ライティング・ゼミを受講する理由と人生後半への葛藤のお話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:原 知子(ライティング・ゼミ2月コース)
「お話があるのですが……」
お正月休み明けのある日、上司にそう切り出した。
冬休みの間、ずっと考えていたこと、長年勤務した会社を退職することを決意した。
退職願をノートの間に挟み、いつもとは違う心持ちで上司の顔を見つめた。
22歳の時に、中途で入社し26年以上勤めた会社。大手の部品メーカーの販売会社である。実家から自転車で通えるところに営業所があり、当時の職安で求職票をみつけ、運よく採用された。時代はバブル崩壊後の氷河期だった。
あれから26年たち、私は50歳目前となっている。
50歳になったら、別のことをしたいと思っていた。
何年か前に読んだ伊能忠敬のWikipedia。日本史の授業で習うだろう江戸時代後期に日本地図を作った人である。50歳過ぎから自分より年若い先生から測量技術を学び、日本中を測量してまわり、日本地図を作った。
日本地図を作るようなすごい仕事をしたいというよりも、50歳から何かを学んでそれを後半の人生の生きがいとしたいと思って憧れた。
江戸時代、日本地図を作るというのは各地への移動の大変さもあり、夢物語だったのではないかと思う。それに伊能忠敬は、測量の知識は多少あったが専門家ではなかった。ただ、やりたい気持ちで学び続け、実行することができたと私は思う。
私の人生の後半でやることは、今のところまだわかっていない。でも、今までの仕事とは別のことに時間を使いたいと思った。私は幸か不幸か独り身なので、何をやっても自己責任で自分に降りかかってくる。そういう意味では厳しいが、気楽でもある。
何をやるか決めていないのに、先に会社を辞めることにした。長年勤めた会社を辞めるには、今後の生活のこともあるし、慣れた環境や仕事から離れるというのは、とても勇気がいることであった。
長い間に引き受けてやっている多くの仕事があり、全ての引継ぎをするのは難しく、締め切りがある仕事と取引先と直接かかわる仕事を中心に後任の何人かに引き継いだ。
あとは自分が何をやるか決めるだけである。まずは引越しをして、少しでも家賃の出費を抑えよう。そして今後必要なスキルとして、ライティング・ゼミで書くことを学ぶこととした。受講している皆様は、もともとのスキルが高いようで、私のようなレベルうんぬんと言えないような者は、ある意味、50歳を過ぎて測量を本格的に学びはじめた伊能忠敬と同じかもしれない。先生方も私より若いという共通点もある。
Wikipediaによれば、伊能忠敬は村で洪水がおきたときに、測量や地図作成についてある程度の知識を身につけていたらしい。そして隠居後に本格的に測量、天体観測を学び、55歳から17年かけて日本地図を作成した。
私にとっては文章を書くことは生きがいというよりも、生きがいを語るための手段になると思う。
何かを進めていく時も、また誰かに説明するにも書くことがある程度できれば、スムーズに伝えることができる。
昔の人達も手紙で誰かを説得したものだ。
書くことは記録という意味合いもあるが、一方で自分が深く関ったことであれば、書く内容も自ずと深く、思い入れの強いものとなる。そのような思いを伝えられる文章を書く力がつくことを目指し、学んでいく。そして、読んだ誰かに私の思いが伝わるといいと思う。
私の今までの会社勤めの何十年かも、今後のまだ行き先を決めていない期間も、意味のないものは一つもないに違いない。生涯やり通していけそうな興味のあることを、順々に取り組んでいって、その中で私にとっての日本地図作成のような物がみつかれば幸せである。
でもそんなの甘い、どうやって生きていくんだと自分の中から別の声が聞こえてくる。
会社の先輩や同僚からは「定年まで働いた方が退職金も多く貰えるよ」とか「何でやめるの、もったいない」と驚かれた。心がざわつくけれど、どこかで折り合いをつけて、やっていこう。
別に50歳じゃなくてももっと若い時に、何か継続していけることを始められるのがいいと思う。私にはまだこれというものがないので、期限を設けて理由づけしないと退職することを決められなかった。会社を辞める必要性もないかもしれない。
人生100年時代といわれる。私はかなり健康に自信があるけれど、100年を生きる間に、それなりに体の変化もあるだろう。50代はまだ若いと思う。若い身体であれば、硬い頭も多少柔らかくなることもあると思いたい。学びは一生できる。ただ長距離の移動などに体力は必要だから、元気であることがとても重要だと思った。
新しく何かを始めるのに年齢は関係ない、とはよく言われる。だが、早く始めると長く関われる。まずは、好きな物や事柄を文章に書き起こしてみようかな。その中にきらっと光る存在を見つけられるかもしれない、文字を起こしていくことにはそんな力がある気がしている。
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