人生どん底はチャンスである〜苦難の先にある新しい世界〜
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Noka Yamaguchi(ライティング・ゼミ集中コース)
「いないいないばあ!」
「きゃー!きゃきゃきゃきゃっ!」
空は青。桜が舞い散る公園の芝生に、ちょこんと赤ちゃんが座っている。おすわりができるようになったばかりだろうか。前後左右にゆらゆらと体が揺れて危なっかしい。その様子を、若い両親が愛情たっぷりに見守っている。幸せを絵に描いたような光景だった。
私はそれを横目に見ながら、遠い過去に思いを馳せていた。私にも、そんな幸せな瞬間が確かにあった。そして、どん底を味わったことも……。幸も不幸も、その全ての過去が「今」に私を運んできてくれた。じんわりと温かいものが胸に込み上げてきた。
数年前の私は、朝、目覚めるのが怖かった。
「ああ、今日も1日が始まってしまう……」と、目が覚めた瞬間に絶望していた。理由は明白、息子のことで悩んでいたのだ。
息子は、物心ついた頃には既に、感受性が恐ろしく高く、繊細で敏感な子どもだった。小学1年生にあがる頃には、「死」についてあれこれ悩むようになった。死ぬとはどういうことなのか、死んだらどうなるのか、そんなことを考えているうちに、「お母さんがもし死んでしまったらどうしよう」という思いに囚われてしまったらしい。大人びた思考と幼い感情、そのギャップが激しかった。そして、自分が学校に行っている間に、お母さんに何かあったらと思うと怖くなり、ついには、学校に行けなくなってしまったのだ。
小1にして、息子は死んだ魚のような目をして、家に引きこもった。窓の外では、同級生たちが、「悩む」という言葉の意味さえ知らないかのように、無邪気にふざけ合っていた。
ほどなく、息子は、突然かんしゃくを起こして泣き叫んだり、自分を力一杯殴ったりするようになった。一旦、暴れ出すと、大人の私でも取り押さえることは困難だった。幼い息子からほとばしる負のエネルギーに、私はただただ圧倒されるばかりだった。息子は、心が壊れるほど激しく葛藤していたのだろう。学校に行きたい自分と、行けない自分に。
私は、愛する息子が苦しんでいるのを見るのが、何より辛かった。できることなら代わってやりたかったが、そうはいかない。ならば、私がなんとしても息子を助けてやらなければ。
そう思った私は、藁にもすがる思いで、児童相談センターや療育機関や精神科などに足しげく通い、対応を相談してまわった。また、子供の心に関する本を手当たり次第に読みあさった。セミナーや、栄養療法、エビデンスに乏しい民間療法にまで手を広げた。人生でいちばん「あがいた」時期だった。
その中で得た知識が、今、息子のためだけでなく、私や家族のためにも役立っている。繊細な子の育て方や、心の病気に関係する栄養のことなど、直接的な学びはもちろんのこと、生きる上での心構えといったような、間接的な学びも得た。
子育てに関しては、とにかく「信じて見守る」ことを徹底した。「この子は何があっても大丈夫。自分で考えて、乗り越えていく力がある」と信じた。私があれこれ先回りして、手を出したり口を出したりしていては、息子が自ら考えることができなくなってしまう。失敗する経験すら奪ってしまう。私は、息子から助けを求められるまで、手を出さないことにした。そして、息子が自ら動き出すのをじっと待った。
もう一つ、私のこれまでの価値観を根底から覆す学びを得た。それは、「私自身が人生を積極的に楽しむ」ということだ。私はこれまで、自分を抑えて、人に合わせることをよしとしてきた。何か行動を起こすときも、自分が楽しいかどうかではなく、他人がどう思うかを基準に生きてきた。だが、その生き方を手放すことが、私の幸せ、ひいては息子の幸せに繋がると確信したのだった。
いつだって、子どもは親の背中を見ている。息子に人生を楽しんでほしいのなら、まずはお母さんである私から。「生きるって大変なこともあるけど、基本、楽しい!」息子にそう思ってほしかった。
それからの私は、たとえ、どん底の渦中にいたとしても、少しでも楽しめることに目を向けようとした。最初は、ほんの小さなことから。例えば、好きな音楽を、誰にも邪魔されないようにイヤホンで聴いたり、香りのいい入浴剤を入れたお風呂にゆっくり浸かったり。
そうこうしているうちに、息子はゆっくりと気力を取り戻し、学校にもぽつぽつと行き始めた。私は、昔やっていたバドミントンを再開し、やり甲斐のある仕事にもついた。子供の頃の夢「小説を書くこと」も、趣味として始めた。そして、文章を本格的に学びたいと思い、天狼院書店のライティングゼミにも申し込んだ。
こうして、どんどん新しいことにチャレンジし、人生を楽しむ姿勢を取り戻したのは、明らかに、あの「どん底」があったからだ。どん底はチャンスである。人生を好転させる転機となる。だからといって、頑張りすぎると倒れてしまうので、おすすめは「少しあがいてみる」ことだ。そうすると、自分が信じて疑わなかった価値観の外側に飛びだす可能性がある。がらっと世界が変わるのはこの時である。
とはいえ、苦難の真っ只中にいるときは、こんなふうにポジティブに考えること自体、とても難しいかもしれない。だが、あえて、もう一度言う。
「どん底はチャンスである」
希望さえ捨ててしまわなければ、必ず道は開ける。この先の未来で、「あのどん底があったからこそ、今の幸せがある」と微笑む自分にきっと会える。
ちなみに、息子は今、高い感受性を武器に、芸術の世界へと羽ばたいている。感受性の高さは生きづらさにもつながるが、その性質をプラスに捉えれば、芸術の世界においては最高の武器になるに違いない。
今、私は心の底から言える。
私を「どん底」に突き落としてくれた息子に、「ありがとう」と。
***
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