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ほんとはみんな、助けたい 

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ほのみ(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「あの、すいません。もしよろしかったら、改札までベビーカーを運ばせていただけないでしょうか?」
 
私は意味がわからず、まじまじとその人の顔を見つめた。正確に言うと、意味は分かるのだが、「え? ななな、何とおっしゃいました?」という感じだ。
 
2年ほど前のことだ。私は地下鉄の駅へと続く階段を前に、地上の入り口でベビーカーを置き、これから我が子を固定しているベルトから外して抱き上げ、ベビーカーをたたみ、抱っこしながらベビーカーをかついで地下への階段を降りようと考えていた。
 
そんな時に、駅の階段を上ってきた男性に声をかけられたのだ。ふと見ると、お腹の大きな女性が少し離れたところに佇んでいた。恐らくこれから自身も父親になるであろう男性が、子連れの母親に手を貸してくれようとしているのが分かった。
 
それにしても、だ。
こんな風に、まるでお願いのような、手助けの申し出を受けたことはない。
 
私はそのあまりにも丁寧な申し出にすっかり恐縮し、「いえ、あの、ご親切にどうもありがとうございます。 でも、大丈夫ですので」と口にした。身重の女性がいるのに、知りもしない女性に手を貸すために、少しの間だけでも彼女を地上に一人残してしまうのも気が引けた。
 
すると、彼は食い下がってこう言った。「よかったら、運ばせて頂きたいんです」
 
何ということだろう。そうまで言われてしまったら、もはや抵抗する気は失せた。
 
私は子供を抱え、男性はベビーカーを運びながら、一緒に階段を降りて改札に着いた。私は何度もお礼を言って、パートナー(であろうと推測する)の女性をどうかお大事に、というような言葉で終えた気がする。すると驚いたことに彼も「ありがとうございました」と言うのだ。
 
何ということだろう……!
 
今はもう、都内の駅や公共施設などはかなり整備されていて、その駅にもエレベーターで改札まで行ける入り口があったのだが、その時の私は知らなかった。都内のいわゆる「保育園まぁまぁ激戦区」のようなエリアに住んでいて、自宅の最寄り駅からは一駅離れた場所にある保育園を見学した帰りで、エレベーターのある入り口は見当たらなかった。
 
元々肩凝り持ちの私は、抱っこ紐で子供を連れて外に行くのを早々に諦めており、外出には決まってベビーカーを使っていた。子供は1歳になる前で小さかったし、抱っこしながらベビーカーを運ぶこともあったが、やはり階段などはいつもより神経を使い、注意して上り下りするようにしていた。それに、普段は時間がかかってもエレベーターのある場所を探すようにしていた。内心、その駅にエレベーターの使える場所があるかどうかをきちんと調べてこなかった自分を悔いていた。
 
そんなわけで、もちろん、その申し出はとてもありがたかったのだけれど、その彼の心遣いあふれる言い回しに驚き、感動した。
 
常日頃から、すごく丁寧な言葉遣いをする人なのだろうか。もしくは、申し出を受けた側がその親切心を受け取るのをためらうことを予測して、断れないような言い方をあえてしたのだろうか? そうだとしたら、その戦略に完敗だった。あっぱれとしか言いようがない。
 
冷静にその時の状況を考えてみると、そんな腰の低い言葉で手助けをしてくれようとしているこの人に、「これ以上時間を無駄にさせてはならない。これ以上、余計な気を遣わせてはならない。もう早く引き受けてしまおう!引き受けなきゃ!」という気持ちにさせられた。結果、ありがたいことこの上ないのはこちら側なのに、だ。
 
もしかしたら、一緒にいた女性の口添えがあったのかもしれない。「もうすぐあなたもパパになるんだし、困っていそうなママは助けてあげてよね」そんなやり取りが普段からあったのかもしれない。
 
その少し後、偶然「困っている人と助けたい人」をつなぐ新しいサービスが公開されたというのをニュースで見た。
「道に迷った」「目の前の段差を登れない」などの移動で困っている人とサポートしたい人をマッチングし、近くにいる人がちょっとしたヘルプを提供できる仕組みになっている。スマートフォンのアプリで、リクエスターとサポーターが互いに連絡を取れるようだ。
 
残念ながら、認知度はあまり高くないのかもしれない。2年ほど前のこの出来事を思い出して、連鎖的にそう言えば……、とこのアプリの存在が思い浮かびチェックしたが、対象地域は限定されており、当初からそれほど広がっていないようだ。
 
このサービスは障害者や高齢者には特に需要があるだろうし、困っている人も助けたい人もいるのだから、つなげることができるのは素晴らしいと思う。でも、たとえこのようなものがなくても、人はみな、困っている人がいたら手を差し伸べたいと、きっと思っているんだと思う。
 
手を差し伸べられた側が受け取れるのは、物理的に助けられたという事実だけではない。
 
「こんな風に声をかけてくれる人がいるんだなぁ」
「しかし、あの表現……! どんなに考えても自分には思いつかなかっただろう」
「多くは語らず必要最小限、それでいて、しっかり真心が伝わった」
「何も言わず、地上で待ってくれた女性も、きっと素敵な人に違いない」
 
くだんの出来事は、自分のことで精一杯で、その場に居合わせた近くの人達に気を配る余裕のなかった私に、色々なことを気づかせてくれた。何よりも胸にじわーっと温かいものが広がっていくのを感じた。
 
彼のように、賢くて温かみのある表現のアプローチはなかなかできる人はいないと思う。それでも、スマートじゃなくてもぎこちなくても、私もできる範囲で手を差し伸べたいと思う。
 
心に少しだけ余白を作って辺りを見回してみて、自然とちょっとした手助けができる人が増えたらいいと思う。
 
そして手を差し伸べられたら、ありがたく受け取ろうと思う。自分の不備を恥ずかしく思ったら反省しつつ、その場は甘えたらいいのだ、きっと。
親切心をしっかり頂戴した人から心からの「ありがとう」を言われることだって、きっと少し心をほっこりさせると思うから。
 
 
 
 
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2021-04-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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