エビフライを食べて、宝石を手に入れた。《ふるさとグランプリ》
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記事:まつしたひろみ(ライティング・ゼミ)
「エビフライ、もっと食べやー」
目の前には、山のように盛られているエビフライ。盛られている皿は大人でも片手で持つのは難しいんじゃないかと思うほど大きい。少女は「うん」と口には出さないが、頷いてエビフライに手を伸ばす。
口いっぱいに頬張り、「おいしい?」と聞かれると少女はまた頷く。
小さいころ、母の実家に行くと、よく宴会が開かれた。記憶にあるのは小学生くらいからだけど、もっと前、私が産まれる前からそんな風だったんだろうか。
母の実家は名古屋から一時間くらいの、知多半島の先っぽの方にあった。名古屋から比べるとすごく田舎で、田舎だからこそとても大きな家で、大広間、二間を開け放して、いつもそこで宴会は行われた。机をいくつも並べて、20人いや30人くらいは入ることができただろうか、親戚中が集まるとすごい人数だった。
酔っ払った大人たちのことを「うるさい」とうっとおしい年頃のときもあったけれど、ワイワイ楽しく、みんなでご飯を食べるあの場所は好きだった。
その宴会の準備は、よく手伝わされた。
家にいるときのお手伝いは「女の子だから」とか「お姉ちゃんだから」という理由でやらされてたから、本当に嫌だった。でも、母の実家でするお手伝いは普段のお手伝いよりは嫌ではなかった。自分から進んでやるわけではなかったが、おばあちゃんやおばちゃんが「ひろみさんは偉いねえ」と必ず褒めてくれたからだ。
それに日常とは違う雰囲気でウキウキしていたのかもしれない。
エビフライはその宴会での定番料理だった。
未だに理由はわからないが、「エビフライ作らんといかんねえ」と言いながらみんなで作っていた気がする。おばあちゃんはエビのアレルギーだったのにも関わらず。
そのエビフライを作るお手伝いも、よくした。
冷凍のエビを解凍して、殻をむいて、塩胡椒で下味。小麦粉、卵、パン粉の順番につけて衣をつけたら、油へ投入。あとは衣が色よくなるまで揚げるだけ。
小さい頃は「小麦粉つけるー」とか「今日はパン粉の係」などとちょっとしたお手伝いで、大きくなるにつれて油の前で揚げる役目になったりもした。
特別な作り方をしているわけではなかったけれど、いつも美味しいエビフライだったな、と思う。
その他にも思い出すことはいろいろある。
酔っ払ったおじいちゃんは録音して練習してるんじゃないかというくらい、いつも同じ話をしていた。
大人たちの宴会が嫌になると、おばあちゃんと一緒に部屋に逃げたりもしたっけ。
おばちゃんはいつもニコニコしながらみんなを見て、ちょこちょこ動いて準備や片付けをしていた。
帰り際になると「俺は泊まっていく!」と子供のように駄々をこねてみんなを困らせていた父。
20年以上前の思い出は、少しずつ色褪せてはいるけれど、ふと頭に浮かぶときには、とてもキラキラ輝いて見える。
日常の、なんでもない出来事は道端に落ちている石っころのようだ。そんな石っころを蹴飛ばすように日常は何気なく過ぎていってしまう。でもその石は互いがぶつかり合うことで角が取れ、時間という道具により磨かれていく。「思い出」と呼ばれる頃になると、宝石だったんだと気付かされる。
手に入れようと思って手に入れることはできるのか。いや、意識をしなくても気付いたら足元に転がっていて、いつのまにか思い出になっているんだろう。
母の実家の思い出だけではない。
昔の懐かしい記憶は、すべてが輝いて見えるような気がする。
まるで宝石みたいにキラキラしている。
失恋の記憶だって、フラれたときはこの世の終わりじゃないかと思うくらい落ち込んで、二度と思い出したくない! とそのときは思う。でも何年も経って思い出すと、そんなころもあったっけ、と懐かしく思える。更に年月が過ぎれば、あの失恋があったから今がある。あれはなくてはならなかったものだ、なんて「二度と思い出したくない!」と思ったことは上書きされてしまったりする。
もう戻らない時だからそんな風に思うのだろうか。
いや、その時から成長して進化しているから、記憶を磨くことができたのだろう。
自分がおばあちゃんになったとき、それまでの思い出をたくさん入れた宝石箱を手にしていたい。目を細めながら箱の中を眺めて思い出話に花を咲かせたい。
だから今は、懐かしむ思いを胸にしながら、前を向いて、たまには足元を見ながら過ごしていきたい。
これからも宝石の原石を、たくさん手に入れることができるだろうか。
今のところ、名古屋名物でもあるエビフライは、私にとっては宝石の欠片になっているらしい。
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