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私の言葉が誰かの呪いになりませんように


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記事:比留間詩織(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
言葉は呪いになる。
 
自分の声が「少し低いのかな?」から「低いから嫌だ」と明確にきらいになったのは、いつだろうか。
「演技は良いけど、声がヒロイン向きじゃない」と演劇部で言われた時?
「男っぽい声だよね」とスピーチが終わった後に言われた時?
「見た目と声のギャップが大きい」と色々な人から言われた時?
 
決定的なものはない。「声が低いかもしれない」と15歳で気が付いてから、声に関する言葉をスルーできなくなった。スルーできなかった言葉たちが、心のコップに溜まっていく。コップの中身が溢れるころ、自分の声が嫌いになった。どんどん自分の声を避けるようになった。
 
演劇部ではなるべく裏方に回るようにした。夢だったヒロイン役を諦めて。
声のイメージと見た目を揃えようと、ショートカットにしてボーイッシュな格好をした。
本当は可愛いファッションが好きなのに。
誰かに強要された訳ではない。自分の心を守るために自分を変えた。
心のコップがまた溢れることがないように、これ以上自分の声が嫌いにならないように。
言われてきた数々の言葉は、コップの中身は、私を縛り付ける呪いとなった。
 
呪いは足枷になる。授業中の発言、友達との会話。「声が変ではないだろうか」と心配で、消極的になってしまった。「最近話さないね」と友達に言われても相談できずじまい。将来のことで悩んでいる友人の前で、声について話すのは自意識過剰のように思えてしまったから。「少しは静かにして」と中学生の頃まで言われていたのが嘘のように、暗く大人しくなった。
自分をきらいになった。
 
言葉は呪いになる。でも、解いてくれるのも言葉だ。
コンプレックスだった声を少し好きになれたのは22歳の時。
声について職場で話している時だった。
「〇〇さんの声素敵だよね」「〇〇さんがあなたの声褒めていたよ」と話している中で「私、比留間さんの声が好きなの」と言われた。
びっくりして固まってしまった。こんな私の声を褒めてくれる人がいるなんて。思わず「そんなことないですよ。低いし、聞き取りにくいし」と否定してしまう。
褒めてくれたけれど、本心ではそう思っていないはず。ただ私がそこに居たから褒めただけ。そう思ってしまうほど、重い呪いを背負っていた。
疑っている様子が伝わってしまったのか「本当に思っているよ」と目を見て言われる。真っ直ぐ目を見て言われた言葉は、嘘だと思えなかった。
 
この人は私の呪いを解こうとしてくれている。直観的にそう感じた。でも、積み重なった呪いは、簡単に解けない。解いた後の声を、自分を、受け入れられるかわからないから。
声を受け入れることは、それまでの自己否定を受け入れることだ。
 
わかっていた。
「演技は良いけど、声がヒロイン向きじゃない」という言葉は、ヒロイン役以外を目指せば良いこと。
「男っぽい声だよね」という言葉は、世の女性基準の中では低いだけだということ。
「見た目と声のギャップが大きい」という言葉は、小柄の割に太目の声質だということ。
全部否定ではなく、ただの感想だということはわかっていた。
1つの意見に過ぎないものを、勝手にマイナス意見にしていたのは自分だ。
気にしていた部分を指摘されて、きらいになった。きらいになって、呪いになった。
自分で自分を呪って、否定していた。
 
でも、手放してしまいたい。身軽になりたい。
 
なにより、自分をもっと好きになりたい。
 
きっとこの先、また声について言われることがあるだろう。傷つくこともあるかもしれない。でも、褒めてくれる人もいる。私の声を好きだと言ってくれる人がいる。その事実だけで、胸がいっぱいになる。呪いだと思っていた言葉が、呪いではなくなる。かけてしまった呪いは簡単に解けないけど、少しずつ解いていけばいいのかもしれない。もう私は大丈夫だ。
 
呪いが少し解けて軽くなった身体を動かして、ふと思う。
私の一言で、呪いにかかった人がいるかもしれない。自分のことをきらいになった人もいるかもしれない。そう思うと怖くなる。今まで自分が呪いをかける側だと思ったことがなかったことに気がつく。
 
言葉は取り消せない。言われた言葉は記憶から消せない。
捉え方も人それぞれだ。私がただの感想だと思っていても、否定されたと捉える人もいるかもしれない。
だからこそ、慎重に扱いたいと思う。私がかかっていた呪いの辛さを、他の人には感じてほしくないから。
 
私の言葉が、誰かの呪いになりませんように。
 
 
 
 
***

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2022-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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