マッチングアプリで本気出して1ヶ月でできた彼氏に1ヶ月でフラれた話
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記事:三浦みち(ライティング・ゼミ2月コース)
恋愛がそれほど長続きするほうではなかったが、付き合って1ヶ月という短期間でフラれたのは後にも先にもあの一度だけだったのではないだろうか。短い時間でちゃんと恋もして、フラれたときはめちゃくちゃに悔しくて、つらかった。でも今なら自分を見つめ直す意味のある経験だったと思える。
とにかくその頃、私は結婚がしたかった。正確に言うと、もういいかげん結婚するんだと強く決めていた。そう覚悟を決めないと、人生がこれ以上進んでいかない、そう思い込んで意気込んでいた。
だから本気で婚活を始めた。
婚活にはマッチングアプリを使うことにした。アプリ自体はそれまでも使ったことはあったが、ピンとくる出会いはなかった。本気を出した私はそれまでの中途半端をやめ、とことんアプリを使い倒すことにした。そしてそこに、営業の仕事で学んだことを活かしまくった。
まずは、ゴール設定。「3ヶ月以内に必ず結婚相手を見つける」と決めた。3ヶ月でいい人に出会えたらいいな、ではない。期限までに結婚相手を必ず選ぶと心に誓った。
次にゴールから逆算して、達成までに実行する必要がある行動量を決めていった。仕事の忙しさと自分の体力からすると、週にデートできる人数は1人。ということは、1ヶ月で会える人数は4〜5人。4〜5人と会うには、最低でも30人程度とはメッセージをやりとりする必要がある。そして、30人とマッチングするためには100人には「いいね」を送らなければならない。
まとめると、月に100人にいいねを送る。そのうち30人とマッチングし、4〜5人とデートをする。これを3ヶ月繰り返し、デートできた最大15人の中から結婚相手を必ず1人選ぶ。そう目標設定した。
目標設定が功を奏したのか、その後着実に数人と会うことができた。カフェで面接みたいな会話をした意識高い実業家風男子。バッティングセンターで遊んだ写真と本人に10歳ほどのギャップを感じた製薬会社の営業部長。1時間遅刻してきて飲み屋で自分語りした後お試しに朝までどうかと誘ってきた人など、いろんな人がいた。
そうして数人と会いながらも、私が一番気になっていたのは、ギターを弾いている写真がアイコンで、聞けばバンドを続けながら会社員として働いているというA氏だった。
A氏との待ち合わせは、駅だった。駅から少し歩いたところにあるというバルへの道すがらA氏は、道端で見つけた落とし物の財布を拾って、中にあった名刺の番号に連絡した後、近くのコンビニに財布を預けるという行動をとった。アプリで出会った私とのデート中だというのに。バルの予約時間も過ぎているというのに。A氏は普通にいい人だった。
バルでの話も盛り上がった。自分も猫を被らずにいられた。その日は終電まで呑んで、こんな人に出会えると思ってなかったとはしゃぐ彼に改札前でハグをされて、離れがたい気持ちにぐらっとしたが、理性で持ちこたえ一人で帰宅した。
次に会った時には付き合うことになっていた。目標は予定を大幅に短縮して達成された。まだ始めて1ヶ月しか経ってなかった。
付き合ってみるとA氏は、思ったよりもずっと情が深くて、人と関係を深める速度がめちゃくちゃに速かった。付き合うことになってすぐ、大事な人に会って欲しいと言われ、彼の親友に会った。自分が真剣に向き合っているバンド活動を見に来て欲しいと言われ、ライブに足を運んだ。
A氏は、愛情の表し方もおおっぴらで、ストレートだった。部屋に行くと、ギターを弾いてくれた。私が好きだと言ったら、七尾旅人のサーカスナイトを弾いてくれた。感極まって泣いてしまった。
毎日がサーカスみたいに目まぐるしかった。この時間も、サーカスみたいにすぐに終わってしまうんじゃないかと頭をよぎって切なかった。
少しして、丸一日中、一緒に過ごせる時間ができた。朝から街歩きをし、カフェでお昼ご飯を食べ、ホテルに行ってことをなし、日本料理屋で晩ごはんを食べて駅で別れるとき、「やっぱり違う」「ごめん」と言われた。初めて会った日にハグされた改札で、別れ話を聞いていた。付き合ってから3週間ほどしか経っていなかった。
考えられる理由はひとつ、自分にA氏は刺激が強すぎたのだ。彼のおおっぴらな愛と行動力と、距離をつめるスピードについていけなかった。注いだ分、返ってくると期待した反応を、私はおそらく表現することができなかった。彼にはそれが物足りなかったんだろう。
惚れっぽいから恋愛はすぐ始められると思っていたけど、人との距離は慎重に近づけるタイプだったようだ。自分でも気づいていなかったことに気づかされた。
もっと明るくて素直な性格だったらな、と何度も思った。けれどそれは難しく、要は合わなかった、としか言いようがないことだったのだろう。
別れた後も数日は連絡を続けた。けれど、A氏は見切りも早かった。こうして私の本気の婚活と短い恋は終わった。
けれどその後、私の婚活は思わぬ形でうまくいくことになる。
当時勤めていた会社で、私は周囲に自分がマッチングアプリで婚活して彼氏ができたという話を面白おかしく報告していた。失恋の後、数人の同僚が私を励ますために飲み会を開いてくれた。そのときまだ婚活を諦めていなかった私は、マッチングアプリを再開しようとしていた。
酔って、同僚の一人にアプリの検索画面を見せた。「誰がいいと思う?」と聞くと、同僚はざっとスマホの画面をスクロールしてうーんと悩んだ後、「この中に三浦さんに合う人はいない。もっとちゃんとした人と付き合ってほしい」と真面目な顔をして言った。いやいや、ここはノリでも誰か選ぶところだろ、と思った。反面、こいついいやつだな、とも思った。
何年も一緒に働いているが、そういう相手として考えたことは惚れっぽい私でも一度もなかった。まったくタイプではなかった。「1回くらいデートしてみてもいいかも」と軽い気持ちで考えた。その同僚と、その後結婚に至ることになるとは、その時は少しも予想していなかった。
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