メディアグランプリ

こうして「作業療法士」は、いつまでたってもメジャーにならないのです


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:のんのん(ライティング・ゼミ)

わたしは「作業療法士」っていう国家資格をもっていて、「作業療法」を生業としているのですが、

「作業療法ってなんですねん?」

って聞かれることが、すご〜い苦痛なんすよね。

 ほんと困る。めんどくさい。ため息しか出ない。

 自分の仕事を説明することほど難儀なことはないと言ってもいいくらい。「作業療法」ってほんとに曖昧模糊な職業なんすよ。

 シンプルに言っちゃえば「リハビリ界の何でも屋さん」すかね。
 とにかく、その人がその人らしく生活できるようになるために、ありとあらゆる手を尽くすのが仕事。

 だから、同じ作業療法士でも、人によって働いてる場所も内容も、ぜんぜん違ったりするんすよね。
 だから、自分の日々の仕事を説明しただけじゃ「作業療法」を説明したことにはならなくて、そこがまず骨折れるとこなんす。

 体を治すだけじゃなく、介助ををするだけじゃなく。
 対象者に直接的に関わるだけじゃなく、間接的に関わるだけじゃなく。

 いわゆる「リハビリ」もすれば、車いす選定や住宅改修にも口を出すし、周りの人に介助方法指導をすることもありゃ、いろんな社会資源との橋渡し役になってみたり。
 身体障害でも精神障害でも、幼児期でも老年期でも、関わるし。

 とにかく、なにかしらの援助が必要な人がいれば、なにかしらのサポートをしまっせー! っていうのが、作業療法士。
 いわゆる「生活全般」「人生全般」に関わり、年齢、性別、生活圏、生活スタイル、性格……、いろんな要素を含んだ一個人が、その人にとって最適な形の毎日を送っていけるように走り回ることが使命なんです。

 そこが、「関節の動かし方」「歩き方」といった、ほぼ全人類に共通した部分の改善を職人的に目指していく「理学療法」とは決定的に違うところなんすけど、

 ここまで解説するだけで、すでにけっこうな労力。

 そこでまた一歩踏み込まれて、

 なんで、「生活療法士」とか「人生療法士」じゃなくて「作業療法士」なん?

 とかって聞かれたら、また一段とめんどくさいんす。

 それはね、「生きることとは作業すること」という考え方がベースにあるからなんすわ。

 だって、そうでしょ? 「ボーッとする」ことも含めて、人間、生きてる限りなにかしてるわけですよ。
 「手を動かす」「見る」「聞く」に始まって、「ご飯食べる」「トイレに行く」「お風呂入る」があって、「旅行に行く」とか「おしゃれする」「仕事する」みたいなところまで、いろんなレベルで、人は常になにかしてるんすよ。

 それが「作業」ね。

 で、その「作業」を、いかにその人らしく、スムーズに、安全に行えるようにするか? それが「作業療法士」の腕の見せ所なんす。
 「ボーッとする」なら「ボーッとする」で、その人が最もその人らしくボーッとできるような、身体コンディション、物理的環境、人的環境を考えて、整えていくのが仕事なんです。

 って説明するの、超〜難儀。

 だから、さらに食い下がって、

 それの、なにがおもろいねん?

なんて聞かれようものなら、もう最悪っす。

 も〜。 例えば。例えばですよ。

 わたしが関わったある方は、もともと売れっ子デザイナーとして第一線で活躍していて、誰もが知るような有名なテレビ番組にも数々携わり、30歳になる頃には年収1000万は軽く超えていたという方ですが、

 病気をして体が動かなくなり、介助なしでは生活ができなくなり、当然仕事もできなくなり、いつまでたっても思うように回復せず、毎日毎日、1日に何度も泣きながら暮らしてました。

 それが発症から10年近く経って、通っていた通所施設のスタッフに「ちょっと僕の似顔絵描いてみてよ」って言われて、

 なんとなく描いてみたら、そのスタッフが「似てる似てる」ってすごい喜んでくれて、

 それから他のいろんな人の似顔絵を描くようになって、
 そしたらだんだん、自分の中でも描きたいイメージが湧いてきて、オリジナルのキャラクターを作ってイラストを描き始めて、

 そしたら知らないうちに、体の痛みが和らいで、泣くことが極端に少なくなって、
 手が動くようになって紙の上で手が届く範囲が大きくなったり、長時間姿勢が保てるような筋力や体力がついてきたりして、

 紙だったのが、ipadに変わって、ますますできることが増えて、

 イラストをプリントしたグッズを施設のお祭りで販売したら完売して、

 そして、病気をして初めて稼いだ千円札2枚を握りしめて、嬉しくて泣いたんですよ。

 これって超〜すごいことなんですよ!
 人が、その人にびたっとハマる「作業」に出会った時のパワーってえげつないんですよ。人生が大きく動くんですよ。

 だから作業療法は、単純に、5mしか歩けなかった人が10m歩けるようになったよっていうだけで終わらない、人生を変えるリハビリになるんですよ。

 こうやって人を輝かせられるところが、作業療法の意義で、
 こうやって人を輝かせられるところが、作業療法の醍醐味なんすよ〜!!!!

 って言ってもね、ピンときてないでしょ。

 もともとデザイナーやったんやから、イラスト描けるなんて当たり前やん?
 絵を描くの好きで、当たり前やん?

 誰でもできるやん?

 って思ってるんでしょ、どうせ。
 ええ、ええ、ええ。わかってますよ。わたしも学生の時は同じこと思ってましたしね。

 いやいやいや、これがね、違うんですよ。
 人って、人生って、そんなに単純じゃないんですよ。

 馴染みがあって、得意で、誇りがあった「作業」ほど、自分の体や心が自分の意のままにならなくなってから、また取り組むのって勇気いったりするんす。
 下手に導入したら、その人をかえって傷つけることになりかねないし、そもそも、なかなか頼んだってその気になってもらえないものなんす。

 この人が、イラストっていう「作業」に再び出会うまでには、どうしたって10年近い歳月と、この人の頼みならちょっと聞いてやろかいな? って思ってもらえる人間関係と、繰り返し作業に取り組めるだけの身体機能や環境調整が必要だったのですよ。

 つまり、この10年近い歳月の間に、絶え間なく作業療法士や、作業療法士的視点を持った誰かの想いが、数珠つなぎになってその人を支え続けて初めて、この人は「作業」に出会えたのですよ。

 って言っても、まだ腑に落ちないでしょ?
 へ〜、ってなもんでしょ?

 わかんないと思いますわ。

 だって経験してないもん。この大変さ。この喜び。この素晴らしさ。 
 作業療法士だけが味わえるものですもん。

 
 だから今日も

「あ、まあ、リハビリ、ですよね、、、ハハハ」

って愛想笑いでお茶濁すんす。
 濁しつつ、ため息つきつつ、ニンマリしてるんす。

 こうしていつまでたっても「作業療法」は世に広まらないのです。
 ああ、無念。

***
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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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