PCRは耳鼻科でね
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記事:手塚幸忠((ライティング・ゼミ6月コース)
「はい、全員陽性ですね~」
哀れな人を見るような目で医師が私たちに告げた。
2年前、コロナが流行って1年ぐらいした時に、初めてコロナにかかった。自分は接客業なので、お客様にうつしていけないと、感染症対策にはかなり注意していた。
しかしコロナは外からではなく内側からやってきた。そう、家族感染だ。
私には2人の子供がいて、下の子は保育園に通っている。保育園はコロナが流行る前から、感染症の巣窟だった。子供たちはよだれベタベタの手で触ってくるし、超至近距離でくしゃみをするし、子供たち同士も濃厚接触だし、親も親で、自分の仕事に穴を開けたくないので、少し調子が悪いぐらいでは保育園を休ませたりはしないので、咳をしながら鼻水たらしている子供を連れてきて、「元気です!」と言って預けていく。保育園がどんなに感染症対策をしても、誰かかが菌やウィルスを持ってきたら、だれかに感染する。それが感染力の強いコロナウィルスの場合なら、なおさらだ。
保育園に通っていた下の子が鼻水を垂らして帰ってきた。「また風邪をもらってきたな」ぐらいにしか思っておらず、その日も家では濃厚接触が繰り広げられた。食事の時は半分食べたジャガイモを「はい。パパあげる」と言われて食べたり、抱っこしている時に目の前でくしゃみをされたり、笑わせるために、よだれが付ていたであろう腕をパクっと食べてみたりしていた。当時は世界中でパンデミックが起こっていても、自分たちの周りには感染者をあまり見かけなかったので、まさか自分の子供がかかるとは思っていなかった。
次の日に下の子が高熱を出した。まさかのコロナ感染だ。そして、いとも簡単に家族全滅。一家で隔離生活に入った。
コロナ感染を検査する最も制度の高い検査はPCR検査だ。最近は唾液による検査も出てきているが、当時は鼻の奥に細い綿棒のようなものをグイっと入れて、粘膜を採取する方法しかなかった。奥に綿棒を入れるだけでも辛いのだが、奥に入れた後に、さらに粘膜を採取するために、グイッ、グイッ、グイッと数回動かす。初めてPCRを受けた時は、辛くて涙が出た。先生も「ちょっと辛いけど、我慢してね~」と辛いのが前提だった。
それから数か月して、肺炎で入院することになった。その時は入院する前にあらゆる感染症にかかっていない検査をするために、コロナを含め様々な病気に対するPCR検査を行った。1日に3~4回やっただろうか。それも連続でやるため、涙が止まらない。辛いものは辛いので、看護師さんも「観念して下さい」と励ます気もない。
そんなわけで、私はPCR検査を普通の人よりも多く受けていると思う。
このPCR検査歴の深い私が1度だけ全く痛みを感じなかった検査があった。それは、ある耳鼻咽喉科で受けたPCR検査だ。今までの先生は「はい、ちょっと辛いけど我慢してね~」と言ってから、一気に鼻の奥に入れてくる。しかしその先生は、「はい、力を抜いてね」といってゆっくりと綿棒を入れてきた。そして、途中で私が恐怖で力を入れてしまうと「あ、力を入れると鼻の空洞が狭くなっちゃうから、力を抜いて~」といって、励ましてくれた。なんとか恐怖に打ち勝って、力を抜くと、ゆっくりと綿棒が入ってきて、奥をチョンチョンと触った後に、スッと抜いてくれた。
「あれ、全く辛くない!」
もう目からウロコだった。辛いと思って受けたのに全く辛くないのは、絶対に叱られると思ったら、逆に褒められた時のような解放感というか嬉しさがこみ上げてきた。
よく考えたら当たり前だったのだ。PCR検査は病院ならほぼ何処でも受けることができた。普段鼻を専門にしていない病院でも受けられるので、学校で習った知識、昔研修で習った知識を元にやっているのだろう。とりあえず奥まで突っ込もうとしか考えていないように感じた。しかし耳鼻咽喉科は普段から鼻の中を毎日見ている。鼻の構造を熟知している先生が、鼻の構造に合わせて入れていく綿棒は、強引なところが無く、ほとんど辛くないのだ。
餅は餅屋ということわざがあるが、まさにその通りだと思った。
あれから1年以上経ち、ちょうど昨日高熱を出し、今日PCR検査を受けた。その日にPCR検査を受けることができる病院が耳鼻科しかなかったから、その病院に行ったのだが、その先生のPCR検査も全く辛くなかった。
さすが専門家。鼻の検査は耳鼻咽喉科に行きましょう。
***
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