そこをグッとこらえて我慢せよ!
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:河瀬佳代子(ライティング・ゼミ超通信コース)
毎日、プライベートのメールボックスを開けるのが面倒くさい。
何故なら必ずメールボックスがあふれすぎて爆発しているからだ。
タイトルで必要か不要かを3秒くらいで判断し、いらないものは開封せずにチェックボックスに「×」を上からずーっとつけ、メールをゴミ箱に放り込むのが朝イチの作業になっている。
メールの差出人を見ると、今どうしても開かないといけないものじゃない。というのもその大半が、ネット注文やオンラインイベントで登録した時の業者とかサイトだからだ。今は利用しないけど再度使う可能性があるため、わざわざ元のサイトまで行っていちいち退会することはかえって効率が悪い。だからこうしてメールを受け取っている。
それなら一気に受信トレイの全部のチェックボックスに「×」をつけて、全部消せばいいじゃない? と思われるかもしれないが、ごくたまに最重要メールがその中にもあるからそうもできない。「返金のご案内」などというメールをうっかり削除してしまうと本当に大変だ。だから一括削除は怖いし、しないことにしている。
そんなわけで来る日も来る日もメール削除の作業だけど、時々、
「おっ、これは読んでから消そうかな」
というメールが出てくる。そういうもののタイトルは大体決まっている。
「送料無料お中元ギフト・夏のお買い得品ネットショッピング」
「〈夏の福袋〉第3弾!」
「【十勝・帯広の本社工場から直送】」
うっすらと察しておられるように、一度読んでからゴミ箱に入れるメールはほぼ、食べ物系である。過去にそのサイトからお取り寄せをしているので、その後も来ているメールだ。
ただしこの「一度読んでからゴミ箱に入れるメール」は本当に曲者だ。どれもこれもメールの件名の最初の10文字くらいで消費者をグイッと引きつけている。そして「買え買え攻撃」を仕掛けてくるからたちが悪い。気になって読み始めると、そこからリンク先を開いて再度そのサイトに訪問しているじゃないか。そして延々と「ネット通販限定商品」だの「訳あり送料無料」だのをクリックして、ページをのぞいているじゃないか。
そして私が好きなお菓子が、期間限定・ネット限定で、レモン味とあまおう味を出しているのを見つけちゃったじゃないか。
ずるい!
それ反則!
それはもう買う一択でしょ! と心が叫んでいる。
さあ、どうする? どうする?
買うか? 買わないか?
これ逃したらもう出てこないかもしれない、だったら買おうか。なんとなく「カートに入れる」をクリックしようとした時、ふっと頭の片隅によぎる声があった。
「お前は、まだそんなことをしているのか」
……実家の父だ。
「食べたいものを食べたい時に食べたいだけ食べていたら、ダメに決まっているじゃないか」
あ……。
そんなことを言っていたよね。
いつも会うたびに私に注意しているよね。
「そんなことばかりしてると身体に悪いぞ」
はいはい、言われなくても分かってるってば。
ご意見ごもっとも。
おっしゃる通り。
御年84歳にして毎日ジムに通い、毎日体重と体脂肪率と血圧を測って節制している父であるから返す言葉もない。今はコロナ禍なので殆ど両親には会わないが、父に会うたびにこれを必ず言われるので、なんとなく鬱陶しさを感じている。確かにウザい。うるさいわと思うけど、真実なのでグサグサ刺さりまくる。
(どうするかなあ……)
レモン味、いいなあ。あまおう味なんてたぶんもう二度と食べるチャンスないよ? だけど、ここはグッとこらえて我慢するか。私はサイトを閉じてメールをゴミ箱に入れた。誘惑に駆られるものは目の前からさっさと消すに限る。
ネット通販はわざわざ店舗まで行くことなく手に入る利便性がある。そして昨年からのコロナ禍によってネット通販への依存度は格段に上がっている。人との接触を避けるためには通販は都合よく、店舗での売り上げが減っている企業にしてみればありがたいことこの上ない。そしてこのご時世で思うように外出できない私たちのストレス解消にもネット通販は一役買っている。
よく「自分へのご褒美」とか「たまには美味しいものを」という名目で高級食材を買う行動も見かける。でもその「ご褒美」、いつのまにか回数増えてないだろうか? 自分をごまかす言い訳になってないだろうか?
コロナ禍になって体重が増えたという話も聞く。通常と比べて動かない生活が多くなっているからこそより一層気をつけないといけないのに、人はとかく自分を甘やかす方向に流れてしまいがちだ。そのためにも届いたメールはよく選んで、本当に自分が必要ではないものは心を鬼にして捨てよう。そして自分にとって口うるさい、耳が痛い言葉こそが実は自分を救ってくれることも、ウザいけど頭の片隅には記しておこう。
***
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