メディアグランプリ

外人ハントで見つけた魔法の言葉と得られた力


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高井不二生(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
「Excuse me?  May I talk with you a little now?」
(すみません、今、ちょっとお話させてもらってもいいですか?)
会社帰りのJR普通電車の中で、アジア系の若い女性の隣に座って、そう英語で声かけた。
ちょっとびっくりした表情のその女性にもう一言、丁寧に添えると、
「Yes, please .」
(ええ、どうぞ)
とかわいい笑顔で応えてくれた。
 
これは、あるユニークな英会話学校で、与えられた課題をやっていた時のお話。
英語を勉強しながらビジネススキルを身に付けよう! というちょっと変わったスクールだったので、興味津々で参加してみた。
 
ビジネス自体よりも、ビジネスに必要なマインドを、中学生レベルの英語で学ぶという内容で、3ヵ月の期間に2週間に1度集まって、講義を受けたりワークをしたりした。
参加していた人達は、会社員はもちろん、起業家、自営業の人、主婦、学生など、普段の生活ではあまり出会えない人達が多かった。しかも、それぞれが将来に目標を持っていたので、交流するのも楽しかった。
 
そのスクールでは、週に一度は一人で見知らぬ外人に声をかけて英語で話そう、という課題があった。そして、その体験をSNSのグループの中で簡単にシェアするのだ。
僕は会社で海外マーケティング部に所属していたので、日常会話くらいは大丈夫だと高を括っていた。しかし、実際に街中の人目であるところでそれを実行するには、大きな勇気が必要だった。
 
変な日本人と思われて警戒されないだろうか?
逆に変な外人だったらどうしよう?
周りに居る日本人の視線もなんか気になる。
 
そんな臆病風に吹かれて、街中で外国人を見かけても、声をかけられるようになるまでに、少し時間がかかった。
勇気を振り絞って、
「今、少しあなたと話してもいいですか?」と英語でと声をかけても、恐れていた通りに
(なんだこいつ?)
みたいな目で見られて断られたり、立ち止まって少し相手してくれても、時間がないからと言われたり。最初は挙動不審だったのかも知れないけど、やはり気持ちがへこんだ。
 
そんな時は、若い頃、夏に友達とよく沖縄へ旅行してナンパしたのを懐かしく思い出した。
気の置けない仲間と一緒だったし、南の島の開放的な雰囲気の中で、女の子も声かけられることを楽しんでいるようだった。外人ハントもそんな風にいかないかな?
 
そんな思いを巡らせていたある日、大阪の京橋駅近辺の路上で、ガイドブックを見ながら何やら困っている感じの若い欧米人カップルを見かけた。
(困っている人を助けて英会話もできる。これはビックチャンス!)
そう思って、すぐに
「何かお困りですか?」
と英語で声をかけると、細身で眼鏡の男性の方が、両腕をクロスさせるポーズを作って、
「ノ~!」
と大きな声で言った。
ブロンドの髪の女性も、ちょっと変な顔をしてこっちを見た。
 
(あれ! なんだ、このリアクションは! めちゃ怪しいやつと思われているやん)
そして咄嗟に、
「僕は怪しいものじゃないですよ。英会話学校の先生から、街で外国人に英語で声かけ練習しなさいと言われてやっているのです。迷惑だったらすみません」
と、しどろもどろに言うと、二人の顔が明るくなった。
「そうだったのですね! 誤解してすみません。自分の国の友達へメールできる場所を探していたのですが、よくわからなくて」
なるほど、そういうことだったのかと思い、
「わかりました。少しだけお金が必要だけど、簡単にメールを利用できる場所を知っているので、案内しましょうか?」
と聞くと、
「わー! 助かります! 是非お願いします!」
とすっかり盛り上がって、僕は二人を近くのネットカフェへ連れて行くことになった。
 
一緒に歩きながら話をすると、スウェーデンから昨日着いたばかりで、時差ボケの中、初めての日本で交通機関を利用するのも大変で疲れていた。そんな時に僕から声かけられてびっくりして、ノーなんて言ってしまったらしい。「ごめんなさい」と、また謝ってくれた。なんだか心が通じた気がした。
 
ネットカフェに到着して、手続きも僕が間に入って代行した。住所が日本にない人は登録できないと最初断られたけれど、
「じゃ、僕の住所で登録してもいいですか?」
と聞くと、店員はしばらく考えて、それなら大丈夫ですと言ってくれた。
 
2人の為にカップルシートのボックスを取って、そこへ案内した時、
「是非、あなたの写真を撮らせて欲しい」
と男性から頼まれたので、Vサインのポーズで撮ってもらった。どうやら僕は彼らの旅の思い出の人になるようだ。そう思うと、帰りはとてもいい気分で、心がスキップしていた。
 
そして、その日、閃いた。
外国人に声かける時に、
「英会話の勉強をしているので、ちょっとお話してもらってもいいですか?」
という一言を付け加えれば、会話が自然と流れて上手くいくのではと。それも、日本を旅行している外国人へ声をかければ、よりスムーズで楽しい会話になるのではと。
沖縄で知らない女の子に声をかけても、わりと高い成功率でお友達になれたのは、お互い南国の旅先で開放的な気分だったからだ。外人ハントも、日本に遊びに来ている外国人旅行者をターゲットにすればいいんだ、きっと。
 
そう思うと、すぐに試したくなって、次の日は外国人観光客が多い難波へ出て、外人ハントを試みた。周りの日本人の目は、まだ少し気になったけれど、3回チャレンジしたところ、全部上手くいった。日本の印象などを聞くやり取りは面白かった。
「これは楽しい!」
 
そして、このやり方をSNSで、スクールの仲間に紹介すると、すごく好評だった。
「なかなか声かけづらくて悩んでいたけど、それだと上手くやれそう!」
なんて感謝されて盛り上がった。
 
そうして外人ハントの修行も終わったある日、僕は奥歯の親知らずのトラブルで大学病院へ行った。その帰りがけ、病院と出ようとしたまさにその時に大雨が降ってきた。空を見ると少し先は晴れ間が広がっている不思議な天気だった。
リュックの中の折り畳み傘を取り出すと、僕の横に空を見上げて困っている様子の中年女性が立っていた。病院の前に大きな横断歩道があり、それを渡るとすぐ近くに最寄りの駅がある。
 
「良かったら駅まで傘に入りませんか?」と声かけた。
「え? あ、いえ、いいです、いいです」と最初は遠慮していたけど、
「どうぞ、どうぞ 」とニッコリ笑って言うと、
「そうですか……。じゃあ、お願いします」と照れながら笑った。
 
一緒に歩きながら、どうして大学病院に来たのかをお互い話した。
「歯茎にしこりが出来て、変な腫瘍かと心配だったの」
と素敵な笑顔で話してくれた。そして、ホームまでご一緒して、行き先が違ったのでそこで別れた。
 
電車に乗ってから、これまでの自分はこんな行動はできなかったのに、と不思議に思った。そして、気づいた。外人ハントで、知らない外国人へ話しかけることで、度胸がついただけでなく、普段の行動力やコミュニケーション能力も強化されていたのだ。
 
なるほど、外人ハントはビジネスマインドを鍛えることに繋がっていたのですね、先生!
 
 
 
 
***
 
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2021-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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