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通知表今昔物語


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:とわにこ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
7月21日、夏休みに突入したその日、息子が初めての通知表を持ち帰ってきた。
 
保育園に通園していた息子にとっては、初めての夏休み。わたしにとっても、息子が長い期間休みになるという経験がなかったので、さてどう過ごすかと、少し前から考えあぐねていた。夏休みと言えば、宿題? 自由研究? 絵日記? ラジオ体操? 何が息子に課せられているのかハラハラしながら1学期の終わりを迎えた。
 
通知表。
 
そう書かれた少し厚い紙がランドセルに入っていた。
縦長のサイズで、本のように見開いて読むもののようだ。
 
そうか! 通知表ってのがあった!
 
息子が生まれて7年。その個性を大切に育ててきた。それが小学校入学に伴って、誰かから評価されるようになるのかと、急に戸惑いを覚えた。
子どもは所有物でもないし、別人格とはいえ、親までもが評価されているような気持ちになり、さらに戸惑った。
通知表という存在をすっかり忘れていた。いざ息子の通知表を目の当たりにして思いがけなく戸惑ってしまい、同時に持ち帰ったその他のプリントや洗濯物を片付けて、その日は通知表を開くことができなかった。
 
数日後、寝静まった我が家。お腹を空かせた冬眠中の熊のように、のそのそとランドセルを開ける正体は……わたしだ!
 
冷蔵庫がグゴーと鳴る中、人感センサーの照明がパッと灯り、また消えた。気配に気づいた愛犬がウワンと言う。
誰に見られるわけでも、聞かれるわけでもない。それに、見られても聞かれても構わない。
それでもわたしは、何故か暗闇の中で通知表を開いた。
 
むむ!
こ、こ、これは!
 
み、見方が分からんっ!!
 
20項目以上ある目標の横には、◯がキレイに整列している。
 
ここから、何を読み取ればいいのか。
スマホの明かりをもう一度厚紙に向けた。
 
やはり全て◯だ。
 
裏表紙に評価は3段階だと書いてあった。
よくできていた順に、「◎、◯、△」らしい。
 
わたしが生徒の頃は、「アヒル(2)が泳いどっといかんぞ!」なんて言われたものだ。相対評価だったため、クラスの誰かは5を取り、そして1を取っている。
先生は悩み苦しみながら、それぞれの通知表に数字を振り分けていただろう。
数字の横に小さく丸が書いてあることもあった。その数字の中でも上の方だよ、という先生からのメッセージだ。
そんな風に、通知表からは様々な機微が読み取れたものだ。
 
一方息子の通知表。
◯がキレイに整列しているところから何を読み取れるだろうか。
次第に、◎がないことに腹が立ってきた。いい加減な評価なのではないか?
夜中、暗闇でろくなことが浮かばないので、冬眠熊は山に帰ることにした。
 
翌日、明るい時間、正常な判断ができそうだったので、もう一度通知表を開いてみた。それとあわせて配布されていたプリントの内容に目を止めた。
 
要するに、
1年生の1学期は◎はつけてないのだそう。
先生ごめんなさい。確認せずに腹を立ててしまいました。
 
続けて次のようなことが書かれている。
「子ども達は、1人1人がそれぞれ輝く個性を持っています。その子なりの努力の過程や作業の丁寧さなど様々な面を見取って評価しています」
 
おお。絶対評価とはこういうことか。
子どもそれぞれがいかに成長したかということが評価されていくのだろう。
今回は、何も読み取れるものはなかったのかと、なんとなく物足りなさは感じたが、今の通知表とはこういうものかということは分かった。
 
通知表と言えば、評価だけでなく、先生からのコメントもその醍醐味である。教員の友人達がこのコメントに四苦八苦しているのを知っていたので、特にありがたく拝見した。
息子の普段の様子や成長した出来事を短いながら丁寧に綴られていた。
今できていること、クラスの中で貢献できていることを意識して書かれているように感じた。
 
再び昔の通知表を思い返してみる。
優等生でいることにプライドを持っていたようなところがあるわたしの通知表には、おそらくお褒めの言葉が書かれていたのだと思う。
 
ただ心に残っているのは、「あなたはもっと頑張れば……」と書かれていたことだ。
期待を込めてそう書いて下さったのだろうが、わたしには「足りていない」と伝わった。
思えば親からも褒められることはほとんどなかった。
できることが当たり前で、できていないこと、足りていないことを指摘されることが多かった。
 
これは、20年以上経った今になって考えられたことだが、そうした積み重ねが自己肯定感を持つことを妨げ、自信の持てない自分を形成する要因の一つだったように思う。
 
生きづらさを訴え、訪ねたカウンセラーには、
「あなたは“それでいいんだよ”と言われてきていないんですね」
と指摘された。頑張ったことに対して、“それでいい”と評価を受けないままに、もっと頑張れと言われ続けてきたのではないか、ということだった。
 
カウンセラーにアドバイスされたのは、自分で“それでいいんだよ”と言ってあげるということだった。
足りていないことを指摘したり、頑張れと鼓舞することも時には必要で力を与えると思うが、それ以前に今できていること、継続して努力していることを十分に褒め認めることが大切だということだろう。
 
息子の絶対評価の通知表を見て、これからは「以前よりできるようになったこと」が評価の対象となってくるのだろう。
それを見て、子どもがどう反応するのかつぶさに観察して、家庭では、「今できていること」を十分に褒め認めようと思った。
 
「頑張って」と声を掛ける人間の責任は、「頑張ったね」ということだ。
拝啓から始まれば敬具で終わるように、頑張れと言えば、頑張ったねと認めること。
 
自分に対しても、息子に対しても意識していきたい。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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