秘めフォトは、ガラスの靴が手に入れられる場所なのかもしれない。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松下広美(ライティング・ゼミNEO)
金曜日の夕方、みなさまをお出迎えする準備を始める。
少し前から気分は高まり、そわそわしている。
椅子と机を動かして、特別なスタイルに整える。
魔法を使ってしまえばいいのにと、面倒くさがりな私は思うけれど、アシスタントである私には、残念ながら魔法を使う力はない。
今日のお客様はどなたかしら?
あと1時間くらいでお越しになりますね。
そう思い、ご予約のお客様のお名前を確認していると、
「こんにちは……」
あら、もう最初のお客様が!
まだまだ準備は始まったばかりなのに!
「いらっしゃいませ! お早いですね」
「ちょっと緊張してしまって……」
「緊張することはないんですよ。でも、緊張しますよね。お茶でも召し上がって、お待ちになってくださいな」
急いで準備をしなければ! 早いお着きだからといって、お待たせするわけにはいかないわ!
ガチャガチャと鎖を引き、白の世界の準備をする。
白で統一した世界に誘い込むために、お客様に魔法にかかっていただくために、準備をする。
特別な空間にするために、黒のカーテンも引いたところで
「こんにちは!」
「あら、お久しぶり! あ、3日前にお会いしましたね」
いつものお客様がお越しになった。
これでは、準備が途中でも会場にお通ししないわけにはいかない。
パパっと片付け、白の世界の会場に入っていただく。
「ご参加の方はこちらへ」
ご案内をすると、お声をかけてくださった方だけではなく、他にもお待ちの方が……。
お待たせしてしまい、申し訳ありません。
心の中でつぶやきながら、残りの準備をする。
すべての準備が整う。
「今日、初めてのご参加の方は……いらっしゃいますね。緊張されていますか?」
いつも通りの滑り出し。
「大丈夫です。緊張されるのが当たり前です。その緊張感が大切なんです。最初は、お通夜のように始まることもあるんです。でも心配しないでくださいね。最後には楽しんでいただけると思います」
それでは、始めましょう! と言おうとすると、もう、脱ぎ始めてしまっているリピーターのお客様が……。
そう、このイベントは、始まってからお客様の準備が始まる。
ご説明をして、お着替えの時間があり、そしてメインイベントに入っていく。
ああ、初めてのお客様が戸惑っていらっしゃる! これは大変!
でも、リピーターのお客様は、この日を待ちわびていたんですよね。いつも楽しそうにしていらっしゃいますものね。
「ちょっと気が早い方がお着替えされていますが、ご安心ください。後ほど、お着替えの時間もお取りしますので」
お伝えしたところ、初めての方はホッとした表情で、リピーターの方は「あら、失礼いたしました」と笑顔でお答えに。
私もほっと胸をなでおろす。
いよいよメインイベントがスタートする。
おひとりずつ、白の世界に入り、光を浴びる。
その瞬間が切り取られ、写真に収められていく。
何枚も、何十枚も。
時には「キレイ!」「かわいい!」と周りの方からの声がある。
時には「私じゃないみたい……」と撮られた方がつぶやく。
そして、大きな拍手が起きることもある。
私はその様子を、隅の方で見守る。
何かあればすぐに動けるように、そうでなければ邪魔にならないように。
このイベント、秘めフォトのアシスタントをするようになってから、1年半ほど経った。
目の前で、何十枚、何百枚と、光とともに切り取られていくのを見てきた。
緊張をされていた、初参加の方も、最初の光を浴びた瞬間に表情が変わる。
リピーターの方は、前回よりも豊かな表情になっている。
そして、ドキッとする表情をこちらに向けてくる。
この日も、私の方を見るようにと、カメラマンからの指示を受けた方がこちらに視線を合わす。その視線に、完全に射抜かれ、吸い込まれた。
視線を合わせているのは同性だというのに、ぐっと引き込まれる。惚れる、という言葉はこういうときに使うものなんだろうと思う。
ただ、その視線は私に向いているのだけれど、私を見ていない。目の前にいるのが私なだけで、撮られている方は鏡を覗き込んでいるかのような、そんな気がする。
秘めフォトは、今までに様々な効果があったことが証明されている。
結婚できた。妊娠した。彼氏ができた。その他にも、仕事がうまくいくようになった、前向きになった、人生が変わった、という方もいらっしゃる。
たぶん「秘めフォト」という魔法があるのではないかと、私は思っている。
かぼちゃの馬車をつくってくれるわけじゃないし、ネズミが馬に変わるわけでもない。そして、ガラスの靴もないけれど、「秘めフォト」という魔法にかかる。
魔法とでも言わなければ、この様々な現象を説明できるわけがない。
写真を撮られただけで、こんなにきれいになっていくなんて。
白の世界から、黒の世界に変わっていく。
「かっこいい!」「やばい!」
声にならない声が、みなさまから発せられる。
シンデレラの魔法は解けてしまった。
「秘めフォト」の魔法も、もしかしたら解けるかもしれない。
ただ、シンデレラが魔法によって世界が変わったように、「秘めフォト」の魔法も世界を変えてくれるのだろう。
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