に足りなかったものは、結果を出すために必要な努力とやってやるという意志だった。
これまでの成功体験からか、何はともあれ最終的には自分はできる、上手くいくという、根拠のない変な自信だけがついていたのだ。
だから、2年前に受ける前も、心の中で色々な理由をつけて全く準備していなかったし、それから現実を突きつけられた1年前の間も、見くびって余裕をかまし本気で取り組んでいなかった。

思い返してみれば、結果的に順風満帆のように乗り越えてきた高校受験も、大学受験も合格のため、計画的に、真面目に取り組んでいた。何としても、描いていた夢を実現しようと強い意志をもって挑んでいた。
合格という栄光のまぶしさに、そこまでの裏の努力をいつの間にか見失っていたのだ。

その日を境に、私は変わった。
徹底的にやることにした。
そのために大好きなものを止めたり、回数を減らした。毎日欠かさず取り組んだ。
外にまで出ているのであろう私の意志と表情の変わりように、以前の私を知る者は皆驚く。
そこまでやらなくてもいいのに。もう十分やってるじゃない。
優しい皆は色々と気遣ってくれる。
でも、甘んじるわけにはいかない。
私は、本気なのだ。

そして、今から約1か月後に3度目の挑戦の日がやってくる。
実のところ、ここ最近は思うような点数が出せておらず、成績は芳しくない。
1年という期間は長い。ここまで頑張ってきたけれど、息切れしてきたのか、ときに誘惑に負け投げ出したくなる。
仕事も家庭もあるし、正直しんどい。

そういうときは、本棚の奥底から2つの結果通知を取り出してみる。
現実を見ていなかったあの頃。
負けるわけにはいかない。自分に。

筋トレとカロリー制限の日々は続く。
人間ドックの結果通知書から脂肪肝の文字を消し、正常の「A判定」を獲得するその日まで。

 

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2016-02-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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