お酒を飲んだらほっぺが赤くなる系女子になりたかった
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記事：川端彩香（ライティング・ゼミNEO）
私は、決して吞兵衛ではない。
家にお酒が常備してあるわけでもないし、夜な夜な平日休日問わず飲みに出かけることもない。一人で飲みに行くこともない。飲むのは友人と出かけたときや、だいたいは会社の同僚と仕事終わりに、だとか、最近は情勢のせいで少なくはなっているが、忘年会や新年会くらいだ。週に1回か2回、行くか行かないかだ。
学生の時もそうで、飲み会というものはあまりなかった。サークルに入っていなかったからというのもあるだろうが、仲の良い友人もお酒をガブガブ浴びるように飲むような子は少なかったので、頻繁に飲むことはなかった。
なのに、だ。
なぜだか私は異様にお酒に強いのだ。
一升瓶をいくらでも！ というわけではないし、そんなこと言うなら飲み比べしようぜ！ とか言ってくる人は男女年代問わずお断りなのだが、決して弱くはない。そして誰かと一緒に飲んでいると「強いよね～」と言われる。そこで知った。どうやら私はお酒に強いようだ。
何杯飲んだかなんていちいち数えていないのでわからないが、結構飲んでもまっすぐ歩けてしまうし、記憶を失うこともなければ理性が崩壊することもない。平常時よりやたらとよく笑うようになり、面白くないことにもゲラゲラと笑うようにはなるが、泣き出したり暴れたり服を脱ぎだしたり怒り狂い出したり、人様に迷惑をかけるようなことにはならない。顔色も赤くなることなく、何も変わらない。だからどれだけ飲んで「ちょっと眠いなー」とか思っていても、見た目が何も変わらない私は、決まって潰れた先輩のお世話をし、肩を貸し、タクシーに押し込んで運転手さんに行き先を告げる係なのだ。それくらいには、私はお酒に弱くない。
先日、異性と韓国料理屋へ食事に行った。
夜だったのでお酒を飲もうとなったのだが、私は今までマッコリを飲んだことがなかった。アルコール度数はそこまで強くないが、飲んだことがないので未知ではある。これを飲んでも悪酔いしないだろうか……と不安になりつつも、やはり少し可愛く見せたいという欲もあり、普通のマッコリではなくバナナマッコリを頼んだ。バナナマッコリが可愛いかどうかは、今少し置いておいてほしい。
そもそも私はバナナ味が好きなので、バナナマッコリも好みの味だった。マッコリめっちゃおいしいやん……！ と一種の感動を得た私は、そこから一気に飲み干して桃マッコリやらマスカットマッコリやら、他の味のマッコリを次々と頼み、そしてグビグビと飲み干した。
いつも通りのペースでお酒を飲む私を見て、食事を共にした彼は言った。「……顔色、全然変わんないね」と。
そうかなー？ と言いつつスマホのインカメラで自分の顔を映してみる。……確かに普段と何も変わっていない。そして「変わんないね」と言った彼を見ると、同じペースで飲んでいたが、その顔は真っ赤だった。
退店しても、よろけることなく真っすぐ歩く私。1軒目は奢ってもらったので、「じゃあ2軒目行こう！ そこは私が奢る！」と2軒目へ行き、そこでもハイボールをグビグビと飲み続ける。終電間際に退店し、駅まで彼と歩く。やはり真っすぐ歩ける。よろけない。彼の腕を掴んだり、頼ったりすることなく、それはそれは素面かのようにシャキシャキと歩く。なんなら50mくらいなら走れる。顔色も、やはり変わらない。
そして言われる。
「いや……、あれだけ飲んで、ほんま強いよね」
翌日、「ご飯どうやった！？」とワクワクした面持ちで先輩が聞いてきた。
19時くらいから飲み始めて、終電間際まで飲んでました～あはは、と言うと、「お前まさか、いつもと同じ調子で飲んだんじゃないよな……？」と聞いてきた。
「いや、いつも通りに飲みましたよー！ お酒強いねーって言われました、あはは」と返すと、先輩は盛大な溜息をついて言い放った。「お前はほんっっっまに可愛くないな！！！！！」と。
はあーーー！？ 普通に酒飲んで何が悪いんですかーー！！！！ とつっかかる私に、先輩も反撃してきた。
「ちょっといいなと思ってる異性と飲むのに、お前の酒の強さなんか可愛さの欠片もなんもないやろ！！！ どんだけ飲んでも顔色変わらんしさ！ 顔色はまぁ仕方ないにしても理性あるし真っすぐ歩けるし！ 隙が！ なさすぎるねん！！！ 男なんかアホなんやから、ちょっと顔赤くして『酔っちゃった』とか言うて服の袖なりちょっと掴んだらそこまでタイプじゃなくても可愛いなって思うねん！ そういうもんやねん！ お酒に強いのは体質の問題やから仕方ない。だいたいの場合はその方が良いことの方が多い。でもな！！！ せめていいなと思ってる男の前では！！！ ちょっとぐらい演技をしなさい！！！！！」
……。返す言葉が見つからん。
お酒に強いことが、こんなデメリットに働くなんて……。誰にも迷惑はかけないはずなのに……。お酒は楽しく飲みたいのに、こんなにいろいろ考えながら飲まなければならないなんて……。難しい……。難しすぎるじゃないか……。
もうこんなことなら、お酒に弱い、カシオレ1杯でほろ酔い気分になれて、ほっぺが赤くなる系女子になりたかった。カシオレ1杯なのに、お店出たら誰かの腕やら肩やらを借りないと真っすぐ歩けない系女子になりたかった。
なりたかった……。
この彼とは幸いにもまだ連絡が続いており、またご飯に行く予定になっている。お酒の強さはバレてしまっているが、お手洗いに行った時にでも、チーク濃いめに塗りたくって席に戻ろうか……。「今日はなんかあんまり飲めへんかも～」とか言ってみようか。あ、家で不自然じゃないくらいのチークの加減を練習しないといけないな……。
……ああ、めんどくさい。めんどくさいなぁ、もう！！！！ なんで私こんなにお酒強いんだよ！！！ せめて顔赤くなれよ！！！！！
でもこの「お酒強すぎる問題」には早急に結論を出さねばならない。
彼に可愛げのない私を受け入れてもらうか、私がチークの塗りたくり加減を習得し、かつ酔った女子の可愛い仕草を習得するか。
難問ではあるが、乗り越えた先にハッピーエンドがあると信じて、私はこの問題に取り組みたいと思う。
＊＊＊
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