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働かないアリは働くアリと同等に重要な存在だ


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記事:庄子健一(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
ぼくが以前ベンチャー企業に勤めていたときに、社長が学生だったか20代前半くらいの若い人にこんなことを言っている場面に遭遇した。
 
「知ってる? アリの集団には働くアリが七割いて、残りの三割は働かないアリなんだよ」
 
彼がその若者にその話をしたのは、「怠けている三割のアリになってはだめだ。とにかく働け!」ということを伝えたかったのだと思う。
その社長はイケイケで、仕事が趣味みたいな人だったからだぶんそう。
確かに、ベンチャー企業の社長が好みそうな例えだ。
けれど、たまたまその場面を目にしたぼくはそこに全面的に同意することはできなかった。
バリバリに仕事をこなす日々が続いて、休みの日はぐったりして何もする気が起きず、月曜日に無理やり身体を引きずって仕事に行く。
ただただ仕事をすることに疲れてしまっていたからだ。
 
働くことは確かに大事なことだ。
けれども、休んだり何もしなかったりすることは同じくらい重要だ。
 
その社長が例えに使った「働きアリと働かないアリ」の話は、実は「働くことと休むこと」の重要性を示す自然の理だ。
 
冒頭の「アリの集団のうち、働くアリは七割、働かないアリが三割」というのはその一場面を切り取ると正しい。
しかし、ここで重要な視点がある。
 
「働きアリはずっと働いているのだろうか?」
 
確かにアリの集団を見たときに「働くアリが七割、働かないアリが三割」になるのはそうなのかもしれない。
しかし、実はアリの集団をしばらく見ていると働いているアリはずっと働いているわけではないのだ。しばらく働きアリはしばらく働くとあんまり動かなくなる。そして彼らが働いている間あんまり働いていなかったアリが働き始める。
 
つまり、働かないアリは「怠けアリ」ではなく、「休憩アリ」なのだ。
もちろん、四十六中働いているアリもいるし、あんまり長い時間働かないアリがいるなど、アリの仕事時間は一様ではない。
けれど、「ずっと働いているアリ」はほとんどいないし、「ずっと働かないアリ」も同じようにほとんどいない。
 
ちなみに、「七割の働きアリ」をとっつかまえて新しいグループを作るとどうなるかご存じだろうか。
「全部働くアリなのだから働きアリが十割のグループ」にはならず、その中の七割のアリは働くけれど、三割は働かなくなる。
 
「全員が全員モリモリ働く組織や会社」というのは、ベストな生産性を叩き出すように思える。
ところが自然の集団ではそうはならない。
なぜか、というと「全員がモリモリ働いて、その結果全員疲れ果てて何もできなくなったら、その時点で集団を維持できなくなってしまう」からなのだ。
 
「全員が100%稼働する」というのは、短期的に見れば高い生産性を上げることができるかもしれない。
しかし、マラソンでところどころに給水所が設けられているように、全員がずっと働きづめの状態を維持することはできない。
働く人と休む人が交代交代で動いていく方が、長い目で見ると続いていくのだ。
 
また、こんな研究結果がある。
アリにはそれぞれ「得意な働き方」があって、エサを探すのが得意でいつも動き回っているアリもいれば、普段は働かないのに巣が壊れたとか敵がやってきたとかの非常時にやたらと活発に働くアリ、とか、それぞれ個性や役割分担があるらしい。
東日本大震災に津波で被災したとある工場で、「普段は目立たない社員が、被災からの立て直しにすごく活躍した」という話を聞いたりもする。
確かにぼくの周りを見渡すと、「いつもはぼーっとしているのに、いざという時になると生き生きしてトラブルを解決してしまう人」や「普段は活躍しているけれど、不測の事態に陥ると動けなくなってしまう人」など、得意な働き方、生き方や活躍できる場面というのが人によって異なることに気が付く。
 
これまでは「いい」とされる働き方はたいてい同じだった。
いい大学にはいって、いい会社に入り、一生勤めあげる。
一つの会社でモーレツに働けば、出世して将来は安泰になった。
その背景には、通信や移動手段も限られ、時間や世界の変化がゆっくりだった、というものがあるように思う。
ところが、今は通信や移動の手段が発達し、世界の変化が速い。
十年前はスマホを持っている人はほとんどいなかったけれど、今は誰もが持っている。
下手をしたら一年、数か月で生活や世界がガラリと変わってしまうこともある。
新型コロナウイルスで世界中のあらゆる都市がロックダウンしたり、テレワークがこんなに広がるなんて、つい数年前は誰も思い描いていなかった。
 
いままでの常識は通用しない。これからの世界は予測不能なのだ。
そんなときに重要なのが「多様性」だ。
 
「アリの集団のうち、働くアリは七割、働かないアリが三割」というのは、実は「いざというときに動ける個体を随時待機させている」性質が集団を維持していくために不可欠、という自然の摂理を示している。
それぞれ個性があるのは、その方が種や集団を残していくことに向いているからなのだ。
 
誰かが当たり前のようにしていることができない、というのはなんだか「ああ、自分はできてないからダメな奴だ」と思ってしまいがちだ。
確かに、これまでは「誰かの作った正解」に沿うことが正解だったかもしれない。
けれど、これからの予測不能な時代には「自分なりのペース、自分なりの生きざま」を発揮した方が将来につながっていくように思う。
休みたいときには無理して働かなくていい。「いざ」というときのために、身体を休めているときなのだ。
焦らなくても、いずれその「いざ」というときはやってくるのだから。
 
 
 
 
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2021-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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