悩める誰かを助けたいあなたへ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:岡 幸子(ライティング・ゼミ 超通信コース)
「大学、行きたくない」
娘が、この世の終わりのような暗い顔で言った。
ああ、また。
中学も高校も、行きたくない気持ちが強くなると、本当に行けなくなってしまった娘だ。
心療内科にも通って薬を飲んでいた時期もある。
大学生になって、一人暮らしを始めて、このところ元気にやっていたので安心していたのだが。
「どうして行きたくないの?」
「新しいグループワークのメンバーが、頭良すぎてついていけないの。自分がいたら迷惑かけちゃう気がして」
私は混乱した。
この前帰って来たときは、「グループ実習のメンバーがやる気のない人たちばかりで、自分がレポート作成を仕切らなきゃいけない。すごく負担だ」と言っていたのだ。
「それ、前に話してたのとは違う授業なの?」
「うん」
「なら、よかったんじゃないの? 前に言ってたグループは仕切るのが負担で辛かったんでしょう? 頭が良くてやる気のある人たちが一緒ならラッキーじゃない」
「そうなんだけど。みんなトップクラスの成績で、すごくできる人たちなのよ。私なんかが手を出さない方が絶対、いいものができると思うわけ。私がいると足を引っ張っちゃう……」
そういうことか。
今度のグループの仲間には、相当引け目を感じているようだ。
やる気のない人たちと一緒なのが嫌だと言いつつ、優秀な友達とやるのも嫌だなんて。
ただのわがままだ。
社会に出て、仕事をするようになったら、もっと嫌なこともあるだろう。
引け目など、自分勝手な思い込み。
気にしすぎだ。
暗い顔してないで、休み中にできる課題を進めておけばいい。
それが時間の有効活用というものだ。
……そう、言っていたかも知れない。
カウンセリングを学んでいなければ、せっかちな私は、さっさと結論を出していたことだろう。
20代後半の3年間、教師の仕事の延長でカウンセリングのプロから研修を受けた。
3年目の研修メンバーとは、その後も自主的に集まって、教育相談の勉強を続けた。
そこで学んだキーワードは「共感」と「傾聴」だった。
もちろん、子どもの悩みを聞くときにも使える。
私は、娘に共感の言葉をかけた。
「今度のグループの仲間には、相当引け目を感じているんだね」
「だって、本当にできる人たちなのよ。その中に彼もいるの。最初は嬉しかったんだけど、自分のできなさ加減が情けなくて」
次は傾聴だ。
あいまいに思ったことを尋ねていく。
悩みのコアを探るのだ。
「何ができなくて情けないのかな?」
「全部だよ。全然役に立てないの」
「役に立てないと感じて辛いんだね。役に立ちたい、という意欲があるんだから、できることをすればいいんじゃないの?」
「それはそうだけど。私の場合は、迷惑をかけちゃうから」
「なんで? グループワークを分担することが迷惑にはならないでしょう」
少し考えてから、娘が言った。
「昨日のことなんだけど……」
聞けば、娘が気に病む新しいグループには、5人の優秀者がいるという。
娘の彼氏もその中にいて、5人で実習すればものすごく優れた実習レポートが仕上がるに違いないそうだ。全体を仕切っている忙しい彼氏の負担を減らしたくて、一昨日は丸一日かけて引き受けた課題に全力で取り組んだ。翌日、彼氏に「どうかな?」と見せたところ、修正した方がいい箇所をたくさん指摘された。ショックで呆然としていると、彼氏が「大丈夫だから」と慰めてくれた上に、修正までしてしまった。自分が無能すぎて情けない。
「力になりたくて手伝おうとしたんだけど、私のせいで余計に時間とらせちゃったのよ。私が書いたものを直すより、最初から自分でやった方が、もっと良くなっただろうし。私なんかと一緒にいない方がいいんじゃないかって思った」
「えっ? それって、付き合わない方がいいんじゃないかってこと?」
「うん。彼にはもっと優秀な人がふさわしい気がするの。それで、そう言ったんだけど……」
「ええーっ? 本人に言ったんだ。彼は何て?」
「気にするなって」
いつの間にか、話がグループワークから、恋愛相談になっていた。
自分は優秀な彼氏の役に立てない。
足手まといになる。
だから別れた方がいいのではないか。
そう思いつめているようだ。
私は言った。
「彼氏はあなたのことが好きで付き合ってるんでしょう。別に大学の実習で役に立つかどうかなんて、気にしてないんじゃない?」
「そう……かな」
「優秀な男性がみんな、自分と同等に優秀な女性を好きになるわけじゃないと思うよ。優しさとか癒しとか、他のことで魅力を感じて付き合うんじゃないの? 総理大臣の妻は、総理大臣じゃないでしょ」
「確かに……クリントンの奥さんも、大統領じゃないか」
見ると、娘の顔から暗さが消えていた。
口元に笑みまである。
「あれ、急に明るい顔になったね。大学行きたくないとか悩んでいたのはもういいの?」
「うん、別にもういいや」
「何それ? もしや、悩んでいたのはグループワークじゃなくて、彼氏のこと?」
「自分でも気づかなかったけど、そうだったみたい」
「彼氏と自分は釣り合わないから、別れるべきか悩んでいた。で、別れなくてもいいと思えたら、すっきりしたってことかな」
「そうそう、その通り! ママ、カウンセラーになれるよ」
「うーん、それがダメなのよ」
プロのカウンセラーは、クライアントの話を徹底的に傾聴する。
カウンセラーを鏡にして、クライアントが自ら答えを見つけていくのをサポートするのだ。
1時間の面談で、クライアントが一言も発しなくても、その事実に共感できる。
それがカウンセラーの役割だと教えられた。
「私はせっかちだから、すぐに答えが知りたくなるし。自分の意見も言いたくなっちゃうから、カウンセラーにはなれないよ」
「私も答えが欲しかったから、今日は助かったよ」
そうか。別にプロになる必要はないのだ。
親なのだから、子供が間違ったことをしたら共感できないこともあるだろう。
アドバイスしたくなることもあるだろう。
共感と傾聴さえ心掛けていれば、子供を早めに悩みから救い出すことはできるだろう。
それはきっと、子供が落ちた悩みの「穴」に、「梯子」を投げ入れてやるようなものだ。
落ちた穴からはい出るためには、自分で梯子を上らなければいけない。
子供の話をじっくり聞いてやることが、彼らが一段ずつ梯子を上る勇気を与えることになるに違いない。
子供たちは、梯子を上りながら、自分で答えを見つけていく。
誰かが梯子の上り方をアドバイスしても、気に入らなければ自分のやり方を探すだろう。
子供だけではない。
悩める誰かを助けたいあなたへ。
キーワードは「共感」と「傾聴」だ。
それさえ知っていれば、友達でも恋人でも、悩んでいる人に梯子を投げ入れてやることは、誰にでもできる。
***
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