モテない30代後半のおっちゃんが、プロポーズの相談をせっせと受けていたワケ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:須田 久仁彦(ライティング・ゼミ)
それは、今から10年ほど前の事だった。勤務する旅行会社の先輩から、新しく始まるツアーの手伝いを頼まれた。
そのツアーとは、ヘリコプターでのクルージングとディナーを組合せたものだった。
日没後、千葉県の浦安にあるヘリポートに集合し、そこから東京上空15分間のヘリクルーズが出発する。離陸すると、真下にはディズニーリゾートの夜景。そこからお台場やレインボーブリッジの上空を経由し、東京駅周辺へとヘリコプターは向かう。言葉では言い表せないような、きらびやかな夜景を堪能し、ヘリポートに戻る。
ヘリポートに戻るとタクシーが待っていて、ディナーの場所である竹芝のホテルまで送ってくれる。上空から楽しんだ夜景を、今度は車の中から楽しむのだ。
ディナーの場所はホテル21Fにある鉄板焼きのレストランである。ここでもカウンター越しの窓から外に広がる夜景を楽しみ、フルコースのディナーを堪能したところでツアーは終了となる。
15分間のヘリクルーズにタクシーでの送迎、ディナーが全て込みで参加費は2人で4万円だった。
先輩からの頼みを、私は軽い気持ちで引き受けた。なぜなら、バブルの時代でもあるまいし、高額なツアーは売れないと思ったからだ。しかし、それが間違いの始まりだった。
私の思惑に反し、このツアーは売れた。徐々に口コミが広がり、その後、雑誌やテレビなどのメディアに取り上げられたこともあって、お客様は一気に増えていった。
特に冬の時期は空気も澄んで夜景がキレイに見えるので人気が高かった。中でも12月はクリスマスシーズンということもあって、連日満席になるほどだった。
ツアーが売れたことで仕事量は増えた。しかし、それが間違いだったのではない。お客様が増えてゆくのはツアーに関わるものとして嬉しいことだからだ。私が間違いだと思ったのには別の理由があった。
お客様のほとんどは誕生日や結婚記念日など、お祝いで利用される方だった。またプロポーズのために利用されるお客様も多かった。このプロポーズのお客様こそ、私の悩みの種だったのだ。
なぜなら、ツアーの手配だけでなく、そこには必ずといって良いほどプロポーズの演出の相談がつきものだったからだ。
私はとてもモテるとは言えない。プロポーズの経験も一回だけだ。そんな当時30代後半に差し掛かろうとしていた、おっちゃんの私に相談されても困惑するばかりだ。ましてや失敗が許されない儀式なのだから、なおさらだ。
もちろん、お客様はそんな事など知る由もない。相談された以上、何とかしなければならない。
さんざん悩んだ挙句、プロポーズの現場を目にすることが多いヘリコプター会社の方やレストランの方に、どのようなプロポーズの演出の仕方があるのかを聞き、情報を集めることにした。今さらながら結婚情報誌を読んでみたりもした。気がつけば、多い時には仕事の大半をプロポーズの演出対応に割いているときもあった。
そんな悩ましいプロポーズの相談だったが、苦しみながらも何とか乗り切ってきた。それが、しばらくするとプロポーズに成功しました! ありがとうございました! といったお礼のメールを時たま頂くようになった。それは本当に嬉しかったが、それが続くと今度はモテない自分がモテ男になったような気分になってきたのだから不思議なものだ。
そんな中、プロポーズ予定のお客様からヘリコプター搭乗直前にお電話を頂いたことがあった。
「緊張で口から心臓が飛び出そうなんですけど! 大丈夫でしょうか?」
私は「大丈夫です! このツアーに参加されたお客様は全て成功していますから」と答えた。もちろん成功率をとっていたわけではない。しかし、ここまで来たらそう答えるしかない。すると、お客様はこうおっしゃった。
「いつも応援してくれて、本当にありがとうございます!」
その時に分かったのだ。お客様は私に演出を求めていたのではなく、応援を求めていたのだ。
プロポーズは人生の中でも大きな儀式の一つだ。しかも、他人を頼ることもできず自分から相手に告げなくてはならない。失敗は許されない重圧の中、応援し励ましてくれる存在が欲しかったのだ。
そういえば、お礼のメールでも演出のおかげで成功しましたとは誰からも書かれたことはなかった。しかし、全てが納得できた。そもそも演出の相談をアテにしていたのではなく、このプレッシャーを支えてくれる人間が欲しかったのだ。
考えてみれば、プロポーズの演出などネットでいくらでも調べることが出来る。結婚に向けて大きな熱量を、まさにこのタイミングで注ぎ込んでいるお客様の方が私よりも情報を持っていて当然だ。
苦労した分、肩透かしをくらった気分だったが、それでも不思議と悪い気分はしなかった。人生で大きな儀式の一つに応援という形で関わることが出来たからだ。それも成功したとなれば、人生で最も幸せな節目の一つになるからだ。
すると、それまでのように気負うことなく、喜んでプロポーズのお客様のお話を聞けるようになった。応援という形で、プロポーズを支えることが出来たことを嬉しく思えるようになった。
今は諸事情もあり、このツアーは行われていない。それでも会社帰りの夜空にヘリコプターを見つけると、あの時プロポーズしたカップルはどうしているのだろうか? 今も幸せで家族も増えているのだろうか? などと思いをはせる。
自分ではない他人の人生の幸せな節目に関われた事を少しだけ誇らしく思い、今も笑顔が浮かぶのである。
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