メディアグランプリ

基本面倒な奴だけど、ずっと一緒にいる相棒の話


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記事:かんたろう(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「本当に融通が利かないやつだな」
 
コイツとの付き合いは長く、15年以上の付き合いだ。
もっと昔から存在は知っていたのだが、直接出会えたのは社会人になってからだ。
コイツを初めて知った時、「これまで生きてきた中で出会ったことがないタイプだな。今風の派手さはないけれど、シブくてカッコいい奴だな」という印象だった。
まさに高倉健さんのようであった。
 
「早く知り合いになりたい」と思っていたが、こちらにも準備が必要だった。
学生時代から少しずつ準備を始め、ようやく整ったのが社会人一年目の冬だった。
 
初めてコイツの実物に出会えた時のことは、今でもはっきりと覚えている。
 
「思っていたよりも重たいな。
背中はこんな風になっているんだ。
色合いは写真とはちょっと違うな。
しかし、めちゃくちゃカッコいいな。
よし、やっぱりコイツしかいないな」
 
「これにします」
 
即決だった。お店の滞在時間は10分もなかったと思う。
長年思い続けて、コツコツと貯めていたお金を全て使い果たして、ようやく手に入れた「機械式腕時計」の「コイツ」との付き合いはこの時から始まった。
 
買った直後は明けても暮れても、ずっと眺めていた。
ようやく手に入れたコイツを見ているだけで、幸せな気分になった。
自分にはまだまだ不相応なものとわかりつつ、身に着けているとちょっと自分が紳士になった気になる。
いつかはコイツが似合う人間になりたいなと思ったものだった。
 
しかし、初めの興奮が冷めて付き合いが長くなってくると、良くないところも見えてくる。
はっきり言って、融通が利かない、手間ばかりかかる奴なのだ。
 
まず、表示する時間が正確ではない。
最近発売されている電波式時計の精度は10万年に1秒の誤差と言われている。
しかし、コイツは1日で1分近く遅れる。
しかも、休日などで身に着けなかったら、止まってしまう。
月曜日の朝、寝坊してしまい、急いで身支度をして、コイツを身に着けて駅に向かう。
駅に着いて、「後、何分で電車が来るかな」と、コイツで時間を確認すると……。
「動かしていなかったから止まっている」
時計の時間を合わせるために、わざわざ携帯電話で時間を確認しなければならないのだ。
こんなことが何度もあった。
 
また、最近の時計は色々な機能を持ったものが発売されている。
一日の歩数や心拍数などの体の状態を把握できたり、携帯電話と連動するとメールや電話の受信を知らせたりしてくれる。1台で2役にも3役にもなる。
当たり前だが、コイツはこんなことはできない。
 
さらに、コイツは定期的にメンテナンスが必要だ。
コイツは歯車やばねなどの機械部品で動いている。
何年か使っていると駆動部品が汚れてくるので清掃しなければならないし、油をさしたりしなければならない。
メンテナンスは自分ではできないので、専門の業者にお願いしなければならない。
メンテナンス費用は高く、その間は使えない。
 
極めつけは、コイツは打たれ弱い。
コイツを外す時、あやまって床に落としてしまうと、動かなくなることがある。
落とした瞬間、「あー」という悲鳴とともに、修理代が頭をよぎる。
磁気にも弱く、強い磁力を受けて磁化されてしまうと、ただでさえ悪い精度がさらに悪くなる。
最悪動かなくなることもある。
スマートフォンやパソコンのACアダプターなど磁気を発するものに囲まれている現代社会は、コイツにとっては生きにくいのだ。
 
コイツは時間と日付を確認する以外できないくせに、時間にルーズだし、打たれ弱いし、高い維持費もかかる。
 
でも、私にとって、コイツは一番の相棒なのだ。
もちろん、今でもカッコいいと思っているし、長年の付き合いで愛着があるというのもある。
しかし、それだけではない。
私は、コイツをただの機械式腕時計としてではなく、自分の心を落ち着かせてくれる「最も頼りになる奴」だと思っている。
 
私は会社で大事なプレゼンをする時や、顧客訪問する時に緊張することがある。
そんな時、私はコイツの秒針が動く音を30秒聞いて、秒針が1周回るのを見てから、その場に臨む。
 
コイツに耳を近づけると、「チッ・チッ・チッ……」という規則的な音が聞こえてくる。
電子音とは全く違う、機械特有の小気味よい音だ。
この音を30秒ほど聞くと、自然と落ち着いてくる。
母親の胎内で、母親の心音を聞いて、穏やかに過ごしている赤ちゃんは、こんな気分なのかなと、思わず想像してしまう。
 
また、コイツの秒針が動くのを見るのも落ち着く。
カッコいい文字盤を見ながら、秒針が1周回るのをじっと見る。
60秒間ではあるものの、秒針だけを見ていると意外と長く感じるものだ。
このように感じられた時には、すでに緊張がやわらいでいる。
目の前のことに集中できる、いい心理状態になる。
 
こんな風に、私の身近にいてくれて、短時間で私の心を落ち着かせてくれるのは、コイツ以外思いつかない。
 
「また、時間が遅れている」
「落としてしまった、壊れたかも」
「はー、またメンテナンス時期か。お金がかかるな」
 
今後もコイツに幾度となく文句や愚痴を言うことになるだろう。
しかし、自分が頑張らないといけない時に、コイツ以上に信頼できるやつはいないと確信できる。
コイツがいない人生は考えられない。
 
これからもよろしく。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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