ワインがもたらす幸せな瞬間
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:多田 充(ライティング・ライブ東京会場)
「この鉄板焼きには、この赤ワインが合う」そう言って、私が接待していたお客様はワインを注文した。
「うん、美味しいですね。ワインと一緒に飲むと鉄板焼きが別物のような味がします」私は言った。
「そうだろ。こういう焼き物にはこのカベルネソーヴィニヨンという品種が合うんだ。まるで俺があなたを接待しているようだな」彼は嬉しそうに言った。
それは私が23歳の時である。それまで赤ワインがこんなに美味しく、料理の味を一変させるとは知らなかった。
それからワインにはまり、赤ワインを飲みまくった。それから、30年近くが経とうとする。かなりのぶどうの品種のワインを飲んだ。今では料理を見てどのブドウの品種が合うかが良く分かる。
一度、ドイツの会社に勤める友人と一緒に鮨屋に行った。その時、彼はドイツから仕入れた甘口の白ワインを持ってきた。この白ワインが鮨とよく合った。
「いやー、このワインは旨いね。鮨とよく合う」そう言って、友人はよく白ワインを飲み、へべれけ状態になり、上機嫌になった。飲むと話が弾み、ずっと饒舌に話し続け、私も話し続ける。ワインは人を気持ちよくさせる妙薬である。
ワインはテイスティングから始まる。少し緊張するが、このお作法がこれから味わうワインの期待値を高める。グラスに注がれたワインの色を見る。そして味を想像する。匂いを嗅ぐ。いい香りがすると胸が躍ってくる。そして、少し口に含む。舌の先、真ん中、横、で味わう。場所により味が異なる。そして口をすぼめて息を吸い、空気と触れさせる。そうするとまた味が変わってくる。ワインをテーブルに置いて、グラスを揺すり、空気を触れさせた後に匂いを嗅いで、味わう。空気に触れたお陰で、最初に少し飲んだものと比べて、更に味が変わってくる。この一連の流れで色々な香り、味を試し、このワインを開けて良かったと思う。
私はあまりお酒が強い方ではない。ワインはアルコール度数がそれなりに高いので、直ぐに酔っぱらってしまう。ワインで酔う感覚はビールや焼酎の時とは違う。心地よく酔っ払う気分にさせてくれる。ワインを飲むと必ずと言っていい程、誰とでも話が弾む。ワインの軽やかな印象が気持を盛り上げ、アルコール度数が高いので、酔い易く、料理とも合うので、ついつい飲みすぎてしまうからだと思う。ワインを飲んでいると誰もがよく話すと思うのは私だけだろうか?
ワインは一人で飲んでも気持ちが良い。美味しいワインを一人で飲んでいると落ち着く。そこに好きな音楽でもかかると、とても気分が良くなる。旨いワインを開け、一口飲み、美味しいと無意識のうちに、「旨い。幸せだな」と言ってしまうことがある。昔、横で聞いた幼い息子が「パパって幸せって言ったね。そんなに美味しいの?」と聞いてくる。いや、本当に旨いのである。「パパは単純なのよ」飲んでいない妻が言う。言わせておけばいい、本当に幸せな気分になるのだから。
ワインのヴィンヤードに行くと、ワクワクする。一直線に並んだぶとう畑が遠くの方まで続く。その情景をみているだけで、すがすがしい気分がする。一通り、工場や園内を散策した後に、色々な種類のワインをテイスティングする。この時点で、結構酔っ払い、満足度が高い。そして、食事をしながら、ワインを開ける。これで、ストレスは十分に解消される。
ヨーロッパに住んでいると、レストラン前の路上にテーブルが並び、しょっちゅう皆がワインを飲んでいる。イタリアの会社の食堂に行くと、ワインの小瓶が売っている。水替わりに飲むと聞いていたが、本当なのだろう。人々はワインを飲みながら、談笑する。ヨーロッパではワインが人生を豊かにしてくれる。
数日前に、息子の大学受験の合格通知が来た。私は迷わず、抽選で貰った、お祝い用に大事にとってあった高級ワインを開けた。嬉しさが倍増する思いであった。なぜ、ワインを開けたのだろうか。ビールでも、焼酎でも、日本酒でも、ウイスキーでもなく、ワインを。それは、ワインのコルクを開けた時の爽快感、ワインを飲んだ時の明るい会話、ワインを飲みながら音楽を聴く時の心地良さ、ワインを飲みながら数々の幸せを感じた過去の記憶と結びついているからであろう。コルクを開けた時点で、既にテンションはハイになる。そしてワインを飲んで思う。やっぱり、嬉しい気分に浸れると。
今日は妻が合格祝いに「祝(いわい)」という名前の山梨県産ワインを職場で貰って帰ってきた。息子は未成年で未だ飲めないが、妻は「私が飲む!」と張り切っている。妻も嬉しいらしい。明らかにはしゃいでいる。ワインは飲む前から人を幸せにしてくれる。
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