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メディアグランプリ

家鳴りとハクビシン


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:和田 理惠子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私は娘と猫と暮らしている。
最近、家の天井の上の方でゴトゴトと音がする。
最初は、猫が家の中を走り回っていると思っていた。
運動会よろしく、よくバタバタと走り回る猫だ。
ある日、私と娘は一階のリビングでテレビを見ていた。
ソファーに二人並んで、娘は膝の上に猫を抱いて。
その時だ。
バタバタ、ゴトゴト……。なにかがぶつかる激しい音。
うわぁ、これって家鳴りか?
それとも何かが密かに住みついているのか?
ここに猫はいるよね?
じゃあ何が上にいる?
娘と顔を見合せ、天井を見上げた。
そういえば、知り合いの市内に住む税理士が、ハクビシンの駆除に大枚をはたいたと嘆いていた。
聞いたときは税理士が住んでいる山の方は、樹木も多めだから大変だねと、ほとんど他人事だったのに。
さっそく、市のホームページに害獣被害の記事を見つけた。
アライグマ、タイワンリス、ハクビシン、ネズミ、ハチ。
ネズミとハチ以外は、出逢っても見た目はかわいらしいので、きっと怖くはない。たぶん。
アライグマといえば、ラスカルだ。
あれは、かわいかったなと、小さな頃に見たアニメに思いを巡らす。
そんな、かわいいラスカルが害獣だとは……。いやラスカルは害獣ではない。
タイワンリスは、よく枝から枝へ移動したり、電線を伝って歩いている姿を見かける。
観光客などは、「あらかわいい」とカメラを向けて写真を撮っている。いたってのどかな光景だが、リスに戸袋、雨戸など家屋をかじられたり、電線や電話線をかじられたりと、被害甚大だという。
知り合いの税理士が駆除したハクビシンだが、江戸時代の鳥獣戯画にハクビシンと思われる動物が描かれているという話もあるし、昔から「神様の使い」とも呼ばれて、縁起のいい動物だったようだ。
かわいい見た目そのままに、いい子にしていれば、神様の使いと崇められて、害獣認定されずにいたのにねえ。
だがこれが曲者なのだ。家屋侵入による建物の破損、特に天井裏だという。営巣し、子作りをする。当然、排泄は付き物だ……。
そんな曲者が、あまり樹木も多くない海沿いの、古い一軒家の我が家(借家)に来るのは勘弁してほしい。
家鳴りは、ひょっとしたら昨年暮れに亡くなった犬が、まだ家のなかで遊んでいる音なのか?
ファンタジーなホラー話も頭をよぎるが、いやいや、そんなことはないだろう。
ちょうど更新時期で、書類を揃えたり、更新料の支払いをする時期の真っ最中だ。引越しなどできるはずがない。
でも、ほんとに何かいるのだとしたら、このままこの家に私たちが住み続けるのはいかがなものか?
なけなしのお金をはたいて更新するんだもの、なんとかしてほしい。
不動産屋に連絡し、業者の手配を依頼する。
だがしかし、のんびりと待ってもいられない。
知り合いの税理士に、業者を紹介してもらおうと連絡を入れた。
「けっこう駆除費用掛かるよ、大丈夫?」
だいぶ心配されたが、背に腹は変えられない。
休みの日を調整して、業者の来訪を待った。
「こんにちは」
優しそうなおじさんがやってきた。
「どうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げ、問題の天井付近を見てもらう。
「どうですか? やっぱりいますか?」
業者の優しそうなおじさんは、
「詳しく見てみないとわからないですが、たぶん居るとしたら、ハクビシンかアライグマかな?
こちらが、駆除作業する際の見積りです」
優しそうな外見とは裏腹に、優しくない内容の見積書を手渡してくる。
ほんとに結構な金額が記載されている。
「作業自体は一日半ぐらいですかね?
捕獲器用意したり、見つけたら捕獲してから侵入箇所を塞ぐんです。糞を見つけたらキレイに清掃します。
被害に遭っているとはいえ、鳥獣保護法の法律で守られているから、個人で勝手に駆除や捕獲できないんですよ。もし、それが見つかったら罰則と罰金。市役所に言っても、申請書出して、捕獲器を貸してくれるぐらいですね」
鳥獣保護法……? 罰則に罰金……?
こちらはまったくの素人だ。知らない法律を引き合いに出され、罰則に罰金だなんて言われたら、ましてや居るかもしれないと言われれば、結構な金額も払うしかない。
悩みどころだ。
一旦、おじさんには帰っていただき、娘と相談。
侵入箇所を塞ぐとあっては、大家さんにも相談しなければならない。
それから数日後、今度は近所でボヤ騒ぎがあった。
幸い、近所の家の物置と家屋の一部が少し燃えたぐらいで大事には至らなかった。
放火か、その家の住人の失火か……。
消防車や消防士たちが火元の家を消火したり、原因を調べるために検分したり動き回る。
普段は静かな我が家の周りだけど、一時騒然とした。
つくづく、いろんなことが起こるなあ、と嘆息する。
さて、駆除である。
娘と相談した結果、今度は不動産屋経由で業者に来てもらうことにした。
セカンドオピニオンといったところか。
不動産屋経由の業者も、先日の業者と同じような話であれば、見積りを比較検討してからでも良いだろう。
「こんにちは」
今度の業者は、礼儀正しい筋骨隆々のマッチョな若者だ。
「よろしくお願いいたします」
頭を下げ、音の鳴った場所を指差して、
「この辺りでバタバタって音がしたんですよ」
「わかりました」
家の周りを丹念に調べている。
業者の若者は、
「もし、駆除という場合、弊社ではこのぐらいの金額でお受けするんですが……」
と、首を捻りながら言いよどむ。
不審に思って、
「なにかあります?」
「いや、痕跡はおろか、今の感じだといないんじゃないかなって。
最近、ご近所でなにかありましたか?」
「なにか……ですか? ああ、数日前に近所の家でボヤ騒ぎがありました」
「火事ですか? 煙はこっちに流れてきましたか?」
「そんなに大事にはならないで済んだんですよ。物置と家の一部が少し燃えたぐらいと聞いてます。
けっこう煙はこっちの方へ流れてきましたね。風もちょっとあって」
二人して、音が鳴った天井付近を眺める。
「うーん。なるほど。
まさかとは思うのですが、ガソリンとか揮発性の匂い嫌いですし、流れてきた煙に燻されて、もしハクビシンがいたとしたら、逃げ出した可能性があります。
もちろん、まったく関係ないかもしれないですが」
一方はいると言い、もう一方はいないと言う。
どちらが正しい?
業者の若者に礼を言い、帰ってもらった。
じゃあ、あの天井付近の音はなんだった? 音の正体は不明のままだ。
困惑する。
どこに行った? ハクビシン。 勝手に、ハクビシンだと決めつけてるけれど。
私は、逃げ出したかもしれないハクビシンが悲しそうにうなだれているのを想像してしまった。なんとも不憫で胸が痛む。
とりあえず、害獣はいないという判断で、大家さんの許可をもらい、予防のため動物が入ってこないよう、侵入されそうな箇所を塞いだ。
ただ、今回は被害がなくてよかったね、とは思えない。
寒さや、雨露をしのげる場所で過ごしたいのは、なにも人間だけじゃない。
巣を作る、子作りをする。そんな動物にとって当たり前のことをしてるだけなのだが、なにせ場所が悪い。迷惑行為をすると害獣認定された彼らは、人間に仇為す存在として駆逐されてしまう。
ハクビシンたちにとって、よりよい環境で暮らせるよう、願わずにいられない。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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