メディアグランプリ

見上げてみよう、空を(危機管理的な意味で)


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小畑 泉彦(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
ビチャッ……!
 
9月に入り夏の暑さも少しやわらいできた朝。通勤中にその事件は起きた。
通勤経路である明治通りを歩いて池袋駅に向かう途中、西武百貨店の近くで「鳥のフン」が衣服に付着してしまったのだ。
「うわっ」
声には出さなかったが、心の中で思わず叫んだ。そして同時にもう一つの思考が頭をよぎる。
「これで3回目か……」
私がこれまでの人生で鳥のフン爆撃、いわばバードミサイルを被弾した回数である。これが多いのか少ないかは見当がつかないが、妻に言わせると「かなり多い方」とのことだ(妻は一度も経験がないらしい)。ちなみに犬のフンは人生で2回踏んだことがある。
 
過去の記録を振り返ってみよう。まずは小学生のころ、下校時に肩にカラスのフンが直撃したのが初体験だ。このときは突然の出来事に半泣き状態で帰宅した。2回目は数年前、池袋の東京芸術劇場の近くを妻と歩いていたときだ。衣服ではなく、当時愛用していたグレゴリーのバッグに被弾したのだが、このときもショックを隠せず妻の前で狼狽した。いずれも直接肌に付着した訳ではないが、もしダイレクトに顔面に着弾したらと思うとゾッとする。
 
ところで私のように日常で鳥のフン被害に遭遇する確率はどれくらいだろうか。気になって「鳥のフン 確率」でネット検索してみたところ、とても興味深い数字にたどりついた。鳥のフンが直撃する確率は423万分の1だそうだ。これは正確に把握するのが難しい数値を論理的に概算する「フェルミ推定」という手法によるものだ。いくつかのネット記事に同様の数字が引用されていたのだが、どうやら以下の計算式によって概算されたものらしい。
 
鳥のフンが頭に直撃する確率=(世界の鳥の数×鳥が1日にフンをする回数×フンの面積×上から見た人間の頭部の面積)÷(地球の表面積×陸地の割合÷上から見た人間の頭部の面積)
 
こんなことを計算するなんてとんだヒマ人がいたものだが、納得感のある数式にも思える。ただこれは「頭に直撃する」という前提なので、私のように頭部以外の箇所まで範囲に含めると確率はさらに上がるだろう。とはいえ相当レアな経験であることは間違いなさそうだ。
ついでにTwitterでも「鳥のフン」で検索してみると、衣類や車などに鳥のフンが付いてしまった人たちの嘆きのツイートが散見される。思った以上に世界は鳥のフン被害であふれているのかもしれない。
 
さて、私も3回目となるとさすがに慣れたものだ。駅に到着するとすぐにトイレに直行した。洗面台でせっけんをよく泡立て、シャツの被害箇所をゴシゴシと丁寧に洗う。水で泡を落とし、ハンカチで水分を拭き取ると汚れはほとんど目立たなくなった。誰もフンの付いていたシャツだとは思わないだろう。濡れたシャツを着ている人には見えてしまうが、東京砂漠でそれをとがめるような人はいまい。
 
こうして今回の鳥フン被害は応急処置を講ずることができたのだが、これをきっかけにもう一つ、記憶の奥に封印していた忌まわしい出来事を思い出してしまった。鳥や動物のではなく「人間の汚物」を食らったあの日のことを……
 
もう10年以上前の話だが、終電近い深夜の山手線車内で酔っ払いの吐しゃ物を背後から浴びたことがある。最初は何が起きたかわからなかったのだが、シャツを通して生暖かいモノが背中に侵食したことを認識すると、絶望的な気持ちになった。そんな汚物まみれの私の背中を、心優しき乗客の何人かがポケットティッシュで拭いてくれた。
「大変でしたねえ。シャツはクリーニングに出した方がいいですよ」と励ましの声を掛けてくれる人もいた。東京砂漠も捨てたもんじゃない。
 
結局そのシャツは捨ててしまったが、鳥や犬よりも人間の方がよほど恐ろしいと思ったものだ。鳥のフンは頭上に注意していればかなりの確率で回避できるが、電車に乗っていて「こいつ吐きそうだな」といちいち乗客の顔色をうかがうのは大変である。もし誰かフェルミ推定で「電車の中で酔っ払いが吐いたモノを浴びる確率」を計算した人がいたらぜひ教えて欲しい。
 
こうして振り返ってみるとフンやら吐しゃ物やら「汚れ役」の人生にも思えるが、そんな私だからこそみなさんには日ごろの危機管理の重要性を訴えたい。落ち込んだときの気分転換に空を見上げるのもいいが、そこには落下物の危険があることに注意しよう。電車に乗るときも油断は禁物だ。いつ誰が吐き出すかわからない(そんなに吐く人ばかり乗っている電車があったら怖いが)。そしてくれぐれもあなた自身が深酒して加害者側にならないように。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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