自分の足にぴったりの靴を履いている人はどれだけいるのか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:辻美惠(ライティング・ゼミ4月コース)
あなたを目的地に連れていってくれるものは何だろうか?
車? 電車? パートナー? 運? 色々あるだろうが、今日話したいのは、靴である。
いい靴は、いい場所へ連れていってくれる、という言葉を聞いたことがある人もいると思う。
なんでも、イタリアのことわざらしい。素敵な靴を履けば、素敵な場所へ出かけたくなり、さまざまな出会いが待っている、ということだそうだ。
近所になかなかすごい靴屋がある、と数年前から情報を得ていた。何が「すごい」のか。マスターシューフィッターがいる靴屋なのだ。
シューフィッターとは、足と靴と健康協議会という一般社団法人が養成認定している資格である。当会のWebサイトではシューフィッターが以下のように説明されている。
お客様の健康管理の一翼を担うとの自覚に立って、足に関する基礎知識と靴合わせの技能を習得し、足の疾病予防の観点から正しく合った靴を提案するシューフィッティングの専門家のことです。
要は靴選びのプロである。資格はプライマリー(初級)、バチェラー(上級)、マスター(修士)の3つのグレードがある。2023年4月1日現在、3564名が認定されており、そのなかでもマスターとなると33名。そういう「すごさ」なのである。
一度は足を見ていただきたい、そう思って月日が経過していた。
本心を言えば、私よりも夫に行ってみて欲しかった。夫は合う靴が少ないようで、歩くのもすぐ疲れるし、姿勢も悪いし、一度本当に足に合う靴をプロに選んでもらった方が良い、と私は信じていた。行ってみなよー、とおすすめしてもなかなか腰が重い夫は動かなかったが、いい加減行くか、とようやく夫がその気になった。
靴幅のサイズは、Aから始まってE,2E,3E……と続いていく。なんと、夫はAに満たないAAサイズ。測ってくれたマスターに「苦労されたでしょう」と言われるほどの足。学会に報告してもいいか聞かれたらしい。
店舗にある在庫の中で、一足だけ夫の足に合う靴があった。
夫は感動していた。今までにないフィット感。歩きやすさ。まっすぐ歩ける。もっと早く出会っていたら、こんなにO脚にならなかったかもしれないのに。
しばらく履いた後に調整をしてもらいに行き、新たにもう一足購入していた。
立場が逆転して今度は夫が私に行きなよと勧めてくる。元々私が見つけたし、夫も感動しているし、行こう行こうと思いつつ、なかなか日程が合わず延ばし延ばしになっていた。ようやく行くタイミングがやってきた。
座って向かいにしゃがむマスターが私の足の小指と薬指を押す。
「痛いですか?」
「痛いです」
今度は手の小指と薬指を押す。
「同じ力で押してます」
痛くない。
「負担がかかってますね。靴がゆるいと思います」
「そうなんです」
最近の普段履きは必要になって急遽買ったまま使っている靴。楽ちんだけど、足にいい靴ではないだろう、と思っていた。とてもお安かったし。
マスターは私の靴を手に取り、ぐにゃんぐにゃんとねじる。
「こんなに曲がるのはね、もう靴とは言えません」
いや、欲しいという人がいるから作られているんですけどね、とマスターは言った。
需要が先なのか、供給が先なのか、私にはよくわからない。
おしゃれでたくさん歩ける靴が欲しいと言っていくつか出してもらった。
「おしゃれっていうのはどういう感じですかね。最近は結構カジュアルな感じでも色々なシーンで履かれる人もいるし」
「そうですねえ。今の靴があんまりなので、まあ、あれよりおしゃれな感じで」
あれはねえ、マスターは笑った。
私のサイズは標準的なサイズ。23センチのE。なんでも履けるから、合わないのも履けてしまう。
1つ目に出してもらった靴は、夫の2足目と同じ。お揃い。私は結構そういうのに嬉しくなる質だ。
履き心地もがっしりとしたホールド感がある。これにしようと心に決めつつ、他の靴も履かせてもらう。
うん、でも、やっぱりお揃い靴のほうが良い。別のシューフィッターさんが、陳列棚から他の色も持ってきてくれる。あとから出してもらった方がかわいい。
次の日、新たな靴を履いて歩いた。すっすっと、どんどん先に足が出る感じがする。私でこの感覚だから、夫は本当にすごかったんだろう。
夫に聞いてみたところ、合う靴が少ないと思ってはいたが、そんなに合っていないとは思っていなかった、わかっていなかった、と言っていた。
夫レベルの特異な足でなくても、本当に合っている靴を履けている人はどれだけいるのだろうか。マスターじゃなくても、シューフィッターには万人が一度見てもらった方が絶対いい。
あの日購入はしなかったが、とてもかわいい靴があった。ここの靴はかわいいんですよ、とシューフィッターさんが教えてくれた。次はそのブランドを買おう。きっと私を素敵な場所へ連れていってくれるはずだ。
***
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