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万年激務夫のおかげで筋肉ムキムキになった妻の話


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記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
あっ、抜けたな。
不意にその瞬間は訪れた。私はいつの間にか大丈夫になっていたことに気付いた。
 
夏休みが近づき、我が家に一つのお誘いがあった。8才の長男が仲良くさせてもらっているお友達のママさんが、8月の土日で一緒にキャンプに行かないかという。長男も5才の次男もアウトドアが好きなうえに、お友達も一緒だったら絶対喜ぶはずだ。二つ返事でOKを出したい所だったが、たった一つだけ懸念事項があった。夫だ。
 
「お友達家族が一緒にキャンプに行こうと誘ってくれてるんだけど、どう?」
「うーーーーーーーん。ちょっと難しいかも」
想像通りの返事に、私はつい笑ってしまった。
 
夫は自営業で従業員はおらず、たった一人で全てをまわすスタイルで仕事をしている万年激務男だ。基本日曜日しか休みを取らず、祝日もそのほとんどを仕事に充てている。出張やら会合もあり平日も遅くなる日が多く、一緒にご飯を食べられるのは月のうち半分もない。休み返上で働かないと到底追いつかない仕事量なのだ。
 
わかっていて結婚したのだから、妻としてそれなりに対応してきたつもりだった。しかし、事情が変わったのは2人目が生まれてからだった。お兄ちゃんになったといってもまだ幼い3才に加え、四六時中世話を焼かないといけない赤ん坊。少しでもいい、誰か大人の手を借りたい。実家も義理の実家も遠い為、私は夫にSOSを出した。
 
「月に一回だけでもいい。週休2日にしてもらえないだろうか?」
答えはNOだった。というより、NOを察してくれという返事だった。
 
夫いわく、会社員のようにはっきり決まった額の給料があるわけでなく、頂いた仕事の報酬によって月収が決まる。1日でも仕事を減らせばそれだけ月収が減る。それでもいいか、という回答だった。そう言われると「いい」とは言いづらく、私はワンオペでの育児を覚悟せざるを得なかった。
 
たった1日のことで大袈裟な、と思われそうだが、一番きつい時の打診が通らなったことは、夫の「仕事のスタイルは絶対に変えられない」いう鉄の意志のようなものを感じ、なんとなく心が重くなった。
 
覚悟したところであらゆる場面で襲ってくる育児の辛さが減るわけでもなく、歯を食いしばりながらその時が過ぎるのを待つしかなかった。
 
母乳育児で体力を使いヘロヘロな状況で、兄3才の容赦ない要望に応える。早く1日が終わらないかなと願っても、次の日はまた同じような1日がやってきた。
 
兄弟が大きくなってくると二人を連れて外遊びに行くことが増えた。帰らないと駄々をこねまくりの二人を半ば引っ張って帰りながら(このあと夕飯を作って食べさせて寝かし付けもこの私が一人でやるんですか?)と白目を剥いた。
 
ただでさえ精一杯の毎日に追い打ちをかけてくるのは子供たちが次々にかかる感染症などの病気だった。ある時は次男の嘔吐に始まり、長男、私と次々にウイルス性胃腸炎に罹患したが出張でいない夫に頼るわけにもいかず、なんとか地域の子育てサービスで知り合ったサポーターさんに連絡を取った。
「すみません……ポカリを……買ってきてくれませんか……」
優しいサポーターさんがポカリ以外にも手作りのスープなどお見舞いの品をドアノブに掛けてくれた事を知ると、半べそをかいてそれらをありがたく飲んだりしながら生き延びた。
 
病原菌は容赦なく襲ってくる。
子供の自由な意思は強く、思い通りにはならない。
なんだかいつもギリギリの状態でまわしているような毎日だった。
 
でも、水面下では小さいながらも確実な変化が起きているということをまだ私は知らなかった。
子供はどんどん成長する! ということだ。
 
次男がおっぱいを卒業し、オムツが外れた。長男は自分でお尻を拭けるようになったし、体も自分で洗えるようになった。それまで全て母親の手を介して成立していた生活の一コマ一コマが、テトリスで消えていくようになくなり、体力的に楽なった。
 
それに伴い、気力が戻ってくるのがわかった。兄弟たちの笑顔がよく見れるようになったし、面白い言動や可愛い仕草など一瞬一瞬を逃さぬよう記録に残したくなった。余裕が出てきたのだ。
 
育児のスタートは、右も左もわからないのにやるべき事が多過ぎる。経験値ゼロのお母さんはヒョロイ体で重いダンベルを上げるような過酷さだ。しかし、今ではこれまでの経験に基づく知識や勘が自分を助けてくれている。ようやく育児に必要な筋力がついたのだ。気づけば辛いトンネルを抜けていた。
 
今回キャンプのお誘いについて案の定雲行きが怪しげな夫に、筋肉ムキムキな妻はこう返した。
「オッケー!! じゃあ3人で行って来るよ!!」
筋肉妻の返しに慌てふためいたのは夫だった。
 
「出来るだけ! 出来るだけ俺も参加の方向で!! 調整するから!!!」
「子供たちも俺がいないと寂しいだろうし!!」
 
何としてでも父の存在を知らしめようと急に焦っている夫が面白くて私は笑いながら、あぁついにこんな日が来たんだなぁと感慨深いものがあった。
 
時は流れるし、子供は育つ!
あと2~3年もすれば兄弟を一人で連れて距離のある旅行でも行けそうな気がしてきた。きっと今まで歯を食いしばり白目を剥きながら頑張ってきた育児のご褒美ターンがやってきたのだ。そう思うとこれからが楽しみでならない。
 
しかし、忘れてはいけない大事なことが一つある。
アラフォー出産で体力気力の限界を感じ、会社勤めを辞めた私に何も言わず家計の全てを請け負ってくれた夫がいるからこそ、今があることを。多忙な夫の健康に少しは気を遣い、感謝の念を余すところなく伝えよう。夫は違う形で育児に大きな貢献をしてくれているのだから。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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