プロフェッショナル・ゼミ

逮捕されてしまった中学時代の先生と年賀状《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:中村 美香(プロフェッショナル・ゼミ)

「ねー、聞いて! 中学校の時の担任が、わいせつ罪で逮捕されたって、ニュースでやってるの! なんか当時から危ない感じがしたんだよね」
中学時代の友だちが、mixiに、そう投稿していたのは、今から5年前のことだった。

え? 彼女の担任ってことは、誰だろう? 彼女とは同じクラスになったこともあったな! ということはH先生か、O先生だな! H先生は、私もお世話になったし、きっと違うな! あ! O先生は、移動教室の時に、食事係が時間を守らずに先にお風呂に入ってしまったことに腹を立てて、風呂場に怒鳴りながら入って行ったことがあったな! 食事係のみんなが泣いて、他の女子たちも怒って、私も含めた各クラスの学級委員がO先生の部屋に抗議に行ったんだっけ! そしたら、
「心も体も一人前になってからが女だ! お前たちはまだ女じゃない!」
と信じられない言い訳をしてたなあ! あれは、ほんとに酷かった! 確かに危ない感じがしたよ! それに、大人っぽい女子をすごくひいきしていたしな! 

やっぱり、きっと、O先生だ!

そう決めつけて、テレビのニュースを見ると、なんと、画面に映っていたのはH先生の方だった!

え? 嘘! H先生なの?

私は、しばらく、呆然とした。目に映る光景を、俄かには、信じることができなかった。

H先生と出会ったのは、私が中学1年生の時だったから、今から、30年以上も前のことになる。H先生は、当時30歳くらいの背の高い理科の先生だった。1年生、2年生と2年間私のクラスの担任だったので、よく覚えている。mixiに投稿した彼女と同じクラスだったのは2年生の時だけだった。

私は、2年間のうち、1年生の前期と、2年生の後期に、学級委員を引き受けたので、多分、クラスの誰よりもH先生と話す機会が多かったと思う。

H先生は、普段は、とてもユーモアがあり親しみやすかった。ボソボソっと面白いこと言って、私たちを笑わせた。旅行が好きで、夏休みには、毎年、海外旅行に行っていたようだった。いろんな国に行ったはずだけれど、インドに行ったという話が一番印象的でよく覚えている。みんなの前で、その話をするというよりは、旅行記を書いていた。当時はまだ、パソコンを持っていることが珍しい時代で、Windows1.0が誕生したころだったから、ワープロを持っているだけでも、すごいことだった。H先生は、ワープロを使いこなし、文字でびっしり埋め尽くされたわら半紙の旅行記を、ほぼ毎週、生徒たちに配ってくれた。私も少し読んだけれど、私よりも、母が、その旅行記のファンになり
「次はいつかな?」
と、とても楽しみにしていた。

しかし、その反面、時々、人が変わったかのように怒りっぽい時があった。その時は、普段と全く違って、細い目を吊り上げ、怒りのオーラを纏っていたので、今は、怒らせてはまずい! とすぐにわかった。先生が指示したことを、やっていなかったり、チャイムが鳴り終わっても席についていなかったりすると、
「やっていないやつは、前に出ろ!」
そう言って、自分の前に、該当者を並ばせた。そして、おもむろに、7mmくらいの厚さの理科の資料集をこれでもかというくらい堅く丸めて、直径2cmくらいの棒を作り、それを生徒の頭上から、思い切り振り下ろすように殴った。私は、殴られたくなくて、細心の注意を払って過ごしていたけれど、チャイムが鳴り終わった後に、落とした消しゴムを取るためにちょっとだけ椅子から離れたところを、普段、よく殴られている男子に
「アウト!」
と言われ、半ば、やけくそになって、前に出たことがある。女子でも、容赦なく、資料集を振り下ろされ、授業の半ばまで、ジンジンして、話している内容が全く頭に入らなかった。

そんなある日、先生が、何かの勘違いで、烈火のごとく怒り、
「廊下に出ろ!!!」
と言って、全員を正座させたことがあった。そして、端から順番に、出席簿を振り下ろすようにして頭を叩き始めた。最後に、渾身の力を込めたように、私の頭を叩いたかと思うと、ボロボロになった出席簿を廊下に放り投げ
「学級委員、直しとけ!」
と言い捨てて、職員室に戻ってしまったことがあった。
ジンジンと痛む頭を押さえながら、みんなで教室に戻ると、誰からともなく
「今回は、先生の勘違いだろ? 学級委員、先生にちゃんと説明して来いよ!」
「そうだ! そうだ! 謝ってもらおうよ!」
と、口々に言い出した。
私は、出席簿をセロハンテープで補修しながら、いつも、損な役回りだな! と思った。だけど、仕方がないので、もう一人の学級委員の男子と一緒に職員室に向かった。

「あのー、H先生。実は、今回は、先生の誤解なんです……」
と、まだ、興奮が収まらないH先生に説明し、ようやく
「そうなの? それは悪かったね」
と言ってもらうことができた。先生と一緒に教室に戻り、
「どうもすみませんでした」
と少しバツ悪そうに誤った先生の姿が、今でも、目に焼きついている。損な役回りだと確かに思ったけれど、先生を説得する役目は、私たちにしか果たせないという自負も生まれていた。誰よりも距離を近く感じていたのは、このせいかもしれない。

もう、中学校を卒業して、30年近く経つのだから、H先生のことを「過去にいた人」として捉え、存在感が薄れてもいてもいいはずなのに、私の中では、未だに、色濃く存在していた。その理由は、おそらく、先生が逮捕されたその年のお正月まで、年賀状のやり取りをしていたからだと思う。H先生からの年賀状には、毎年、先生の近況が細かい字でびっしりと印刷されてあり、余白に、一言だけ
「お元気ですか?」
と手書きで書いてあった。お互いに、元旦に到着するように出していたから、お互いの近況について、コメントをしあうことはなかった。年賀状が来る度に、元気でやっているんだなと確認していただけだったけれど、それでも、「過去にいた人」とは、捉えきっていなかった。

H先生が逮捕された理由は、ここで、詳しく書くことが憚られるほど、酷いものだった。被害を受けた女子中学生たちが、深く傷つくような罪だった。出会い系で、身元を偽り、騙して、わいせつな行為をし、記録に残したり、脅したりしたそうだ……。言うことを聞きやすい中学生を狙ったなんて! 絶対に許されない。

ただ、どうしても、私の知っているH先生と、テレビに映るその犯罪者が、俄かには一致しなかったのだ。風貌も、長い年月で全く変わってしまっていた。黒々した髪の毛が、白髪交じりのグレーになり、筋肉質の体形は、見るも無残に太りきっていた。特徴だったとがった顎の痕跡は全くなかった。ただ少し吊り上がった目元だけは、かすかに面影を残していた。

だけど、おぼろげな記憶をたどると、徐々に、当時感じた小さな違和感が思い出されてきた。

中学1年生の夏休みに、私はダイエットをした。小学校の高学年にグンと背が伸びて、その食欲のままでいたら、背は止まり、横にばかり膨らんできたからだった。母に協力してもらい、食事に気をつけた。部活のバドミントンの練習が、毎日のようにあり、食事と運動で、夏休みで3キロくらい痩せることができた。しかし、見た目はほとんど変わらなかった。それなのに、H先生は、新学期に会うなり
「痩せたね」
と言った。私は、びっくりしたけれど、嬉しくもあり、
「ありがとうございます」
と照れたように言った記憶がある。
ほとんど誰も気がつかないのに、先生はよく気がついたなと、少し不思議に思っていたことを思い出した。
今思えば、どんな目で見ていたのだろうか? と少々不安になる。

こんなこともあった。

中学2年生の時に、バドミントンの部活中に、H先生に、体育館の裏に呼び出された。何事かと思っていくと、生徒会に立候補しないかという打診だった。当時、私は、高校受験のために、塾に通っていた。厳しい塾の先生は、勉強時間を増やすために、部活動や生徒会の活動にいい顔をしなかった。実際に、まもなく、部活を辞めた。だから、どうしても、生徒会はできないと断った。それでも、なかなか諦めずに立候補を勧めてきた。私の意志が固く、どうにか諦めてくれたけれど、体育館の裏の必要性と、部活中に呼び出す理由、断りにくいような状況づくりは、謎と言えば、謎だ。

当時から、H先生は、女子中学生に興味があったのだろうか? そう考えて、血の気がひいた。いや、私の考えすぎだ。そんなはずはない。だけど、これは……、いや、きっと私の勘違いだと思うが……。

私が中学校を卒業し、数ヶ月くらい経った頃、家の電話が鳴った。家には誰もいなくて、私が受話器を取った。
「もしもし?」
私がいつもの通りに言った時
「……さん?」
と、受話器の向こうのその声は、私の苗字を呼んだ。
「はい。そうですけれど……」
電話での聞きなれない声を、少し不安に思いながらも、答えると、その声は、耳を疑うような言葉を言った。
「黒のストッキング、色っぽいね」
その声は、少し息を上げて、そう言った。
咄嗟にどうしていいかわからず、少し間を開けて
「は? 何ですか? 辞めてください! 失礼します」
そう言って、私は、ガシャンと電話を切ったんだと思う。

電話を切っても、心臓がドキドキしていた。
誰だろう? 心当たりは全くなかった。ただのいたずらだろうか? だとしても、私の名前を知っている人物だ。それに、電話番号も知っているんだ! 気味が悪い。
同級生にしては、声が大人っぽかったな。そんな、大人の知り合いなんていない……。
思い当たる人物が浮かばず、気持ち悪さを感じながら、少しばかり、人目を気にしながら、高校指定のセーラー服を着て、登校を続けるしかなかった。

H先生が逮捕されたと聞いた時、女子中学生に興味を持ったのがいつからだろうと、気になってしまった。逮捕された容疑に関しては、10年位前からと知り、不謹慎にもホッとしたが、やり取りを続けた年賀状と年賀状の間に、そこに書かれていない私の知らないH先生の秘密の日常があったのだと思うと、やるせない気持ちになった。そして、急に、あ! とあることを思い出した。

それは、あのいたずら電話があった辺りに、H先生とO先生に、偶然、駅で会ったことだった。電話の前だったのか? 後だったのか? はっきりとは、覚えていない。でも、もし、あれが、H先生だったら……。点と点がつながって線になりそうになって、慌てて、打ち消した。定かではないから、これは、きっと違うんだ…。違うはずだ……。

mixiで事件を教えてくれた彼女の情報が間違っていてくれればいい。同姓同名の別人であってくれたらいい。そう思った。しかし、テレビ画面に映し出された犯罪者の昔の写真は、私の知っている、見慣れたあの顔だった。

私の中学時代は、今と違って、先生が力で私たち生徒を押さえつけていた時代だった。H先生をはじめ、他にも、何かというと暴力で解決する先生が多かった。それが、よかったのか、悪かったのか、それは正確に判断できないけれど、私たちは「先生」という立場の人に、「正しさ」を見るしかなかった。その正しいと思っていた人が、犯罪を起こした事実は、長い年月を経た後でも、心に、ずっしりと、のしかかってきた。

ましてや、逮捕の直前まで、H先生が受け持っていた現役の生徒たちはどんな思いだろうか? ニュースによれば、学校では至って人気のある先生だったらしい。意外さは余計にショックを生んだだろう。

ああ、私はどうしたいのだろう?
 
「本当にひどい! ありえない!」
と、今までの、同じようなニュースを見た時の感想のように、その犯罪者を批判し、その数分後にはすっかり忘れてしまいたいのだろうか?

それとも、先生がそんなことするはずがない! と信じ続けたいのだろうか?

信じたい気持ちは、思い出を汚されてしまったことへの抵抗なのだろうか?

だけど、犯罪者のやったことで傷ついた多くの心がある以上、
「本当にひどい! ありえない!」
と言うしかない。しかし、心のどこかで、犯罪者の、H先生の事情のような、何か、心の闇が気になっていることに気がついた。身内でもないのに、気持ちが入ることに戸惑った。

逮捕のニュースからしばらくして、H先生は懲戒免職になり、懲役9年が言い渡されたと知った。
あれから、もう5年経ったから、あと4年すると、刑務所からで出てくるのだろう。
刑務所から出てきた先生は、いったいどんな風に暮らしていくのだろうか? 

人間は、間違いを犯す生き物なのかもしれない。
罪を憎んで、人を憎まずともいう。

だけど、私は、もう、年賀状は出さないし、二度と会うこともないだろう。
ただ、同じ空の下で、先生が、しっかり心を入れ替えて、余生を過ごすことを信じたいと思う。

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミプロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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