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4年越しの恋の行方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤瞳子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
家にツバメが巣をかけた!
 
実はツバメがうちに巣をかけたのは初めてではない。
3回目だ。
 
うちは1階で開業しているクリニックなのだが、最初は患者さんが入ってくる玄関の自動ドアに巣を作った。ツバメは器用に自動ドアの一番上の1センチほどの出っ張りの上に巣の材料を運び始めた。
「患者さんが出入りするところなのに、困ったな。」
衛生面を考えて、巣を撤去することにした。
しかしツバメはあきらめなかった。
翌日の朝にはもう巣が半分ほどできあがっていた。
もう一度撤去したが、それでもツバメはまた巣を作り始めた。
結局、「ツバメが巣を作りました。何度か撤去したのですが、相当気に入ったようで、あきらめてくれませんでした。巣立ちまであたたかく見守ってください」と患者さんへの注意書きのポスターを作り、巣の下に貼った。
 
しかし間もなくツバメは来なくなった。
「好き好き」と言われ、最初はお断りしたのに、押しが強くてオッケーしたら、「やっぱり他に好きな人ができたの」とフラれた気分だった。
 
次の年も同じ場所にツバメは巣を作りにきた。
巣にじーっと座って卵を温めているような様子だったので、卵を産んだのかなと思ったが、また間もなくツバメは来なくなった。
「なんだ。期待させておいて。またフラれちゃったかぁ。」
巣を撤去する時に巣を確認してみたが、卵はなかった。
 
そして昨年、ツバメはよりによって患者さんの自動ドアのセンサーの上に巣を作り始めた。
そこは患者さんの頭上に糞がおちてしまうのでダメだ。
巣を撤去し、お断りした。
すると今度は場所を変えて、裏の職員の玄関に巣を作り始めた。
ここなら患者さんに迷惑がかからないので、そこにあたたかく迎えることにした。
 
あっという間に巣が完成し、卵を温め始めた。
実家の私の母に家にツバメが巣を作ったことを報告すると、かなり喜んでいた。
「今日のスワロー家の写真プリーズ」
とツバメの写真をおねだりするメールや、あれやこれやとツバメの子育てに関する情報が送られてくる。
私に子供が生まれた時よりも熱心じゃないか。
 
ツバメは1シーズンに2回子育てをする。
そして今は6月。
このツバメの夫婦は今シーズン2回目の子育てということのようだ。
「今卵温めているということは7月上旬に巣立ちの予定だね。」
「ヘビやカラスが卵やうまれたヒナをねらってくるようだから気を付けてね。」などと母からメールがくる。
調べると、ツバメに巣をかけられたお家の方々は、カラス対策に天井から何本ものビニールテープを垂らすように貼ったり、ヘビが登ってこられないように、壁にビニールを貼ったりするそうだ。
そもそも脚立を持っていないので、高い天井や壁に作業することができないし、正直めんどうくさい。
いまのところカラスが狙っている気配はないし、ヘビは「ヘビレス」というヘビ除けをまわりに撒いておこう。まあ、ヘビなんて見たことないし、大丈夫だろう。
 
巣の中はどうなっているのだろう、見てみたくなったが、巣が高くて中は見えない。
柄の長い枝切ばさみの先に、100円ショップで買ってきたスマートフォンを固定する道具を装着し、簡易の撮影機材を作り、親鳥がエサを取りに行って不在の間に急いで撮影を試みた。
動画の撮影ボタンを押し、枝切ばさみを巣の上に数秒かざして撮影する。
枝切ばさみからスマホをはずすのももどかしく、そのまま動画の再生ボタンを押す。
まもなく巣がうつった。
木の破片が層状に泥で固めてあり、とてもよくできている。
と思った瞬間、ウズラの卵より少し大きめのごま塩のような斑点のある卵が映った!!
数えてみると6個あった。
巣の中にある卵なんて初めてみた。
きれいな卵だな。
ツバメは1日1個ずつ、合計5個ほどの卵を産んで、18日間くらい卵を温めるらしい。
このツバメは6個産んだのだ。卵を確認してから2週間ほどたったある日、親鳥がいつもよりせわしなく巣を出入りしているのに気が付いた。
エサやりがはじまったのでは、と思い、早速カメラで覗いてみる。
産まれていた!
毛のない赤い鶏肉みたいな体で、頭のてっぺんにだけふわふわしたけ灰色の毛がついていて、大きなくちばしがあり、目はまだ閉じていて、ダチョウみたいな顔だった。何匹かの顔が見えた。寝息で体が少し動く程度で、まだ鳴き声もでない。
それから1週間もするとピーピー、と鳴き声がでるようになり、巣から顔をのぞかせるくらいにあっという間に大きくなった。
糞もたくさん落っこちてくるようになった。
糞のにおいを嗅ぎつけてヘビがくるので、糞の処理はしっかりやる必要があるらしい。
巣の下に段ボールを置き、何枚も重ねた新聞紙をこまめに交換することにした。
周りに落ちた糞はホースで水をかけて流した。
ヘビ除けの「ヘビレス」はお酢のにおいがするそうだったので、職員玄関がくさくなると嫌だな、と思い、見合わせた。
 
ある朝、日課となった糞の掃除をしていると、そういえばいつもの鳴き声がしないことに気が付いた。
 
まさか。
 
私は不安な思いで慌ててスマホを枝切りばさみに取り付け、巣の中を撮った。
再生した動画にうつっていたのは
 
空の巣と羽だけだった。
 
ヘビに食べられたんだ!
 
カラスは巣ごと壊す、と書いてあったが、巣は壊されていなかった。
ただ巣のなかにしいていたわらが巣から飛び出ていた。
ヘビと争ったときに巣から出てきたのだろう。
 
私は家に戻り、家族にこのことを話した。
「巣にヒナがいなくなってた。ヘビに食べられちゃったんだと思う。」
「え!?巣立っていったんじゃないの?今朝すごい大きな声でピーピー鳴いてたよ。なんか今日すごい元気だなあと思ってた。」と主人が言う。
まだあんなに小さいのに飛べるはずない。
きっとそれが、ヘビに襲われていた時の鳴き声だったんだ。
 
母に「カラスとヘビには注意して」って言われていたのに!
私がちゃんとヘビ除けの対策をしていればこんなことにならなかったのに。
私のせいだ。
私のせいでツバメのヒナが食べられてしまったんだ。
自分の怠慢を悔いたが、後悔しても、もうどうにもならない。
あまりのショックに泣けてきた。
あんなに楽しみにしていた母をがっかりさせてしまうことも悲しかった。
 
外にでると、まだツバメの親が回りを飛んでいた。
巣の中をみて、ヒナたちがいなくなったのをみて、また飛び立ち、あたりを旋回している。
親鳥もまだ混乱しているのだろう。
 
守ってあげられなくてごめんなさい。
 
雨上がりに、気温があがって、むっとした空気が地面からあがってくるような日は
ヘビが巣を襲ってくるそうだ。
 
前の日に雨が降って、その日の朝は暑かった。
ちょうどそんな日だった。
 
今までもきっとヘビにやられていたんだろう。
きっと卵までは産んでいたんだ。
卵の時にヘビに食べられてしまっていた。
だから途中でツバメが来なくなったんだ。
やっとわかった。
それでもあきらめずに次の年も、その次の年もうちに巣をかけに来てくれていたのだ。
ツバメにフラれたのだと思っていたが、私の勘違いだった。
 
来年は来てね。
今度は守るから。
ちゃんとヘビ除けのビニールシートもカラス除けのテープも用意するから。
巣もそのまま残しておくから。
だからまた来てね。
 
空っぽの巣をみては胸が痛む日々を過ごした。
 
そして1年がたち、もう少ししたらツバメがやってくる季節。
 
会いにきてくれるかな。
待っているからね。
4年越しの恋が実りますように。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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