伸びしろランキング連続1位! この県の魅力はこれだ!!!《ふるさとグランプリ》
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記事:佐藤 穂奈美(ライティング・ゼミ)
「こんにちは。本日からお世話になります」
彼女は初老の男性に向かって深々お辞儀をする。
彼女は28才になったばかりだ。徐々に寒さを増した秋風に吹かれ、頬は少女のようにすこし赤みがさしていた。
初老の男性は、農作業ではめていた軍手を外しながら目尻にしわをきゅうっと寄せて、「こんな田舎に嫁いでくれて本当にありがとう。困ったことがあったらなんでも言いなさい」と言った。彼の細くなった視線の先には彼女と彼女の手を握り、キラキラした目で自分を見る可愛い初孫がいた。
彼女の夫はそんな自分の父である初老の男と彼女に交互に視線を注ぎながら、にこにことしていた。彼らは子供が幼稚園で年長になったことを機に、夫の実家で子供を育てようとこの町に越してきたのだ。
そんなときである。家の庭の奥の畑から声がする。
「おおおおーーーーい! そんなとこに突っ立ってたらこわかろ! はやく家にはいりな! そろそろおいらもこじはんにするとこだから! 準備、準備!」
姑だ。
彼女は自分の夫の実家に住み始めた最初の日、開始、15分ほどで泣きそうになった。彼女は人懐っこい性格ではあったが、世に聞く嫁姑問題に恐れをなし(ほら、渡る世間は鬼ばかりとか)、今日の日を本当にドキドキしながら待ち構えていたのだ。
それなのに……。
そんなとこに突っ立っていてこわいって……。
お舅さんにご挨拶してただけなのに……。
こんなところにこれから死ぬまでいるっていうの!?
もうやだっ! 家出してやるっ!
彼女は思い描いていた同居生活とは程遠い始まりに打ちひしがれ、数週間後、娘を連れて自分の実家に家出してしまったのだ。
彼女の実家の窓を車のヘッドライトが照らす。
誰か来た。
彼女がそう思うと、玄関の呼び鈴が鳴る。
「夜分遅くにすみません」
その声は、夫だった。
彼女が玄関を開ける。
彼は開口一番「ごめん」と言った。
「君はあんな田舎初めてだし、いやだったろ? 慣れない生活をさせてごめんな」
「ううん、そういうことじゃないの」
「じゃあ、何がいやだったの?」
「初めて越していった日、お舅さんにご挨拶してただけなのに、こわいって言われて……。そのあと、どんなに家の仕事をしても怒鳴ってばかり……。こんなに怒られてばかりでは、この先うまくやっていけるか不安になって……。いつかはちゃんと向き合わないといけないって分かっているのだけど、一度きちんと心の準備をしなきゃっていうか、甘かった自分に覚悟を決めなきゃっていうか……。そのために、少しだけ時間が必要だったの」
彼は真顔で彼女の話をひとしきり聞いた後、彼女の実家の玄関で大爆笑し始めたのだ。
「なによっ! わたしが真剣にあなたの妻として生きていこうと悩んでるって言うのに!!!」
彼は笑いすぎて目尻に溜めた涙をぬぐいながら、また謝った。「ごめん、ごめん。本当にごめんよ。俺にとっては当たり前すぎて、説明不足すぎた。本当にごめん」
彼は本当にごめん、と言いつつも笑いが堪え切れずにいる。
「まず、うちのばあさんが言ってた『そんなところに突っ立ってたらこわいだろう』だけど、『こわい』って茨城の方言なんだ。標準語にすれば『疲れた』って感じかな。だから、うちのばあさんが口下手なのも悪いんだけど、息子の俺から意訳させてもらうと『(引っ越しで疲れてるのに)そんな庭先に立っていたら疲れるだろう(じいさんも気を利かせてお茶の一杯でも勧めろや)。わたしたちもそろそろ休憩しようと思っていたとこだから、あなたのためにも早く準備しなきゃね』ってところだ」
「えええ!!!?」
彼女はびっくり仰天である。
「そういえば、こじはんって?」
「ああ、『こじはん』はね、俺も正式な由来は知らないんだけど、小昼飯(こちゅうはん)みたいなやつからきてるらしいんだよね。ほら、俺の実家田舎だろ? そんで田んぼがあって、海も近いし、湖もある。だから基本的に、あの辺りは農家か漁師が多いんだよな。農家も2時とか本当に日が高くなると暑くて農作業がつらいから、日が昇りかけた朝から作業するんだよ。俺の実家の湖で魚を捕るにしたってそう。あんまり昼間じゃ、照り返しが強すぎてつらいから早朝から漁に出るんだ。だから朝ご飯は4時半とか5時とかものすごく早く食べる。だから肉体労働をしてると12時まで持たないんだよな。俺も手伝ってたから分かるけど。だから小昼飯、そこからなまって『こじはん』と言って、朝の10時とかにお茶とお茶菓子とか、おにぎりとか軽く食べることを言うんだよ。おまえがうち来たの10時過ぎだったろ? ちょうどおふくろもこじはんにしようと思ってたところにおまえが来たからさ、じぶんたちの休憩に合わせて休んでほしいって思ったんだよ」
え! え! え!
彼女は驚きっぱなしだ。
「でもお舅さんはあんなにきれいな標準語で話すんだもの! お姑さんが標準語で話してるって思っても仕方ないじゃない!」
「まあ、それは仕方ないっていうか……。親父、外勤めしながら兼業農家が長かったから。転勤もあったし。仕事の都合上、標準語が板についたんだろうな。それに対しておふくろは、茨城生まれ、茨城育ちのサラブレットだ。おふくろの実家、大農家だしな。家族みんな、茨城から出たことがないんだよ。農作業してると、だだっ広い畑でお互い遠くにいるだろ? だから『おおーい! こじはんにしようや!』ってほぼ怒鳴るみたいになってその積み重ねで、地声がでかいんだよな。おまえがもし、おふくろが毎日怒鳴ってるって思ったのなら、そりゃ誤解だ。地声がでかい。すまん……」
彼はそう言うなり顔の前で手を合わせ、頭を下げた。そして、ちょっと上目遣いに彼女を見上げる目元はさっきの笑いの余韻を引きずっている。
彼女は拍子抜けしてしまった。
なあんだ! そんなことだったの!
タネがわかれば、なんのことはない簡単な話で彼女もついに笑い出してしまった。
「さ! パパと一緒にばあばのとこ帰ろ!」
彼女は幼い私の手を引いて、夫の車に乗り込んだ。
あれから20数年、母と舅、姑は未だに仲が良く、わたしたち孫が東京に巣立ってからも週末は4人でドライブに行ったりしているらしい。
茨城の人間は、ぶっきらぼうで、口下手だけれど、一度打ち解けてしまえば、なかなかにあったかいいい奴らだ。
私の地元、茨城県の大洗町は、近頃アニメのモデルになって、アニメの聖地として賑わっているらしい。大洗の友だちの実家である民宿も聖地になっていたので、話を聞いてみると、不思議なことに、最初は聖地巡礼と言って、10代や20代の若者が来るのだけれど、大半がアニメの放送が終了してからもリピーターとなって、最後には家族そろって遊びに来ると言う。
なんでも、来るたびに、ぶっきらぼうな言葉の割に「これ食え」、「遊ぶならあそこがいいぞ」、「今夜泊まるとこあんのか?」と何かとおせっかい焼きの大洗の人のあったかい感じにふれ、次第に打ち解けていき、しまいには海もある、食べ物もおいしい、海の見えるお湯処もある、そんな大洗に家族も連れていきたい! と家族総出で泊まりに来てしまうのだそうだ。
たしかに、うちのばあちゃんもお客さんに、「ほれ、これ、食え」とか言ってやたら食べ物勧めるな……。
そんな訳で、毎度毎度魅力度ランキングで47位とかなんとか言われている茨城だが、私からすれば、ポテンシャルナンバーワン、伸びしろランキング1位の県だ。
大洗の朝日なんて、夜を徹して見に来る人がいるほどの美しさだし、海鮮のおいしさは保証する! 涸沼の夕焼けなんて見とれてしまう。
東京から特急で1時間半、行かない手はないですよ!
最後に、茨城を心底楽しむコツを伝授します。
「茨城弁に圧倒されないこと」
それだけです。
ほぼリスニングできなくても気にしない。
ちょっと声が大きすぎるのはご愛敬。
あったかい出会いがあるはずです。
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