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「あなたの夢は何ですか?」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:橋本 とおる(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
人生の岐路に立った時、背中を押してくれるものは何だろう。手を引いてくれる人はいるだろうか。
 
「仕事辞めたいな……」
 
度重なる残業と職場の人間関係に疲れ切った身体を無理やり起こそうとするが起きられない。数少ない休日なのに身体が動かず、ぼーっとしているうちに日が暮れた。
 
やっと内定が出た企業を自分で納得して選んだはずなのに、今や「仕事辞めたい」が口癖になってしまった。辞めたいと言うくせに今の仕事を辞めて何をするのか全く考えられず、動く気力は皆無だった。
 
スマホを眺めていると、5年くらい会っていない知人からSNSで連絡が来ていた。
 
『あけましておめでとう! 久しぶりに会えたらうれしいな!』
『久しぶり! いいね! 会おう!』
 
動かない身体の代わりに指が動く。待ち合わせ場所に指定されたのは、中目黒の築50年のアパートだった。
 
『この日はパーティーがあって、私の友達も何人か来るんだ。みんなで思いっきり楽しもうね!』
 
半分スリープモードだった頭が再起動する。
―おいおいおいおい! これ“アレ“じゃないの?
 
『宗教勧誘……じゃないよね?』
『……私も行くの初めてだけど、怪しかったら途中で帰っても大丈夫だから』
 
いやいやいや……怪しすぎるだろ! と一瞬思ったが、己の好奇心に身を任せ、知人と共にパーティー会場へ向かった。
 
 
「こんにちは! 受付は奥のカウンターです」
 
明るい笑顔で自分と年の変わらないお兄さんに声をかけられた。どうやら調理担当らしく、寄せ鍋に使う食材を切り分けているようだ。
 
「あの、これは何の集まりなんでしょうか?」
「新年会だよ。友達の友達を誘ってるから、ここにいるのはみんな誰かの友達!」
 
受付で名前シールを渡されて、自分のニックネームを書き込み、服に貼る。
 
「こんにちは! 私は“サキコ“。“ごっちん“に誘われてきました。今はアパレルショップで働いています。趣味は自転車。よろしくお願いします!」
 
すでに自己紹介が始まっていた。新年会という名の“合コン“なのだろうか……
 
「我々の出会いを祝して、乾杯!」
 
20代から30代の若者が20人近く集まり、自分のビジネスの話や趣味の話で各々盛り上がっている。しかし、社交するつもりで来ていない自分にとってはあまり居心地の良いものではなかった。
 
「とおるちゃんはさ、何の仕事してるの? 今の仕事楽しい?」
 
料理を一通り出し終えた料理担当のお兄さんが、気を遣って話しかけてきた。
 
「あんまり。仕事辞めたいなと思ってるんですよね……」
「ふーん。俺も今の仕事辞めようと思ってて、先週受けたセミナーでとおるちゃんのお友達に会ったから誘ってみたんだ。連絡先交換して良い?」
「へ? はぁ、まぁ、いいですけど」
「近々またパーティーあるからさ。ぜひ来てよ。俺で良ければ相談乗るからまた仕事の話聞かせて」
 
“サーモン“という人は新年会が終わってからもマメに連絡してきた。
「転職経験者がたくさん来る会があって、なにかの参考になるかもしれないからぜひ来てほしい」「みんなで人生ゲームやるから来ない?」
 
その当時の私は現状に嫌気がさしていて、なんでもいいから変化を求めていたのかもしれない。誘ってくれたパーティーにはできる限り参加した。理由は参加者がみんなキラキラしていたから。「生きるのが楽しくて仕方がない!」と言わんばかりの眩しさで、自分もあんな風に生きていけたらという憧れがあった。
「あなたの夢は何?」「将来どうなりたいの? これからどうやって生きていきたい?」「それを叶えるには何が必要だと思う?」
 
“サーモン“から紹介された人たちは、決まって『夢』や『やりたいこと』を聞いてきた。親しい友人との会話にはあんまり出てこない“ワード“だったので、なんだか新鮮だった。
 
「経営の師匠に弟子入りして2年くらい勉強するんだ。楽してお金を稼ぎたいならおすすめしないけど、みんな必死に努力してなりたい自分になっているから信用できる。次、“ごっちん“に挨拶しに行こう」
 
「私は親に“宗教だからやめな“って最初は反対されたけど、自分で努力してもうすぐ年収1,000万円になるんだ!」「とおるちゃんと一緒に頑張りたいな!」
 
気が付くと自分の周りにいるパーティー参加者のほとんどが、若くして“何か“の経営者だった。
 
自分の夢を叶えるためにはお金が必要。いくら稼げばその夢が叶うのか。そのために何をすればいいのか。『夢ノート』を作って、“サーモン“と一緒に相談しに行った。
 
「私たちと同じようになりたいのなら、それなりの覚悟が必要よ。私は師匠に今から来いと言われれば、北海道だろうが大阪だろうがすぐに向かう。たとえ別の用事が入っていたとしても師匠の呼び出しに応じるのが最優先。私は弟の結婚式も師匠に呼ばれたから欠席したわ。どう? あなたにその覚悟はあるかしら?」
 
なんだか場違いなところにいる気分だった。「仕事を辞めたい」と、つぶやいてから約3ヶ月。“サーモン“に手を引かれ、用意された馬車に乗ってみたら、あれよあれよと見知らぬお城の舞踏会に連れてこられた。“サーモン“が言う。
 
「さあ、覚悟を決めて。君はこの手を取るだけでいいんだ」
―僕らと一緒に踊ろう! と。
 
 
今の交友関係や家族を捨ててまで、成し得たい夢。
自分にはその覚悟があるだろうか……
 
答えは『ノー』だ。
自分がここまで生きてこられたのは、友人や家族がいてくれたからだ。夢を叶えたところで友人たちとの関係が切れてしまっていては意味がない。
 
「……私には、そんな覚悟はありません」
 
目が醒めるようだった。
 
 
私は彼らに感謝している。彼らの手を取ることはできなかったけれど、自分の生き方を見直すきっかけをくれた。夢を追いかける喜びを思い出させてくれた。自分にとって何が大切かを再認識できた。
 
年収1,000万円じゃなくても、キラキラしている人はたくさんいた。
『幸せ』は人の数だけ存在するのだ。
 
 
どう生きていきたいのか散々考えた結果、『自然と共に生きること』が答えの一つだった私は、働く拠点を都会から田舎に移した。
 
 
きっと誰もが人生の分岐点に立たされるたびに、迷い、悩みながらも決断していくのだろう。
その時には、心の奥にいる自分自身に問いかけてみてほしい。
 
「あなたの夢は何ですか?」
「その夢が叶ったとき、あなたのそばには誰がいますか?」
 
 
 
 
***
 
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2022-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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