スタバの店員って、美男美女しかいないけど顔採用なの? 思いきって中の人に聞いてみた
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記事:永尾 文(ライティング・ゼミ)
ずっと疑問に思ってたことがあるの。
あのさ、スタバってさ、顔採用なの?
ぐっと声を潜めた私を、きのこさんは一瞬きょとんとした目で見つめた後、ぷっと豪快に吹き出した。
「ねぇ、それ、私に聞く?」
「だって、きのこさんに聞くのが一番正しいでしょ」
「あのさぁ、スタバの元社員が顔採用ですって言っちゃったら自分美人ですって吹聴して回るようなもんじゃない。どんな羞恥プレイよ」
「えー。実際美人なんだから、いいじゃん」
「ばか。そういうこと言わない」
「へへ、きのこさん照れたね」
日曜日の14時30分、 天神南のロフト横にあるスタバで、 久しぶりに年上の友達に会った。『きのこさん』というのは彼女のあだ名だ。
縦に長い店内は意外なくらい奥行きがあって、この時間のスタバにしては珍しくテーブル席が2席あいていた。きのこさんは社員になるだけあって、スタバが大好きだった。この混雑する時間帯でも座れそうな店舗を知っていて、的確にガイドしてくれる。
きのこさんは大きな唇にベージュの口紅を引いた、白い開襟シャツとクロップドパンツが似合う大人の女性だ。スタバを退職してからネイルを始めたらしく、つやつやの爪も白くて細い指も、大きくて長くて、形がきれい。
スタバの似合う女の人だ。
「ほら、スタバの男性店員って、みんなイケメンでしょ。女の人もみんな可愛いし、美人だし。ドトールとかベローチェとかは、どっちかっていうと親しみやすい愛嬌ある系じゃん。スタバはちょっと違う。洗練されてる気がする」
「だから顔採用って結論に至ったわけ?」
「てか、『スタバ バイト』でググったら、高確率で顔採用ってヒットするよ」
「根も葉もない噂だ~」
「根のないところには雑草も生えませんって。やっぱみんな思ってるんだよ。スタバの店員さんは美男美女揃いだって」
私はきのこさんの爪に似ても似つかない、短くて小さい爪をそれとなく隠し、おもいっきり甘いフラペチーノを飲む。ダークモカチップフラペチーノをホイップ増量して、さらにハチミツかける人初めて見たと、きのこさんには笑われた。
「きのこさん、笑わないで聞いてね。私、それこそ二十歳くらいの頃は好きなタイプ聞かれたらスタバ店員みたいな人って答えてたんだよね」
ちょっとばかり、恥ずかしい思い出だ。
落ち着いた照明の店内。カウンターの向こう側にいるのは、笑顔が眩しくて爽やかすぎる美男美女。
スタバなんか一軒もない、周囲を山と海に囲まれた田舎から福岡に出てきて、緊張しながらも一人で店に入れるようになったのに、私にとってそこはいつまで経っても憧れの場所だった。
世界が違いすぎる。けれど、惹かれてしまう。
あー、スタバ店員みたいな白シャツが似合う爽やか系の彼氏と、おしゃれに大名をウインドーショッピングして、キャナルシティで映画見て、海の中道の水族館とか行ってみたいなぁ。最後はスタバでお茶して、けやき通りを手をつないでゆっくり帰るんだ。別れ際、オレンジの夕焼けの中、二人の影はゆっくり重なり……そして……キャッ。
……。
……。
「……とか言っちゃってたわけですよぉぉぉ!!」
「あ~、わかる~! わかるよ! 大丈夫、誰もが通る道だよ、そこ!」
「わかる? わかってくれる? スタバ男子に憧れちゃう乙女心!」
つい最近までカウンターの向こう側にいたはずのきのこさんまで、頭を抱えて悶え始めた。
「白シャツで黒髪で、たまに黒縁眼鏡なんてかけられるとさぁ……!」
「やばい! 作画は是非とも羽海野チカでお願いします!」
都会生まれ都会育ち、キレイなお姉さんのきのこさんでさえ、スタバ男子の破壊力に頭をやられていた時代があったと知り、私は少しだけ安心した。
まぁ、しかし、あの爽やかさに永遠に憧れ続けられる人って余程自分に自信があるか、ド天然かのどちらかだと思う。卑屈な私はスタバ系彼氏の横に並ぶ想像上の自分を、お土産物屋のこけしにしか置き換えられなくて、呆気なくスタバ系彼氏を諦めた。
とにかく、だ。
「……とにかく、スタバの店員にはイケメンもしくは美人しかいないと思うの。少なくともスタバ店員みたいな人、で通じるくらいの共通の認識はできてるでしょ」
ピンクベージュの爪を唇に当てて、うーん、ときのこさんは考え込む。
「……顔採用といえば顔採用なのかも……?」
「ほら! やっぱり!」
鬼の首でもとったかのように、私は言ってやった。
「私、在職中はバイトの面接とかもやってたんだけど、やっぱ男の子も女の子も爽やかで白シャツの似合う子を採用してた気がする。けど、それって美男美女を採ってたわけじゃないよ?」
ん? どういうこと?
スタバは結局顔採用なの? そうじゃないの?
頭の中がハテナで埋め尽くされる。
「大事なのは清潔感、笑顔。それと性格」
「どんな性格?」
「素直そうな子だね」
「それが採用基準?」
なんか、思ったより、普通。っていうか、それってスタバに限った話じゃないじゃん。
飲食店だから清潔感が必要で、接客業だから笑顔が大切で、指導することを考えると性格は素直な方がよくて――なんでこれで、スタバに美男美女が集まるわけ?
「まぁ、でも一番大事なのは、なんというか、『スタバっぽさ』なのかなぁ」
きのこさんはここで声を低くした。
「たとえば、今レジに立ってる子」
「うん。ちょっと色が黒くて、短髪で目がキラキラしてて、スポーツマン風細マッチョイケメンだね。テニスサークルにいそう」
「でもよく見ると、歯並び悪い。目は大きいけどかたっぽだけ一重。イケメンに見えるのは髪型補正もあると思う」
不躾ながら横目でレジの様子を窺うと、ちょうど女性客が一人入ってくるところだった。こんにちは、と客に微笑みかける彼の歯列は、なるほど、確かに不揃いだ。
「あの子は歯並びが悪くて、私は口が大きい。それって本人的にはコンプレックスだし、客観的に見ても短所でしょ? それでもスタバ店員は美男美女しかいないって言ってもらえるなら、それはたぶん『スタバっぽさ』のおかげだと思うの」
「だからぁ、『スタバっぽさ』って何?」
勿体ぶるきのこさんに、若干苛立ってきた。
だって、もしかして私にもきのこさんの言う『スタバっぽさ』があるなら、こけしみたいな見た目でも涼しげな和風美人としてスタバ店員デビューできるかもしれないじゃん?
美男美女の仲間入りできるかもしれないじゃん?
私はもう辞めた身だけど、と前置きして、きのこさんは教えてくれた。
『スタバっぽさ』とは、何なのか――。
「スタバ店員になり切る覚悟、かな?」
覚悟。なんか、思っていたのと違う。予想外に重い言葉だった。
「スタバってぶっちゃけマジで仕事きついよ。どこの店舗も人手不足でお客さん多いし、ドリンク作るのはとにかくスピード勝負だし。憧れで面接受けに来る子、いっぱいいるけど、面接で続かないだろうなって思った子はだいたいすぐ辞めたね。だから、採らなくなった。どんなにイケメンでも可愛くてもね」
「それが、『スタバっぽさ』のない子なの?」
「そう。覚悟のない子たち」
長く伸ばした爪をいじりながら、きのこさんはふと目を伏せる。
「続いた子は裏でフラペチーノのホイップ立てる練習したり、コーヒー豆の違いを勉強したり、がんばり屋さんも多かったよ。バイトなんだからそんなにがんばらなくていいのに、って何度も思ったけど。大学生のバイトの中には、最終的にスタバにコーヒー豆卸す会社に就職した子もいたかな」
「えっ、それはほんとにすごい」
「でしょ? そういう子たちって、スタバが本当に大好きで、スタバ店員に誰よりも憧れてて、なんていうかこう、自分の理想のスタバ店員に近づこうとしてるんだよ。理想のために努力もするし、性格も変える。『スタバっぽさ』を自ら作り上げてるんだと思う」
きのこさんは冷めてしまったラテを一口飲んで、続ける。
「覚悟を持って面接受けに来てるかどうか、顔見れば一発でわかるから。そういう意味ではスタバは顔採用だよ。でも顔のいい子を採るんじゃなくて、いい顔してる子を採る。少なくとも私はそうやって面接してきた」
あ、他の店舗は知らないよ、ほんとに顔採用してるところももしかしたらあるかもね。
冗談めかしてカラリと笑う大きな口を、私は間違いなくきれいだと思った。
『スタバっぽさ』、かぁ……。
私にはたぶん、一生出せないなぁ。甘いチョコレートの屑を噛み砕きながら呟くと、きのこさんは「出せるよ」と、優しく囁いてくれた。
「スタバでも、スタバじゃなくても『スタバっぽさ』は出るんだよ」
「なにそれ。自分の仕事に覚悟を持つってこと?」
「仕事に、っていうか自分の理想の姿に?」
理想の姿という言葉に、どきっとした。
仕事だけじゃない、これは生き方の話。
「……覚悟とか、理想とか、そんなの怖い」
どこまでも卑屈な自分が、嫌になる。だって、努力するのは疲れる。がんばってもダメだったらどうしようって思っちゃう。わかってるよ、怖さを口実に甘えてるだけなんだって。
そんな私の本音を見透かすように、きのこさんの大きな目がきゅっと細められた。
「みんな同じだって。裏でホイップ立ててた子も、毎日泣いてたよ」
「きのこさんも、怖かった?」
「怖かった、……かな。けど、そんなの忘れちゃえるくらい、めっちゃくちゃ、楽しかったから」
いいんじゃない、怖いの、抱えたままでも。もっと楽しいって思えるならいつの間にか忘れちゃうもんだよ。
私に向けて言ってくれているようで、どこか自分に言い聞かせているようにも見えた。
次の夢を追いかけてスタバを辞めたきのこさん。しかし、このキレイなお姉さんはこの先もきっと、ずっと『スタバっぽさ』を抱えて生きていくんだろう。
……私も『スタバっぽく』なれるかな?
「きのこさん、おすすめのコーヒー教えてくれる?」
「あら、お代わりですか、お客様?」
「うん。ねぇ、コーヒーで乾杯しよう」
きのこさんの前途を祝して。
優しい年上の友達は、ネイルの光る大きな手で空になったタンブラーを持ち上げた。そして、にんまりと口角を釣り上げる。
「よし、お姉さん、おもいっきり苦いコーヒー勧めるからね~」
「あ、ちょ、ちょっ、ほんとにそれは勘弁!」
長居しちゃってすみません、スタバの店員さん。あと一杯だけコーヒー飲んだら帰りますから。
天神南のスタバは、奇跡的にすいている。私たちは歯並びの悪いイケメンのレジに並び、『スタバっぽい』素敵な笑顔にこっそり胸をときめかせた。
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