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【ぶっちゃけ聞きたい】修学旅行で長崎に行って楽しかったですか?



記事:斧田 唄雨(ライティング・ゼミ)

私の故郷は長崎である。
突然ですがぶっちゃけ聞きたい。修学旅行で長崎を訪れた方、長崎は楽しかったですか?

私は大学入学を機に長崎を離れた。出身地を聞かれるたびに言われたことは、
「長崎っていいよね」
「長崎って素敵」
に始まり、
「やっぱり自転車には乗れないの?」
「ねぇねぇ、今度長崎に行くんだけどちゃんぽん食べるなら中華街のどの店に行けばいいかなぁ」
「ほんとにお墓で花火するの?」
エトセトラエトセトラ……。
失敬な、自転車くらい乗れます。
おすすめのちゃんぽん屋さん? リンガーハットですが、何か。
お墓で花火ってもしかして、おしとやかな線香花火想像してます? ノンノン、ド派手にロケット花火だよ!
地元を誉めてもらって嬉しい気持ちはある。しかし、いいね、素敵だねと言ってくれた彼や彼女たちは長崎の何を気に入ってくれたのだろう。

長崎って、はっきり言って結構つまらない街だ。
修学旅行先のド定番であり 、観光都市を気取ってはいるけれど稲佐山、グラバー園、出島、どの名所もどことなく地味で冴えない。
中華街の規模もおしゃれさも横浜や神戸に劣るし、原爆資料館は修学旅行で長崎を訪れた数多くの子供たちに消えないトラウマを植え付けてきた。
極めつけのハウステンボスは、花と水と風車の美しい空間ではあるけれど絶叫マシーンがあるわけでもなし、浮かれポンチの修学旅行生があそこに放り込まれて何を楽しめると言うのだろう。私も親に連れられて幼い頃から何度も足を運んだけれど、子供心に楽しいと思えたのはお土産品の試食コーナーくらいだった。
いくら学を修めると書いて修学旅行とはいえ、小中高生が気軽にわいわいはしゃいで観光を楽しめるような土地ではないと思う。
歴史や文化を体感したいなら京都もしくは奈良にでも行けばいいのだ。異国情緒を堪能したいなら外国に飛んだ方がいい。おいしいご飯を食べたいなら近くにグルメの街、福岡もあることだし。
長崎は観光都市らしくサービス精神旺盛なくせにエンターテイナーの才能が圧倒的に欠けている。楽屋番長の芸人みたいに、お客さん向けの芸よりも素のままでいる方が断然おもしろい。

長崎に行くなら、断然夏がいい。
白いスニーカーを履いて、つばの広い帽子をかぶって出掛けよう。
長崎出身の歌手・前川清さんは「今日も雨だった」なんて歌っているけれど、ご安心あれ、長崎だってちゃんと晴れる。
年期の入った錆びだらけの路面電車はどこまで乗っても120円だ。手押し車を相棒に連れたおばあちゃんに席を譲り、化粧っけのない女子高生と並んで、意外と乱暴な運転によろけながら、窓の外の田舎くさい街を眺めよう。
そうして、ふと気がついたところで炎天下の中にふらりと降りてみるといい。長崎の街で坂でないところは想像以上に少ないから、蝉の声に耳を塞がれながらふらふらと歩いている間にあなたは坂を上っているだろう。気づかぬうちにじわりと汗が滲んでくるはずだ。坂はただの坂だから上るのは当然しんどい。坂を楽しむ必要はない。「暑い」だの「疲れた」だの文句をたれながら上ればいい。
石畳の坂道をある程度上る頃には、あなたの瞳のキャンバスにはこの小さな世界のすべてが描かれている。青い空、白い雲、緑の豊かな山々、狭い平地に押し込まれた灰色の建物群、その谷間をありんこみたいにせわしく歩き回るカラフルな人間たち、そして空よりももっと深い青の海。
あなたは疲れた足を一旦止めて、その風景を全身で受け止めるだろう。
これが、長崎だ。むしろ、これ以外に長崎はない。稲佐山だってグラバー園だって、この景色の一部でしかない。名所がなんだ? 夜景がどうした? 派手さも華やかさもないけれど、あなたの今立っている場所は驚くほど空にも山にも人にも海にも近い。自然物と人工物の境界がどろどろに溶けた街の日常風景だ。
だらだら汗を流しながら、荒い息を吐き出しながら、うるさい蝉の声に邪魔されながら、着実に自分の足で坂道を歩いてきた。だからこそ、ただそこにある穏やかなダイナミズムに心を打たれる。

長崎は冴えないエンターテイナーだ。だけど、私は楽屋番長の長崎が愛しい。真面目で文化的な観光名所の良さはよくわからないけれど、外面の良さとは裏腹に内弁慶な長崎の、無自覚なアクの強さが好きだ。
その手に持った旅のしおりはどうぞ捨ててしまいなさい。名前のある気取った観光名所よりも、当たり前に流れていく長崎の日常があなたには一番の非日常に感じられると思う。リンガーハットでちゃんぽんを食べて、墓場で子供たちと一緒に昼間からロケット花火を打ち上げて、乱暴な路面電車に揺られ、汗だくで坂を上って、目の高さにある青い空と向き合ってほしい。
先生が見せてくれる、学を修めるための長崎を楽しめなくてもいい。普段着ですっぴんの長崎の方がずっとずっと長崎らしくておもしろい。

長崎の夏はいいぞ。暑ければ暑いほどいい。流した汗の量だけ、きっとあなたは長崎を好きになる。

 

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2016-07-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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