メディアグランプリ

母親たちの大喜利大会in the park


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西元英恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
※登場人物は仮名です。

ズザザッ。
「おかぁさーーん! いたぁーーい! はやくきてぇぇ」
公園中に響き渡るボリュームでよし君が泣き叫ぶ。
たった数秒前、よし君は自転車に乗っていて転んだ。
そこにいた大人たちが一斉に駆け寄るが、そんなのには見向きもせずに泣きながら母親を探している。彼は人一倍お母さんっ子で有名だ。
しまった。母親は今弟を連れてトイレに行っている。

毎週水曜日、幼稚園のお友達と帰りに公園で遊ぶのが恒例になっていた。いつも大体親子合わせて総勢20名弱。何のご縁か揃いも揃って男の子ばかりだ。私も息子を連れて参加している。これは、そんな公園デーの最中に起きた出来事だ。

よし君はまだ泣いているが、母親が戻ってくる気配はない。
そんな時、「じゃーーーーん!!」別の母親がポーチから小さくて細長い紙切れのようなものを取り出した。
「これ、なーんでしょ?」覗いてみるとパッキリとした赤に緑のいもむしのイラストが描いてある絆創膏だ。そのコントラストについ目を奪われる。
「おぉー」まわりにいた子供たちが声を上げる。すると絆創膏を取り出した母親は言った。
「これね、貼るとすっごく元気になる絆創膏だよ! 貼ってみる?」
幸いケガは無く、無傷の膝に魔法の絆創膏を貼ってもらったよし君は再び元気に自転車に乗った。絆創膏のお母さんの作戦勝ちだ。

またある時は普段穏やかでどちらかというと大人びたあきら君がやたら駄々をこねる日があった。もう既に泣き始めている。
あれもいや、これもいや、お友達とは遊ばない、お母さんなんか大っ嫌い……。
収拾がつきそうにない。するとあきら君の母親は怒りもせず優しくこう切り出した。
「あれ、おかしいなぁ。あきらいつものキャラと違うやん。どうしちゃったんだろうね」
なるほど、今度は性善説を唱えて彼の良心に訴えかける戦法だ。
母は彼に寄り添って背中をなでなでしたりしている。
「お腹が減っているんだよ、きっと。おいで」
ベンチにあきら君を連れて行くと母親はおにぎりを取り出し食べさせた。
後から聞くとあきら君の母親は、我が子がエネルギー不足で少し不安定になっていたのを最初から察知していたようだ。あきら君はおにぎりを食べ終わるとみんなのもとへ駆けていった。

今度は体が大きくリーダーシップも取れるゆうすけ君だ。
ゆうすけ君が遊びのグループとして2対1に子供たちを分けた。ゆうすけ君は2人組の方に入っている。すると1人にされた子供がゆうすけ君の母親に対してクレームを出した。寂しさを感じたようだった。
しかし、ゆうすけ君は仲間外れをしたわけではないし、一緒に遊ぼうとはしている。
多少モヤモヤはするが、何と言ってこの場を治めるのがいいのだろう。
するとゆうすけ君の母親は割とクールにこう言い放った。
「その遊びはグループ分けしないとできないの? もし仮にそうだとしたら、その1人組の方はゆうすけがやるべきじゃないかな」
そうか! 私はモヤモヤしていた霧が晴れたように感じた。
もちろん、ゆうすけ君も悪気があったわけでは無いだろう。流れでしたことが思いのほか相手を傷つけることもあるようだ。
その後グループは無事に? 解散され3人は仲良く同じ遊びに興じた。

実は私たち親子は保育園からの転園組で、水曜日の公園デーに参加しだしたのはつい最近の話だ。以前は朝から夕方まで働いて、お迎え後は直帰。
横のつながりを経験してこなかった私は、この幼稚園生活に軽い衝撃を受けていた。
大勢の子供たちが一緒に遊ぶと、一日に何度もアクシデントに見舞われるし、その都度母親たちの出番が来る。
そして子供たちから出された様々なお題を母親たちは華麗にさばいていく。
その様子がまるで大喜利のように鮮やかで感心する。バレないならばその言い回しの数々
をメモに取りたいと思っているくらいだ。

少し慣れてきた頃、それは突然にやってきた。
息子が私にお題を振ってきたのだ。
直前にどういうやり取りがあったかはわからないが、息子がいきなりとおる君を叩いた。ハッとする私。つい荒げた声を出す。
「何やってんの! 叩いたらダメでしょう!!」
私に怒鳴られた息子はいわゆる加害者の側であるのに何故か泣き出した。
「だって、だってぇ……」
一旦落ち着かせようと人気のない木陰に連れて行き、今度は落ち着いたトーンで「どうしたの?」と聞く。
するとポツリポツリとしゃべりだした。どうやらからかわれたことにムキになり、うまくかわせず、つい手が出てしまったようだ。
事情はわかった。しかし、手を出すのはよくない。私は反省を促そうと「自分がされたらいやでしょう。されたらいやなことはお友達にしてはいけないよ」と言うが、表情が納得していない。真からの理解には程遠そうだ。何かいい方法はないか。
無い知恵を絞って考える。

ぽくぽくぽくチーン!
ひらめいた! というわけでは無く、私はあるYouTuberの言葉を思い出していた。
そのYouTuberとは若い男性の現役保育士で、育児で起きる問題を科学的根拠に基づき解決するというチャンネルを開設していた。親たちに寄り添ったやさしいコメントで人気を博している。ある回の内容はこうだった。

「お子さんがお友達にイジワルをしてしまった場合、『相手の立場に立って考えなさい』といのは園児にとっては想像するのが少し難しい。それよりも『お母さんが同じことされたらどう思う?』と聞くのが効果的」
つまりその年頃の子供たちにとって母親は大好きな存在であることが多く、その母親が悲しい思いをするのは自分も悲しい、ということだ。

私はこう切り出した。
「じゃあさ、お父さんとお母さんがケンカしてさ、お父さんがお母さんのこと叩いてきたらどう思う?」
少々乱暴な設定かとは思ったが、身近なところで父親を登場させてみた。
夫の名誉のために言っておくが、彼は仮に怒っても手を出すタイプでは決してない。
すると、それが功を奏したのか息子の顔が一気に曇る。
「え、いやだ……」
母親である私が叩かれるところを想像して少なからずショックを受けたようだ。
内心しめしめと思った私はたたみ掛けた。
「とおる君も急に叩かれて痛かったし、悲しかったと思うよ。ごめんねって言えそう?」
すると「うん」と小さな声で息子は答えた。
1人で謝りに行くというので、信じて遠くから見守った。
数分後、二人は何事も無かったかのように笑いながらグランドを一緒に走っていた。
ほっと胸をなでおろす。こうして新人の私は初のお題を何とか切り抜けたのだった。

あくる日。
幼稚園の帰り道に子供たちが「公園に行きたい」と騒ぎ出す。
エネルギーが有り余っている園児たちが大人しく家に帰るはずもなく、水曜日と言わず晴れていれば結局毎日のように公園に通う日々だ。
(夕飯の準備もしたいし、今日は早く帰りたい……)
本心とは裏腹に疲れた体に鞭打って公園に通うのは、それが子供たちの心身の栄養になると信じてやまないからだ。公園を駆け回って汗をかき、たまにはケンカして仲直りして少しずつ社会性を身につけていく。子供にとってそれが大事なことなら、とことん付き合おうじゃない。

さあ、今日もはりきって大喜利大会といきますか!

***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-05-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事