「お願い♡」が苦手な、サバイバル女子の生き方。
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記事:リコ(ライティング・ゼミ)
あなたは人に何かをお願いするのが、得意ですか?
私は人に何かをお願いすること、仕事を頼んだり、時間をとってもらって何かを教えてもらったりすることが、とても苦手だ。
小さいころから「手がかからない子」だった私は、人にお願いするより自分でなんとかすることが多い。
30年間それを続けてきた結果、大体のことは1人でなんとかする、サバイバル女子ができあがった。
サバイバル女子の私はこれまでの人生を振り返り、そして、お願いが上手なお願い女子を見る度に思うことがある。
なんか私、損してない?
これは、サバイバル女子の私が、
「もう少しお得な生き方できないかな」
と考えて見つけた、明日から誰にでもできる、一つの答えだ。
ある日の午後のこと。
いつものようにデスクで仕事をしていると、同じ職場の三上さんの声が耳に入ってきた。
三上さんは高橋さんのデスクに書類を持って行き、そのままそこで雑談をしていた。
「あ、高橋さん、来週広島に出張に行くって言ってましたよね?」
「そうそう、月曜から」
「じゃあ、ちょっとお願いがあるんですけど」
「なに?」
「広島で、生モミジ、買ってきてもらえませんか? あれ、東京ではなかなか売ってないんですよー。私大好きなんです!」
「生モミジ」は広島名物もみじ饅頭の生菓子だ。
普通のモミジ饅頭のフワフワした生地と違って、モチモチした生地でできていて、一味違った美味しさがある。
しかし、賞味期限が短く、東京では入手困難だ。
それで、三上さんは広島に出張に行く高橋さんにお使いを頼んだのだった。
交渉は成立し、三上さんは自分のデスクに財布を取りに行くと、「生モミジ代」を高橋さんに手渡した。
一部始終をみていた私は、三上さんの「お願い」能力に舌をまいた。
別に、三上さんは高橋さんに「お土産に買ってきてほしい」と頼んだわけではない。
ちゃんと代金を渡して、お使いを頼んだのだ。
でも、と私は思う。
私だったら頼めない。
出張のときに荷物になるんじゃないかとか、帰りにたとえキオスクであろうと店によって購入するのは面倒じゃないかとか、色々考えをめぐらせて、結果迷惑だからやめようと思ってしまうだろう。
私は、人に何かをお願いするのが苦手だ。
一方の三上さんはお願いが上手だ。
三上さんは、5つ年上の女性の先輩だ。
美味しいお店をたくさんしっていて、話題が豊富。
社内の色々な職場に知り合いがいる、人脈力のある人だ。
いつも色んな人に気持ちよく、何かを教えてもらったり、何かを頼んだりしている。
三上さんのようになるには、どうしたらいいんだろう。
私は小さいころからよく、「手のかからない子」と言われた。
私には弟がいる。
我が家はいわゆる、一姫、二太郎だ。
元気な弟は小さいころから手がかかり、母は苦労していた。
弟はよく怪我をした。
小学生のとき、母は学校に呼び出されたこともあった。
学校から「ケガをしたから迎えにきてください」と電話があったのだ。
弟は1人では宿題をしなかった。母は宿題が出ると、つきっきりで面倒を見ていた。
「あなたは本当に手がかからないわ」
そう、母に言われた私は、褒められたと思っていた。
大きくなると、家の外でも手がかからないといわれるようになった。
大学で、同じゼミの先輩の川田さんにそう言われたころには、「手がかからない子」はどうやらほめ言葉ではないと、気づきはじめていた。
ゼミでは、大学院生が四年生の面倒を見るしきたりがあった。
大学院生だった川田先輩は、四年生だった山田さんと私、2人の面倒をみていた。
はたから見ていても、山田さんの面倒をみるのは大変そうだった。
山田さんはゼミの課題以外にも色々な問題を抱えていた。
周りの人ともめたり、体調を崩したりしていた。
結局、川田先輩は面倒くさいとグチをこぼしながらも、山田さんの面倒をよく見ていた。
卒業論文を仕上げるときもそうだった。
私はほぼ、自力で書き上げたが、山田さんは締切が近づくと、川田先輩に書いてもらっていた。
卒論の提出が終わってから先輩はいった。
「お前は本当に手がかからない子だなぁ」
私はそれをきいて複雑な心境だった。
確かに私は独力で論文を仕上げた。
でも、直前まで先輩に手伝ってもらっていた山田さんの論文の方が、私の論文よりもずっと良いものに仕上がっていた。
もちろん、独力で仕上げるその過程で、私は何かを学んだはずだけど、結果として山田さんの方がよいものができている。
なんか、ずるくないか?
私だって、本当は聞きたいことがあったけど、川田先輩は山田さんにかかりきりで忙しそうだったから、お願いできなかったのだ。
私はそんなわだかまりを抱えたまま卒業した。
私はお願いが苦手なまま社会人になった。
仕事中に、灯油缶を2階まで運ばなければならなくなっても(18キロ、エレベーターなし)、男性社員に頼む前に自分で運んでしまうし、電化製品の使い方がわからなかったら、自分で説明書を読む。
人にお願いする前に、自分でなんとかする。
どこでも1人で生きていけるサバイバル女子の出来上がりだ。
1人でやることに価値がないと思っているわけではない。
それでもたまに三上さんのような人にお願いをするのが上手な人に出会うと思う。
なんか、私、損してる?
三上さんみたいな人がいる一方、私よりももっと、人にものを頼むのが苦手な人もいる。
やはり、同じ職場の鈴木さんである。
鈴木さんはとにかく、気をつかう。
空気を読みすぎるのである。
この前も、鈴木さんは印鑑を押してほしかったようで、課長の様子をずっとうかがっていた。三上さんが別の案件で課長に話しかけた時に、ようやく一緒に判子をもらっていた。
その様子をみていた三上さんは後からこういった。
「鈴木さんそんなに気をつかわなくてもいいのにね」
三上さんの話を聞いた私は、うなずきつつも、内心、鈴木さんの気持ちもわかるなぁと思った。
鈴木さんは課長に迷惑をかけるのが怖いのだ。
もっというと、迷惑をかけることで嫌われるのが怖いのかもしれない。
お願いの難しさは、迷惑かどうかのラインを見極めることにある。
三上さんは、そこを見極めるのがとても上手だ。
たぶん、社会人になった時点ですでにある程度上手で、会社に入ってお願いの経験を積むことで、更に上手になったのだろう。
でも、お願いされる側にとって、お願いはただ迷惑なだけなのだろうか。
実はそうでもないのかもしれない。
それに気づいたのは後輩からの電話だった。
先週、会議中に、知らない番号から電話がかかってきた。
自分の報告を終えて、少し余裕があった私は、席を外して電話にでた。
かけてきたのは、前の職場の後輩だった。
ある社内の手続きを教えて欲しいという電話だった。
私が前に同じ問題に対処したことがあるのを思い出して、電話してきたらしい。
私はその場で思い出せる限り答え、後からメールで補足した。
会議中だったけれど、久しぶりに後輩の近況も少し聞けて、私は楽しかった。
何より、私のことを思い出して、電話をかけてきてくれたことは、迷惑なんかじゃなくて、嬉しかった。
タイミングやお願いの度合いによるけれど、上手なお願いであれば、お願いは迷惑なんかじゃなくて、逆にうれしいこともあるのだ。
その場合、お願いすることによって、好感度はかえって上がる。
そうか、順番が逆のこともあるのかもしれない、と私は思った。
三上さんは人脈力があるから、お願いができるのかと思っていた。
もちろん、それもあるけど、逆もあるのだ。
三上さんは迷惑でないタイミングで、迷惑でない程度に、上手にお願いをする。
そして、その度に、楽しい会話をしたり、きちんとお礼をいったりする。
だから、お願いすることで、お願いされる側からの好感度も上がるのだ。
三上さんはたくさんのお願いをすることで人脈力を強化してきたのだろう。
お願い力の秘訣はわかってきた。
1つはお願いが迷惑でないかどうかの見極め力。
もう1つは上手なお願いによって培われた人脈力だ。
さて。
それで、見極め力も人脈力もないサバイバル女子の私はどうすればよいのだろうか。
その答えを教えてくれたのもまた、三上さんだった。
この冬、私は生まれて初めて直面する問題で、困っていた。
それは、他人から見たらどうでもいい問題かもしれないけれど、うちの息子にとっては非常に大事な問題だった。
我が家にはクワガタがいる。
名前はくわちゃん。
この夏息子がとってきたのだ。
くわちゃんはモリモリ昆虫ゼリーを食べ、元気に夏、そして秋を生きてきた。
今は冬である。
この子は冬眠するのだろうか。冬の間どこに置けばよいのだろうか。餌は春まで食べないのか。
息子と私は寒くなるにつれ、愛するペットが冬をこせるか心配していた。
ある時、会社の帰り道に三上さんと一緒になったとき、私はこの、小さくて重大な問題を話した。
三上さんと私は同じくらいの年齢の男の子をもつ母として、育児ネタで雑談することが増えていた。
その話はその場で終わった。
驚いたのは数日後である。
なんと、三上さんは、趣味でカブトムシとクワガタを飼っている繁田さんという人から冬のクワガタの飼い方を聞き出してきてくれたのである。
繁田さんは同じ会社の違う部署の方で、私は顔も名前も知らなかった。
私は思った。
おそるべし、三上さんのお願い力。
これは、とても敵わない。
サバイバル女子の私が、すぐにお願い女子の三上さんを目指すことは無理だ。
三上さんは入社してから10年以上、色んな人にお願いすることで、迷惑かどうかを見極める力をつけ、社内の人脈力を強化してきたのだ。
それは途方もなく遠い道のりだ。
一朝一夕にできることではない。
でも。
でも、今回私はたまたま三上さんを通じてお願いすることができた。
とすれば、サバイバル女子の私は、お願い女子を味方につければよいのだ。
そして、困ったこと、できれば人にお願いしたいことをたくさん話しておく。
最初は三上さんのお願い力に頼りきりかもしれない。
それでも、三上さんのお願い力を借りつつ、学んでいけば、いつか私もお願い力がアップするかもしれない。
そんなわけで、結局わたしがやっているのはごくごく簡単なことだ。
サバイバル女子が生きる道。
それはお願い力の高い人と仲良くすること。
サバイバル女子は、確かに損をしているかもしれない。
でも、お願い女子を「ずるい」といってやっかんでいるのはもっと損だ。
今日も職場には三上さんの雑談が聞こえる。
三上さんは駅までの足がほしくて役員の車に同乗したという武勇伝を話している。
いや、そこまでいくと、もはや大阪のおばちゃんでしょ!?
私は三上さんに突っ込みつつ会話に加わった。
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