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連続36年間「日本一」に選ばれた加賀屋旅館の出店でアルバイトして良かったこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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山本 愛子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は18歳の4月、短大生活のスタート共に地元の京都でアルバイトをしたいと思い、アルバイト情報誌をペラペラとめくり眺めていた。当時は、700円の時給が当たり前の時代。そこに1000円の時給が目に入ってきた。京都駅から直結している伊勢丹のオープンビューレストラン8階にある「加賀屋(かがや)」という和食のお店だった。
私の実家と短大の通学路のちょうど途中にあった。時給も通常の300円も高いとなれば、すぐさま応募した。
 
この加賀屋でのアルバイトが、その後の私を変えたと言ってもいいぐらいだ。
 
加賀屋というのは、石川県の和倉温泉にあり、全国の旅行会社が投票する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で連続36年間「日本一」に選ばれたこともある老舗旅館である。
110年以上の歴史があり、皇室や著名人を「おもてなし」してきた。
その旅館が運営する出店(でみせ)が、京都の伊勢丹に入っていた。
 
私が最初に加賀屋を選んだ理由は、時給が高いこと。そして、当時、京都にできたばかりの伊勢丹で、お店が真新しく綺麗だったということだけで選んだ。
ただし、その理由だけだったらすぐに辞めていた。加賀屋のアルバイトはとても厳しかった。
 
加賀屋といえば「伝統のおもてなし」や、「一生に一度は加賀屋に行きたい」と言われる老舗旅館。
加賀屋の「おもてなし」は、小さな気配りと心配りと言われていた。
 
アルバイトをスタートすると、先輩パート・アルバイトから教えてもらうことは多い。
伝統を守ることは簡単なことではない。お客様の期待もとにかく高い。その期待を裏切らないようにと、先輩からのアドバイスは非常に熱かった。
 
店舗に入ってくると、大きな壺に入った季節を彩る生け花。そして、目の前一面に広がる京都の景色。
お客様が食事を楽しみながら、京都の景色が見渡せるように、ガラス張りになっていた。目の前の景色には、高い建物は、京都タワーのみ。それ以外は、建物に遮られることがなく、京都が山に囲まれた盆地であることを実感できる。
 
スタッフは、着物の着付け、身だしなみは、先輩から教えてもらいできるまで練習する。
草履で歩く速度は、昼の忙しい時には、キビキビと。夜は、ゆっくりと。
扉を開ける音も静かに閉める。お客様が聞いて不快な音は出さない。
草履で歩く音も、扉を閉める音も、すべてがお店の雰囲気を作り、それも「おもてなし」と教えてもらった。
もちろん、働いている人の笑顔も。
 
そして、お客様の顔と名前を覚える。お客様とちょっとした雑談を楽しむ。
季節によって変わる会席料理は、2ヶ月ぐらいは同じ料理が続く。お客様の来店頻度を加味して料理を変更したりする。お客様の料理のペースや、熱いお茶が好きなのか、冷たいお水がいいのか。1人ひとりのお客様を知るところからスタートする。
 
お客様に呼ばれる前に、近くに言って目線を合わせ、追加の注文を確認したり、取り皿を持っていくなど、お客様が「今」してほしいことを先読みして、適度な距離感で対応する。やっている感が出てもだめ、やってないのはもっとだめ。
 
来店していただくお客様も石川県の加賀屋旅館に泊まった方が多く、泊まった時の写真を見せてくれたり、旅館で感動した話を聞かせてくださる方も非常に多かった。
加賀屋旅館には何回も泊まれないけど、ここに来てあの感動を何回も思い出したいとおっしゃっていた。その思い出をぶち壊してはいけない。
 
こうした先輩からのアドバイスや、お客様からのお話を聞きながら、できる限りの気配り、心配りを意識していると「ありがとう」と言ってもらえることが多くなる。人の気持ちに応えられると、こんなに自分もうれしいことに気づいた。
 
社会人になりたての頃は、自分ができないことが多くある。ただ、自分が少しでもできること、心配りと気配りを意識すると、顔が見えない電話対応や、遠くにいる人たちとのやり取りも心を通わせることができた。顔が見えない相手でも、声のトーンや電話の切り方で、どう思っているのか伝わるのだ。
職場でも、キビキビ歩くハキハキ話すことで、職場の雰囲気を活性化できることがある。
私は「加賀屋」のアルバイトを通して、これらが当たり前にできるようになっていた。
 
京都の出店「加賀屋」で働いて良かったことは、それだけじゃない。
着物が5分で着れるようになって、夏の浴衣も自分で着付けができるようになった。
季節の食材や花を知っていることは、社会に出た時に、お客様との会食で話ができるようになった。
「加賀屋」で働いていた経験があるならと、他のアルバイトで優遇されることがあった。
 
そして、
京都の夏の風物詩である五山の送り火を、ガラス張りの特等席でお客様と一緒に楽しむことができた。
 
アルバイト仲間で切磋琢磨して、毎日一緒にどうしたらもっとよくなるかを話し合える仲間ができた。
 
1つのアルバイトの経験が、その後の人生にも影響することがある。
私にとっての「加賀屋」のアルバイトは、気配り心配りの「おもてなし」の心を教えてくれて、20年以上経っても、連絡を取り合える仲間に出会えたことだ。
4月からアルバイトを選ぶ人も多いだろう。みなさんはどんなアルバイトを選ぶのだろうか?
 
 
 
 
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2021-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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