不倫話にはワインが合う —ある友人の話−
記事:春納言さま(ライティング・ゼミ)
これは、私の友人の話である。
隣の芝生は青いと言うが、世の中にはどうしても誰かのものが欲しくなる人も一定数いるらしい。ちなみに、意識せずともそういものばかりを選んでしまう人も少なからずいる。
こういう現象は一般的に浮気とされ、民法上の「人のモノ」が対象となった際に名称が「不倫」と変わる。どうも今年は豊作なようで。
さて、純粋で純情な私個人の見解としては、元ヤンキーの父親からの「警察の世話にさえならなければいい」という教えもあり、まぁ本人たちがよければ構わないのではないかと思っているわけだが……
なぜかそういう話をよくカミングアウトされる私。
だからこれは、あくまでも飲み屋で繰り広げられた友人の話である。
「あの日は飲み過ぎたんだと思う」
あぁ、出たわ、常套句。
お酒を言い訳に、自分は悪くない不可抗力だと言い張る奴。
私だってタクシーで気持ち悪くなって5分に1回路肩に止めてもらっては戻しを繰り返しながら家路に着いたこともあるし、深夜三時の西通り(福岡の繁華街、若干ネオン不足の渋谷をイメージしてもらいたい)でキャッキャ叫びながら走っていたこともある。ちなみに、後者は記憶にない。
おっと思い出したくない失敗を思い出してしまった。
赤ワインの渋みに苦い思い出が混じる。
「始まりは、お酒のせいだったの」
彼女はそのとき同僚たちと数人で飲んでいたそうなのだが、解散した後その中の1人(男)から電話がかかってきて彼女の家で飲み直していたらしい。
その後のことなんて、大人の男女だから言わずもがな。
な・し・く・ず・し。
彼女は独り身だが、彼には彼女がいる。
酔っているとはいえ周知の事実。
何が問題かって?
その男、彼女と関係をつづけながらいつの間にか本来の彼女と結婚していたのである。できちゃったそう。
ろ・く・で・な・し。
奥様から「うちの夫と飲みに行かないでください」と彼のアカウント経由でLINEが来たことで事実を知り、さすがにこれは面倒なことになると手を引いたという。
いつの間にか不倫。
それからしばらくした頃だ。
私たちはいつものこじんまりとしたワインバーにいた。
きょうは久しぶりにフランス産にしようか。
ようやく赤の渋味にも慣れ、ろくでなし男も笑い話になっていた、
はずだった。
「またやっちゃったんだよねー」
反省したと思っていたのに悪びれる様子もなく彼女は唐突にストレートの豪速球を投げ込んできた。
真紅のワインが、私のブラウスに小さなシミを作った。
次のお相手は子持ちの先輩。
子供が生まれたのを機にセックスレスになり夫婦関係は冷え込み、奥さんとの愛情は皆無。これまた絵に描いたような話。
それをいいことにいわゆるセフレの関係に持ち込んだというわけだ。
これも始まりは2人で飲んだ帰り道。何が辛いってその相手の男は私も知っている。
「なかなか相性がいいんだこれが」
し・り・ま・せ・ん。
彼女の名誉のために言わせてもらえば、彼女にだって罪悪感はあるらしい。
その時はお酒の勢いや雰囲気で楽しいのだが、翌朝目が覚めて隣を見てはため息が出る。あぁ、またやってしまった。
仕事中も二日酔いの頭痛を感じるたびに昨夜を思い出してため息。
コンビニで買ったヘパリーゼを飲んでは、またため息。
「もうしない」
そう心に誓い、宣言するために私と飲みに行くのだが……。
お酒は楽しい。だけど、行き過ぎると翌日の二日酔いの辛さたるや。
もう次は飲み過ぎないようにしよう。
誰だってそのときは誓うのだ。二度とあんな思いはしないと。
しかし、それで本当に飲まなくなった人はどれだけいるだろうか。
お酒は美味しいし、楽しい。
愚痴を言い合ったり、憂さを晴らしたり。
普段表に出せないものを出す口実にしたり。
どんなに翌朝辛くても、アルコールの甘美な誘惑に人はまた負けてしまうのだ。
結局、不倫も同じなのである。
隣に寝ている男のいびきが頭に響く朝。
ため息をつきながらもうしないと心に誓うのに、結局またやってしまう。
アルコールの魅惑と不倫の甘美さは、実によく似ている。
危ない橋を渡るというのは実に甘美なのだ。
しがない理科教師の斎藤工と平凡なパートの主婦であるはずの上戸彩の世界がどれだけ魅惑的に見えたことか。
私だって斎藤工を平日午後三時、いや深夜三時でいいから恋人にしたい。
昼の顔に憧れた主婦がごまんといたことからも、誰だって少しだけ危険な世界に足を踏み入れたい願望が心の底にあるのだ。
ゲスだと叩かれても、古典芸能の大御所だろうとも、浪漫に飛行したい気持ちは、そこらですまし顔して歩いてる誰かさんだって同じ。
長期的かつ安定的な幸せに浸るか、ハイリスクながらも短期的で扇情的な欲に溺れるか。
最終的にどちらを取るかはあなた次第。
例に漏れることなく、彼女はお酒をやめることもなければずるずると不純な関係も続けている。
それを肴に私たちはまたワインを空ける。
あぁ、また明日も二日酔い。
だけどまぁ、いいか。
ちなみに彼女には最近また新たな相手が出来たらしい。
「寝ている横顔を見てはため息が出るんだけど、また見たくなっちゃうんだよね」
もう一度言うが、これはあくまでも私の友人の話である。
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