未知の生物との遭遇は、私を成長させた
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記事:北江りな(ライティング・ライブ東京会場)
入社3年目の春、私に初めての後輩が出来た。
新入社員たちは、社内にいてもすぐ分かる。
真新しいスーツに身を包み、慣れない敬語に一生懸命。
昔の自分を見ているようだった。
自分自身が少しずつ業務に慣れてきたと思ったところに、直属の後輩がやってきた。
彼女は、2つしか歳は変わらないのに、未知の生物のようだった。
今日教えたことは、明日には忘れている。
一昨日教えたことは、初めて聞いたかのようなリアクション。
敬語と敬語の間に、「そうっすかねぇ」と、ちょっと江戸っ子のような言葉が混じる。
デスクの上には、そこそこの大きさのお神輿のフィギュア。
んん? お神輿のフィギュア? それより、何とか業務を覚えてくれないかねぇ、と口を出したくなってしまう。
いかん、いかん。口うるさい姑みたいになってしまう。
後輩指導をして2週間、すっかり、どう接していいのか、分からなくなってしまった。
学生時代、塾講師のアルバイトをしていた私は、
人に教えるのは得意だという自負があった。
でもそれは、私の幻想だった。
初めての後輩を目の前にして、その自信は音を立てて崩れ去った。
教えても、教えても、理解をしてもらえない。
教え方が悪いんだろうか、何が悪いんだろうか、迷宮入りしてしまった。
そんな時、私のお世話をしてくれていた先輩が、飲みにつれていってくれた。
「もう、どうしたらいいか分かりません!」
愚痴半ば、泣きべそ半ば、ぐちゃぐちゃの感情を先輩にぶつけた。
後輩を持つには早すぎたんじゃないだろうか。
自分の仕事も精一杯で、後輩の指導だなんて、1日8時間の業務じゃ絶対に時間が足りない。
「教えるのが上手い人って、どんな人だと思う?」
そんな私に、先輩が質問をしてきた。
質問という名の、テストのようなものだ。
「えーっと……。簡潔に伝えるとか、分かりにくいところを取り出して教えるとか、そういうことですかね……?」
何が正解かは分からない。語尾にハテナがついたまま、答えた。
「教えるのが上手い人っていうのは、勉強が出来る人じゃない。知識をたくさん持っている人でもない。教える相手の立場に立って考えられる人のことだ、と私は思うよ」
教える相手の立場に立って考える……。
そうか、私は今まで、自分主体で考えていたのかもしれない。
何で昨日教えたことが、今日にはもう忘れちゃっているの?
どうして、こんな単純なことが分からないの?
と、自分目線で後輩を見てしまっていた。
後輩の立場で、何が分からないのか、一緒に考えないといけないんだ。と気づかされた。
それから、私の業務には「後輩研究」が追加された。
後輩が何を考えて、行動しているのか、理解する必要があった。
私には当たり前のことでも、後輩にとっては初めての社会人生活。
きっとまだ、何が分かっていて、何が分かっていないのか。
彼女自身も、模索中なのかもしれない。
お節介なタイプな私にとっては、すぐ口を出してしまいそうになったが、まずは、ぐっとこらえて、「話を聴く」ということを第一にした。
何で出来ないの? ではなく、どうしてこれをしたの? という考え方にシフトした。
頭ごなしに、何で出来ないの? と思ってしまっていた自分は、とても短絡的だった、と反省した。
どうしてこうしたの? と聞いたら、実は何も考えていなかった、ということもあった。
話してみると、彼女はお祭りが好きな江戸っ子。
考えるより体が動いてしまう、らしい。
なるほど、何も考えていなかった、ということは予想外だった。
今まで未知の生物だと思っていた彼女は、実はポジティブで、そして素直な性格なんだ、ということが、だんだん分かってきた。
電話対応で、彼女自身が分からないことがあったとき、
「分からないです」と言っていたことがあった。
分からない、と言えることはとても大事だと思う。とても素直な彼女らしい。
でも、彼女が分からないことは、他の誰かが分かるかもしれない。
だから、分からないことがあったら、
まずは「確認します」と返すといいよ、とアドバイスをした。
そうすると彼女は素直に、「確認します」と言えるようになった。
入社して半年、彼女は見違えるほど成長した。
素直な人は、すぐ成長する。見習いたい、と私も思った。
人に教えることは、実は難しい。
後輩を教えることを通して、私の方がたくさん勉強になった。
今では、彼女は頼りがいのある仕事ができる社員に成長した。
そして今は、彼女自身が後輩を指導している。
「後輩が何考えてるか、ほんとわかんないっす」と、私に愚痴ってきたこともある。
でも私には、分かる。
彼女は、後輩を指導することで、きっと、さらに成長するだろう。
素直に、謙虚に、私も成長したいと思う。
教えることは、学ぶことだ。
***
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