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与那国島への一人旅でわかった「生きている」私の在りかた

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:まつもとみう(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
日が暮れて辺りは真っ暗になり、与那国島の一棟貸しの古民家で、私はひとり怯えていた。
勝手口の扉は風でガタガタと揺れ、夜なのに鳥のような鳴き声がずっと聞こえ、屋根の上ではガサゴソと音がする。今にも何か出そうな、不気味な感じだ。
誰かが、入ってくるんじゃないだろうか……?
私は不安に襲われる。
こんなことなら、友人でも親でも誘えばよかったかもしれない……。
社会人二度目のボーナスで意気揚々とひとり旅にやって来た私は、初日にして心が折れかけていた。
 
初めてのひとり旅で与那国島を選んだのは、与那国馬が見たかったからだ。
私は前から、与那国馬と暮らすエッセイやイラストを書く河田桟さんという方のファンだった。
沖縄の本を扱う本屋さんで河田さんのエッセイを購入したところ、写真家の岡田裕介さんの、『その背中を風が撫でて』という写真集を勧めていただいて、読んだ時に衝撃が走った。
 
「生きている」生き物の姿を初めて見た、と思った。
戦うように前足を大きくあげる2頭の馬、風に当たって目を閉じている馬、芝の上にゴロンと横になっている馬。
どれも、命令されているのでも、飽き飽きしているのではなく、自然な姿に見える。
「飼われている」のではなく、状態として、ただ「生きている」馬が与那国島にはいるのだ。
写真集をみたその瞬間から、「いつか、絶対に与那国島に行こう」と決意した。
 
しかし、冒頭で書いたように、到着して初日の夜、私はとてつもなくビビっていた。
思ったよりも、あまりにも自然が大自然すぎた。
自然が好きだと思っていたけど、私は毎日、分厚いコンクリートのマンションで寝て起きて、分厚いコンクリートのビルの中で仕事をしているのだ。夜は静かだし、仕事中波の音も風の音も聞こえない。
すっかり忘れていた。
不安をかき消すように適当なユーチューブを見ていたら、いつの間にか眠りについていた。
 
2日目、天気にも恵まれて、借りた電動自転車で島を回ることができた。
まず日が昇ってすぐに、与那国馬たちが暮らしている東崎灯台の周辺のエリアに向かう。
切り立った崖の上、広大な芝生の上に、2頭から8頭程度の馬の群れが点在していた。
 
私は、8頭くらいの大きな群れの近くに、そっと腰をかけてみる。
少し離れた場所からじーっと、見ている。
馬が草を食むリズムのある音、鼻を鳴らす音、伸びをする仕草を、じっと見て感じる。
 
しばらくすると、好奇心旺盛な仔馬が私に近づいて来た。
鼻と鼻を合わせるようにして、仔馬の息をかぐ。草の匂い。
馬も私の手のひらの匂いをかいでいる。
そばで父馬がこちらに注意を向けている気配がする。
馬たちの空気が、張り詰めていた。
 
仔馬はやがて去っていった。
父馬が私に近づいて来て警戒している様子だったので、私は群れから離れた。
しかし、1時間程度、馬からしたら一瞬だったと思うが、「生きている」馬の中に身を置けたことで、ドキドキした。
 
馬を見た後は、島を電動自転車でゆっくり一周して見ることにした。
崖の上から小さなビーチを見下ろせるような場所があり、木陰で文庫本を広げる。
本からふと顔を上げると、岸壁には、緑の植物が這うように生えていて、風に揺られている。
その時、今私の視界に映るものは全て、100年、200年はゆうに変わらないであろうということに気が付いた。
私が誕生する前も、きっと死んでからも、この景色は変わらない。
岸壁に波がぶつかり続けるごうごうという音は、止むことはない。
テッポウユリは、今年も咲き、枯れて、来年も再来年も、ずっと咲くだろう。
 
宿への帰り道、アダン大きな葉っぱの並木から何羽ものツバメが飛んで来て、自転車に乗る私と並走する。
大きな蝶も飛んでいる。
どこまでも続くような気がする田舎道を、南国のシンデレラになったような気分で、鳥と蝶と走り続ける。
 
2日目の夜が来た。
相変わらず、暗闇の中でも物音はするけれど、もう私は怖くなかった。不安ではなかった。
生き物たちが暮らしているこの島に、私はお邪魔している。
自然の豊かさの1部を、楽しませてもらっている。
1日かけて与那国島を巡って、自然の中の生き物に触れて、時間を感じて、私の人間としての立場が少しわかった気がした。
風邪で揺れるドアも、鳥の鳴き声も、屋根の上で動く生き物にも、安心感が湧いてくる。
「生きている」生き物たちの中で、「生きている」私。
 
与那国島のホームページのコピーに、「私に還る。与那国島」と書いてあった。
訪れる前はあまり意味がわからなかったけど、今ならわかる。
街での暮らしに戻っても、本当は、私たちは生き物に囲まれている。
その生き物たちと同じように、「生きている」私として、生きればいいんだ。
「会社員」としての、「独身女性」としての、そんなカギカッコつきの自分でいるのは、息苦しさを感じることもあるだろう。
そんな時、与那国島の自然と生き物たちとのふれあいは、ただ生きている「私」の存在を立ち返らせてくれるのだと思う。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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