メディアグランプリ

人は言う。そこは新宿にある天竺であると


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:カーリー・ナマスカール(ライティング・ゼミ)

「僕の座右の銘を教えてあげよう」 
仕事後の打ち上げで、カメラマンのO島さんは僕にそう言った。
O島さんはハイテンションと業界ノリを身にまとった、陽気なベテランのカメラマンだ。猛烈なマシンガントークで人に話す隙を与えない。

「よく覚えておけよ! オレの座右の銘はな……」
O島さんはゆっくりと一語一語、強く言った。

「ひびっ! これっ! てんじくっ!!!!」
そう言うと、ペンを取り出して紙にこう書いた。

〝日々是天竺〟

「『西遊記』でな……孫悟空はそう悟ったんだよ。三蔵法師たちと天竺に辿り着いた時にな。天竺は天竺にあるわけじゃなく、天竺にむかう道程こそが天竺だったんだと」

『西遊記』。それは経典を求めて三蔵法師が、孫悟空(猿)と、沙悟浄(河童)と、猪八戒(豚)を引きつれて、多くの苦難を乗りこえて天竺(インド)へと向かう物語。そして天竺とは、どんな夢も叶ういわれるユートピアであり、誰もが行きたがるがあまりにも遠すぎる愛の国……。

大体そんな内容のTV『西遊記』の歌から、僕は天竺の情報をたぐりよせた。

そしてO島さんは続けた。
「だからな、お前も自分の夢や理想に向かって歩け! その過程には様々なことが待ち受けているだろう。楽しいこともあれば、辛いこともある。嬉しいこともあれば、哀しいこともある。でもそのすべてが天竺なんだ。お前の理想に向かって歩いている毎日が天竺なんだ。その1日1日が最高なんだ。どんなことも、お前の夢や理想のために意味のあるものなんだ。覚えておけよ」

O島さんのマシンガントークの9割9分は苦痛だったのに、ほんのわずかの発言が僕の心を震わすのだから、人生何が起きるかわからない。

しかし僕は天竺とやらに向かっているのだろうか?

当時20代後半だった僕は、編集プロダクションで本や雑誌などをつくる仕事をやっていた。

その会社に入ったときに社員に言われた
「お前が死んでも〆切は守れ」と。

労働が月300時間に及ぶこともあり、徹夜もザラ。
神経はたかぶり、つねにイライラ、逆ギレをしながら日々を過ごした。ストレスで1日4食、〆切に追われるプレッシャーによる睡眠障害。時間感覚は失われ、今が何時なのか、何曜日なのか、何月なのかもわかならいこともあった。

ナメられないように理論武装をし、ハッタリを効かせ、聡明なフリをしなければならなかった。スキを見せたらツケ込まれ、尊厳を踏みにじられたり、イイように使われるのがオチだ。

大口のクライアントにはどんな不条理なことがあろうと、
当然ペコペコして我慢をしなければならなかった。
そうやって仕事では別人格で過ごすうちに、
自分という人間がわからなくなってしまった。

とは言うものの、仕事は大変ではあったが、給料もよかったし、作業自体は楽しかった。

ある意味、そのまま会社にいれば安泰だったかもしれない。

でも、何か、この状況に違和感を感じていた。
良い価値を世の中に発信するという仕事であるハズなのに、
こんな環境で本当に良いものを生み出すことが出来るのだろうか?

本当にこれが自分の一生の仕事なのか?
本当に自分を押し殺した状態で生きるのが常識なのか?
もっとより良く自分らしく生きれないものか……?

そんなことが堂々巡りしていたある日のこと、
大学時代からやっていたバンド活動の方で、1ヶ月の東南アジアツアーの話が来た。だから思い切って仕事を辞めた。人生の転機だと予感したからだ。30歳の時だった。

その東南アジアツアー後にインドにも行き、2ヶ月半の旅行をした。
インドでは、働きすぎてボロボロに疲れきった自分の人生をゆっくり考えることが出来た。

一つハッキリしたのは
「もう不健康な人生は絶対に送りたくない」
ということだった。

いくらお金があっても、忙しかったり、カラダが不健康であれば、幸せを感じることができないと思ったのだ。

そこで思い出した。自分の父がヨーガの先生であることを。
父とは疎遠気味だったので、長年の溝を埋めるのにも丁度いい機会だと思って、新宿にある父のヨーガ教室へ通うことにした。

そのヨーガ道場はとても穏やかで平和な空間で、ゆる〜い静かな時間が流れていた。それが妙に懐かしく親しみと安心感が湧いた。

「ま、まさか……都会のど真ん中にこんな場所があったとは!」

勝ち負け、損得、優劣、比較を強いられ、疲労やストレスを溜め込みがちな都会において、ココでは気取る必要もなく、人目を気にする必要もなかった。

そこは平和と笑いと好意の感覚にみちあふれた別世界の非日常でだった。不健康きわまりなかった僕にとって、自分だけが知る秘密基地の
ようであり、オアシスのように感じた。僕はこのヨーガ教室の大ファンになった。

そうしてヨーガによって、心身ともに健康体になっていった。
と、同時に、僕はいつのまにかヨーガ教室で働くようになっていた。

僕にとっての天竺は、この場所であり、この職業だったのだ。

僕は忙しく都会に暮らす人にヨーガをオススメしたい。
ヨーガは忙しく暮らす都会人の大きなサポートになる。
疲れているとき、ヨーガをすればカラダを元気になる
眠れないとき、ヨーガをすれば熟睡できる。
嫌なことがあっても、ヨーガをすれば心は穏やかになる。
緊張やプレッシャーをほぐし、自分の能力を発揮する心身になる。
自分を見失ったとき、ヨーガをすれば本来の調子の良い快適な自分に立ち返ることができる。

世知辛かったり、気が抜けなかったり、忙しく頑張っている毎日を送っている人。仕事をバリバリ頑張っている人。皆にオススメしたい。

ヨーガをするなら、是非、都会のど真ん中にある天竺に来てほしい。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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