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謙虚さと傲慢さは紙一重

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記事:堀部佳野乃(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
謙虚さ。
 
これは日本人の長所である。
 
「大した手土産ではないですが、良かったらどうぞ」
「こんなわたしで良ければ、よろしくお願いします」
 
自分を下げて言うことで、相手に良い印象を与える。
自分の能力を過信せず、相手の気持ちになって物事を考える。
 
謙虚さがあるからこそ、日本人の勤勉で慎ましやかなイメージが確立されたわけだし、日本の文化である「おもてなし」の精神が確立されたわけだ。
 
しかし、謙虚さというものは、むやみやたらに使って良いというものではない。
むしろ、使いすぎると、大切な人を傷つけてしまいかねない。
そう、謙虚さと傲慢さは紙一重なのだ。
 
わたしには、3歳の「いとこ」がいる。
年の離れた親戚というのは、とても可愛い。
 
いとこが生まれてからというもの、よく公園で一緒に遊ぶようになった。
すると、同じように公園で遊んでいる子どもたちや、その親たちとも交流するようになる。
 
ある日、いとこが滑り台で遊んでいると、小さい女の子が近づいてきた。
女の子も滑り台で遊びたいらしい。
 
「一緒に滑る?」
 
と話しかけようとしたとき、女の子の母親らしき人物が走ってきた。
 
「この子すぐ横取りしちゃうんです、すいません」
 
と申し訳なさそうに、女の子を滑り台から抱き上げて、そそくさと去って行ってしまった。
 
わたしといとこは、女の子から何も迷惑なことをされていないのだが……。
 
今度は、わたしといとこがボール遊びをしていたとき、小さい男の子が近づいてきた。
わたしたちが使っているボールに興味を示している。
転がったボールに手を伸ばして、触りたそうだ。
 
「一緒に遊ぶ?」
 
と話しかけようとしたとき、男の子の母親らしき人物が走ってきた。
 
「この子すぐ人の物を取ろうとするんです、すいません」
 
と申し訳なさそうに、男の子を抱き上げて、そそくさと去ってしまった。
 
わたしといとこは、男の子から何も迷惑なことをされていないのだが……。
 
このように、公園に行くと「すいません」という言葉が飛び交っている。
親というのは、他人に迷惑をかけることが怖くて、子どもの行動を先回りして心配し、他人に謝罪をしてしまうものなのか。
謙虚といえば、そうなのかもしれないが……。
 
そういえば、わたしも子どもの頃に、親の謎の謙虚さで傷ついたことがある。
知り合いから
 
「かやのちゃんは、ほっぺがプクプクしていて可愛いね~」
 
と言われた。
その時に、母親が
 
「この子、丸顔だから」
 
と、言ったのだ。
顔の輪郭がコンプレックスだったわたしは、わざわざ言わなくてよくない? と思って、傷ついたのを覚えている。
 
最近も似たようなことがあった。
わたしはメイクが苦手であるため、化粧をせずに外出することが多いのだが、母親と出掛けていて、知り合いに会ったとき
 
「久しぶり! かやのちゃん大人になったね~」
 
と言った知り合いに対して、母親が
 
「スッピンだから恥ずかしい」
 
と言ったのだ。
 
え、わざわざ言わなくてよくない?
 
このような経験をしてから、わたしが子どもを育てるときは、絶対に自分の子どものことを下げて言わないぞ! と誓っていた。
 
しかし、その誓いがあっさりと覆されてしまった出来事がある。
 
わたしは1年ほど前から、犬を飼い始めた。
我が子のように大切に育てており、犬を連れて近所の公園へよく散歩に行く。
散歩をしているときに、わたしと同じように犬を連れて散歩している人に出会った。
わたしの愛犬は、犬仲間に会えたことが嬉しいようで、激しくわたしの周りを走り回っている。
 
その時に咄嗟にわたしの口から出たのは、
 
「すみません、うちの子は落ち着きが無くて」
 
だった。
 
わたしも言ってるじゃん!
 
そう気づいてからというもの、わたしはまず「すみません」と相手に言うのではなく、愛犬に共感しようと心掛けている。
 
「一緒に遊びたいんだよね~」
「会えて嬉しいんだよね~」
 
というように。
 
だってよく考えたら、迷惑をかけていないのに、大切な愛犬をどうしてわざわざ下げて言う必要があるのだろうか?
自分が大切に思っている存在を下げて言うことが、果たして本当に謙虚なのだろうか?
ただ単に「落ち着きがある犬だと思ってほしい」という価値観を、愛犬に押し付けている自分の傲慢さなのではないだろうか?
 
わたしの友人に、イギリスに留学経験のある人がいる。
彼女はこう言っていた。
 
「イギリスの人は、他人の子どもを相手の前でめちゃくちゃ褒めるんだけど、それと同じくらい自分の子どものことも人前で褒めるんだよ」と。
 
日本人は謙虚である。
それは素晴らしいことだ。
 
しかし、他人に良い顔をしようとして、本当に大切な存在を傷つけてしまっては本末転倒である。
だから、謙虚さは傲慢さと紙一重であり、むやみやたらに使って良いものではないのだ。
 
わたしたち日本人は、他人を「おもてなし」で迎える前に、まずは自分の大切な存在を傷つけていないか、一度考えてみる必要があると思う。
謙虚さの使い道を間違えていないかな? と。
こんな時こそ、得意の謙虚さを発揮して、相手の気持ちを考えようではないか。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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