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おばあちゃん第二形態

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記事:米田有里
 
 
「夏休みの宿題済ませた?」
「先生の言うことよく聞くんだよ」
これはおばあちゃんが20代後半の孫(私)によく言う言葉だ。
おばあちゃんは80歳を超えたあたりから認知症の症状が出始めた。
なんでもはっきり意思を伝える人だったのが、主体性をなくして
「なんでもいいよ」
が口癖に変わっていった。
あまりにも変化があったので、私はおばあちゃんは第二形態になったのだ、と捉えることで現実をゆるく受け止めている。それくらい変化がおおきかった。
 
私は小学校の頃、夏休み期間におばあちゃん家にほぼ毎日預けられていたので、思い出は多い。
 
かつておばあちゃん家に預けられていたに時、おばあちゃんの起床時間は誰よりも早かった。仕事に行くおじいちゃんの朝ごはんを作り、起きたがらない私をなんとか起こして栄養満点のご飯を食べさせてくれた。私がテレビの前でダラダラ過ごしている時間、おばあちゃんは私を叱りながらも廊下の雑巾掛けをしたり洗濯物を干したり、いつも忙しそうに動いていた。ずっと動いている人だった。
 
そんなおばあちゃんはいま1日のほとんどをベッドの上で過ごしている。
膝が悪いのであまり動けなくて、それでもご飯は変わらず食べるから体重は増えるばかりだ。おじいちゃんは逆に食べられなくなってきて、会うたびに痩せていく。帰省して会いにいった時、昔のことを聞いたり話してみると、今のおばあちゃんが前のおばあちゃんとは変わってしまったことが、時々どうしようもなく悲しくなる。聞きたいことがたくさんあったのに、それを聞きそびれてしまったことが悔しい。
 
たとえば銭湯に入った時。一緒に大浴場で外の紅葉を見ていたら、3分に1回のペースで
「あの木はなんの木なんだろうね」
「ばあちゃんアレは紅葉だよ」
「そうか紅葉ね。綺麗な色だね」
という木の話を繰り返す。
 
たとえばじいちゃんが入院した時。
みんなでお見舞いに行ったあと家に帰ってから
「おじいちゃんはなんで家にいないの? 」
「じいちゃんは何で病院にいるの? 」
と何度説明してもすぐ忘れてしまう。
 
仕方ないことだし、おばあちゃんは悪くない。私が受け止められないだけだ。ファミレスに行った時は何を食べたいのか選べなくて、おじいちゃんと同じものを毎回食べている。
だんだん自己主張がなくなってきているように感じて、私がおばあちゃんだと思っていた話し方や物の選び方をしなくなるおばあちゃんに対して違和感が出てくる。朝ごはんで納豆にオクラと、めかぶが入ったネバネバおかずを出したら私が食べられなくて残したら、10時のおやつにまた出してくるくらい、厳しかった。
 
おばあちゃんは料理をしなくなった。お腹が空いたらコンビニに買いに行くのが日課になったので、食事は管理しないといつまでも食べ続けてしまう。
親戚からもらいすぎた生のゴーヤとバナナをジュースにして最後にお酢を一振りした、栄養満点だけど味が不思議なスムージーを私と母さんに作ってくれるほど健康意識が高かった、あのおばあちゃんが。
 
おばあちゃんの変化は数えだすとキリがなく、私が小学生の頃よく面倒を見てくれていたおばあちゃんがもういないことを実感させられる。何よりも後悔しているのは、夏になると作ってくれた白エビの素麺だしの作り方を教わらなかったこと。春の終わりに地元の郷土料理の蛍光カラー団子を作る方法も教わらないままに、気がついたらおばあちゃんは作らなくなっていた。
 
毎年恒例行事だった餅つきも、おばあちゃんがほぼ準備をしていたから、いざおばあちゃん抜きで初めると現場は混乱した。当たり前に行われていた家族の行事には、用意してくれている人の存在が欠かせないんだと今更ながら気づいた。
ただ今も昔も変わらないこともある。
私が遊びに行くと、体のことを心配してくれるところ。運転するときスピードを出し過ぎないよう心配してくれるところ。夕飯を一緒に食べた後、片付けを率先してやっているところ。
 
当たり前だけど、私はおばあちゃんとしての姿しか見たことがないことにも気づいた。おばあちゃんにも「母」だった頃や「6人兄弟の娘」だった頃があったことをすっかり忘れていて、その頃ことを何も知らない。
 
おじいちゃんと結婚したきっかけの話や、子供の頃の農家の手伝いをしていた話など、孫の私が大人になったから、今だからこそ聞けることもある。
 
おばあちゃんが変わったというが、時間が経過すればだれにも変化がある。子供のころと比べると、私も変わっているはずだ。この人はこういう人だと思っていた性質だけがその人を構成しているのではない。
これからは昔のおばあちゃんと比べずに、今のおばあちゃんをありのまま見て、なるべく長い時間を一緒に過ごしたい。そして今まで見えなかったおばあちゃんの性格や癖を見つけていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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