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雨の日の、雨女のひとりごと


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記事:種村聡子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
雨女はきらわれる。いや、敬遠されると言うべきか……。それはそうだろう。雨女がいると雨が降る。楽しみにしていた予定の日に雨が降ってしまうことを、望む人はいない。誰もが晴れてほしいと思う、大切な予定とは、たとえば何だろう。入学式? 結婚式? 誕生日? 試験の日? いろいろあるけれど、わたしはそんな大切な日には、ことごとく雨が降っていた。
 
そう、わたしは雨女なのだ。
 
母が言うには、わたしが生まれた日は、雨が降っていたという。
入学式はことごとく雨降りだった。おろしたての制服が濡れてしまうなあ、真新しい靴が汚れてしまうなあと、悲しい気持ちになったものだ。
小雨が降る中、傘をさして第一志望の学校の受験番号をみつけたこともある。
現職の入社試験の日は嵐だった。受験を辞退しようかと悩んだ末、びしょ濡れになりながら辿り着いた場所で、もうすぐ勤続20年になろうとしている。
北海道でのリゾートウェディングの日も、息子を出産した日も雨だった。
 
大きなイベントで、ほぼ雨が降っていたのは、とても悲しかったし、残念だった。雨が降っているのはわたしのせいかもしれない、と考えて落ち込むこともあった。
 
しかし、「雨女」として声を大にして訴えたいことがある。それは、雨女のまわりはいつも雨が降るわけではない。ましてや、雨が降ることを操れるわけでもない。大事な予定の日にわたしが一緒だとわかると、「そうかあ、雨が降るかもね」という発言や、わたしが念じればピンポイントで雨を降らせることができる、と勘違いされてしまうことがある。雨女には雨を降らせる力などないのだ。
 
たしかに、大事なイベントで雨が降ることが多かった。だが、運動会では快晴だったし、遠足だってよいお天気に恵まれることが多かった。それなのに、なぜいつも雨が降ると思われてしまうのだろうか。
 
いまだから白状すると、子どもの頃、わたしは運動会で雨が降ることを密かに望んでいた。わたしは運動音痴で運動会は楽しみな行事ではなかった。「雨が降ったら中止だろうな、雨が降ったらいいな」と、願っていた。もちろん当日は雨など降らず、快晴だった。遠距離を徒歩で進む遠足や、マラソン大会も同じだった。一生懸命に念じても、雨は降らなかった。
 
望んで雨を降らせることなどできないし、いつも雨が降るわけではない。では、いつ降るのか。思い返してみると、わたしの人生の、大切なターニングポイントで雨が降ることが多かった。
 
入社試験の日、一緒に受けた同期はかけがえのない親友となった。わたしは嵐の日、長く働ける職場と、かけがえのない親友、ふたつと巡り会ったのだ。
 
自宅を建てるための土地を探しているときもそうだった。理想的な場所を見つけ、見学に行ったのは雨降りの夜だった。まわりは暗くてよく見えない状態、しかも小雨が降っていた。それなのに、その場所はとても清々しくて、きれいな空気が流れているように感じた。わたしはすぐにその場所が好きになり、ここに住みたいと強く思ったものだ。まるで、雨が「この場所はいいところだよ、ここにしなさい」と背中を押してくれているみたいだと感じた。その後、無事に家を建て、いまは平穏無事に家族そろって暮らしている。わたしはあの時の直感は正しかった、といまでも思っている。
 
「あなたが生まれた日は、桜が咲いているなか、雨がきらきらと輝きながら降りそそいでいたのよ」と、母は言っていた。雨はわたしが生まれたときにも降っていた。まるで雨はわたしの誕生を祝福してくれていたみたいだ、と思い至ったとき、とてもうれしくなった。そして、雨はわたしが出産した日も降りそそぎ、息子の誕生も祝福してくれた、とわたしは人知れず信じている。
 
わたしの人生のなかで、雨はいつもやさしく寄り添ってくれている。雨が降っている日に決断したことや決まったことは、その後、順調に進んでいったように思う。その決断は間違っていないよ、自信を持っていいよ、と雨が背中をそっと押してくれているかのように感じるのだ。
 
だからわたしは雨が降る日に、ちょっとわくわくする。今日起こった出来事が、もしかしたらこれからの人生において、大きな意味のあることになるかもしれない。そう思いながら過ごすと、ちょっと憂鬱な雨降りの日がとてもかけがえのない日に変わっていくのだ。いつか、「あの日が人生のなかで大きなターニングポイントだった!」と思い返すことがあるかもしれない。すると、いまはなんでもない、ちいさな出来事も愛おしく感じられるようになるのだ。
 
雨は、わたしにとって、そっと寄り添って後押ししてくれる存在になった。もう、雨が降って憂鬱、なんて言わない。雨は、わたしの進むべき道を指し示してくれる存在、わたしの味方なのだから。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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