メディアグランプリ

外資系コンサル企業の論理派おばさんは、ギャルに惨敗する


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記事:K子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私の夫は、ギャルだ。
 
少し補足する。
私の夫は、圧倒的ギャルマインドを持つ男だ。
なお、見た目はいたって目立たない黒髪の普通の男だ。
 
ギャルマインドとは「直感性」や「ポジティブ思考」を持つ性格を表す。
最近ではお硬いニュース番組で皆が言いづらいことをズバッと明るく発言する煌びやかな見た目のギャルコメンテーターが多く活躍している。
自分の好きなことを貫き、論理的に考えすぎず、バイブス(ノリやテンション)に突き動かされて行動できる人のことを指し、「周りを気にする」「空気を読む」人が圧倒的多数の日本においては貴重な存在なのである。
 
一方の私は、ギャルとは程遠い「論理派おばさん」だ。
一般的に女性の方が男性よりも直観的な思考を持ちやすいと言われている。
しかし外資系コンサル企業という論理的であることが正義の会社に勤めて長いせいか、夫にしばしば「K子って、感情あるの?」と言わしめるほど、私は直感性からは程遠い人物である。
 
そんな真反対の我々夫婦は、事あるごとに言い争う。
 
 
 
「えーこれまじでアツイ。ヤバイ」
 
夫はいつも、ボキャブラリーが少ない。
基本的に「アツイ」「ヤバイ」「スゴイ」あたりの言葉で全ての事情を説明する。
ただ、その少ないボキャブラリーには確かにバイブス(熱)が籠っている。
そのため、基本的に「結論から話してほしい」と無駄な話を聞くことを嫌う私も思わず何のことを言っているのか知りたくなってしまうのだ。
 
「なんの話?」
「なあなあ、モニター買っていい?」
 
今回彼が「アツイ」と興奮しているのは、最近某メーカーが安売りを始めた大きなPCモニターだった。
しかし、数年前から自宅でリモートワークをする夫のデスクには、既にそこそこの大きさのモニターが存在している。
 
「ノートパソコンといまあるモニターで、もう2画面あるよね。キミの目は2つしかないはずだけど、同時に3つのものを見られるの? 無理だよね。はい、買わないでください」
 
眼球が2つだから2画面までしか見られないというのもよくわからない理屈ではあるが、私はいつも通り論理的っぽい口調で早々と夫を論破する。
夫は「ぴえ〜ん」と泣き顔をしながらも、果敢に言い返してくる。
 
「てか、モニターって推しのアイドルと同じじゃね?」
「……それはどういうことでしょうか?」
「見てこのフォルム! 映像美! 見てるだけで元気出るから、アイドルみたいなもんよ。そばにいるだけで俺の仕事のやる気も爆アガり」
 
出ました! ギャル構文『てか、◯◯じゃね?』だ!
通常考えうる、PCモニター=仕事に使うものという枠組みを思いもよらぬパワーワードでぶっ壊してくるこの構文が、論理派おばさんに与えるダメージは絶大である。
自分が考えうる枠組みの中での論理的破綻であればそこを指摘して再度論破することができるのだが、「モニターは推しのアイドルと同じじゃね?」はさすがに意味が分からなさすぎて、一周回って面白くなってしまうのだ。
 
「はあ。具体的にどの程度仕事へのやる気が上がるのでしょうか。お給料は上がるのかしら? モニターの費用対効果は本当にあるのでしょうか?」
 
しかし論理派おばさんも負けてはいない。必殺技『費用対効果』で応戦する。
これは私が仕事で常日頃、お客様に何か提案するときに必ず意識しているフレームワークである。
投入したコストに見合う効果がないと、その選択肢は正しくないと言えるのだ。
 
「えー、まあ、ワンチャンなんとかなるっしょ」
 
きたーーーー! いったい、どこからくるのだその自信は!?
こちらが普段仕事で数時間または数日かけて行う費用対効果の計算も、『ワンチャン(ワンチャンス、もしかするとうまくいくかもの意)』の一言でぶっ飛ばす夫のそのポジディブ思考が眩しい。
 
「いやそんな、ワンチャンとかで済ませられる金額ではないよね」
 
安くなっているとはいえ家計にそこそこのインパクトを与えるモニターの値段を再度見て、私は仕切り直す。
 
「わかるーそれなー」
「なにが?」
「K子も欲しいものあったら言ってな。いつもまじおつかれやからさー。ストレス発散の買い物もしたくなるよな」
「……お、おう?」
 
これぞギャルの最終奥義! よくわからないタイミングで繰り出される突然の『わかるーそれなー』だ!
それまでは自分のやりたいことを直感性とポジティブ思考で押し通してきたところで、突然繰り出されるこのパンチ。
論理的な口調でもっともらしく夫の買い物を否定しながらも、心の底では「夫ばかりずるい、私だって好き勝手したい」と自分の気持を押し殺している私は、気持を見透かされたようでたじろいでしまう。
そう、ギャルはいつだって、仲間(パートナー)のことも大切にするのだ。
 
そして夫のギャルマインドに押し通された結果、数日後には論理的に考えればまるで必要性に欠けるどデカいPCモニターが我が家に届いたのである。
 
 
 
論理派おばさんの私は、外資系コンサル企業でバリバリ働いている。
沢山の部下を毎日論破しまくっている。
しかし家の中では、特技の論理的思考もむなしく、いつもこうしてギャル(夫)にことごとく惨敗しているのだ。
 
論理派おばさんと、ギャル。
一見絶対に相容れなさそうな2人だが、結婚して4年、結構仲良く過ごしている。
 
真反対の夫婦だからこそ、味わいを引き立たせることもあるのかもしれない。
半袖で過ごしやすい気温になった今週、甘いスイカに塩をかけて食べながらそんなことを考えた。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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