おまけのおまけのおまけの人生はやさしい雨のように
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:上田聡代(ライティング・ゼミ4月コース)
16歳、高校2年の夏休み。
私は幼馴染と北海道一周旅行をした。
どれだけ安く行けるか知恵を絞り合った旅行。
行きは、30時間かかる船。それも2等室。低価格で泊まれるユースホステル。アクシデントもあったが、多くの人の優しさに恵まれ、帰路についた。
1985年8月12日。帰りだけは贅沢しようと飛行機を選択。
この飛行機の切符、お盆と重なり、なかなかとれなかった。
結果、北海道から大阪までの直行便ではなく、東京で乗り換えることになった。
やっととれた切符は、北海道から東京は日航機。東京から大阪は日航機が満席で全日空機となった。東京19時発に出発予定だったが、少し遅れた。
飛行機に慣れていなかった私たちは緊張と疲れで言葉数は少なくなっていた。
やっと到着。空港には、私の母と姉が迎えにきていいた。
東京19;00発としか伝えていなかったので、私たちが、日航機か全日空機のどちらに乗っているかがわからなかったと言う。
両機共19:00発で「遅れ」と表示されていたという。先に到着した方に乗っていて良かったといいながら、うどんを食べに行った。
その後、友人を家に送ってから帰宅した。
中学1年生の妹が泣きながら玄関に来た。
「お姉ちゃん、帰ってきたよ!」と父に伝えている。
様子がおかしいとは思ったが、父に「ただいま!」というと、将棋盤を見つめながら「ん、おかえり」と一言。
妹が泣きながら説明。
東京19時発の飛行機が墜落したことを知り、血の気がひいた。
しばらく心臓が漠々して、テレビのニュースを見ていた。
日本航空123便墜落。520人の命が消えた。
母が、ゆっくり言った。
「おまけの人生もらったね」
それをきっかけに、人の命の重さを心で感じた私は、高校卒業後、看護師になる道を選択した。おまけの人生を生きていることは忘れたことはなかった。
健康だけが取り柄で、働くことに夢中で時は流れた。
2006年1月。
突然の眩暈で立ち上がることができずに救急隊員に運ばれた私は、小脳梗塞と診断された。
喉が半分動いてないので、飲食ができない。
体半分動かないし歩けない。
深刻な状況だった。
梗塞部位の関係で、手術も難しい。
めまいが襲ってくるので目を開けることもできなかったし、意識も朦朧としていた。
母と妹は、「呼吸ができなくなるリスクや後遺症のリスク」を、医師から説明されていたと後で聞いた。
ところが、食べることに執着心があった私。
トライしてみようと、ゼリー食から開始になった。
ゼリー食? 看護師をしていたが初めて聞いた。
ゼリーのごはんかな? ゼリーでできたおかずかな?
配膳されてきたトレーの上には、お椀が一つ。
「あ~。一つだけか。ま、いっか」と、ワクワク蓋をあけてみた。
え? コンビニで売っているようなゼリーが1個。
がっかりしたが、久しぶりに何かを口にする嬉しさで心は躍っていた。
スプーンを手に持ち、ほんの少し口に入れる。
むせた。喉につまる。
飲み込めないのだ。
看護師が駆けつけてきた。
「今日はやめときましょう」と言われたが、私の負けず嫌いの部分がニョキニョキ現れた。
「大丈夫です。ちょっとずつ食べます」と言い、落ち着いてから再開した。
一口、喉を通った! 食べることが、こんなに嬉しいと感じたことはなかった。
飲み込むコツをつかんだ私は、もう一口、もう一口と進む。
心配そうな看護師は、飲み込むたびに、「口開けて」と、確認する。
ゼリー1個と格闘した私は1時間かけて勝利した。
次の食事。色はピンクから緑になっていたが、またゼリー1個。
再び1時間かけて勝利。
これを乗り越えないと、次の食事に進むことができないからだ。
3日続いた後、やっと全粥食になった。
その頃には、お見舞いに来てくれる友達に、大好きなプリンを買ってきてもらった。そして、今だから言えるけれど、こっそりと食べていた。ゼリーよりなめらかで食べやすい。プリン食にすれば良いなどと考えていた。
リハビリを終えて退院するときに、また母が言った。
「おまけの人生もらったね」
母は覚えていなかったが、この言葉は2回目。
つまり、私は「おまけのおまけの人生」を歩き始めた。
それまでのようには動けなくなっていたが、生きていることに感謝できるようになっていった。
2019年10月。
突然の発熱だった。42度から下がらない。立ち上がることもできない私は、また救急隊員のお世話になった。
原因不明の熱。全身検査するが何もわからない。
血液検査で炎症反応だけが驚く数値で下がらない。
寝たきりになった私は、24時間持続点滴。抗生物質を投与するが効果なし。
3日以上、このような状態が続くと、「もうだめかも」と思い始めた。
おまけを2回もいただいた。幸せだったよな。
横になりながらスマホを握った。
荒い呼吸で、遺書を残しておこうとしたのだ。
書き終えた。
「わが生涯に一片の悔いなし」
北斗の拳のラオウの言葉。
これだけだった。
2週間近くで、奇跡的に回復した私は、医師からも看護師からも祝福の言葉をいただいた。
友人は「ホントにダメと思った」と言いながら喜んでくれた。
帰宅して、
「お母さん、おまけのおまけのおまけの人生いただいたで」と、手を合わせて位牌に伝えた。
3回目のおまけの人生は、誰かの役にたてるように、誰かの応援ができるように生きたい。
やさしい雨のように……
***
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