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おっさんの病気とスパルタ先生


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三好健(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「……ん、なんか痛いな」
だらん、と下に伸ばした右腕を、親指側に内線させてみた。すると、右腕の付け根辺りに、チクッとしたような痛みがあった。
なんだろう。筋肉痛か。いや、そんなはずはないか。リモートワークで自宅に籠もりっぱなしの僕は、ここのところ運動らしい運動をしていない。筋肉痛になんてなりようがない。
まあ、そのうち治るだろう。なんて、軽い気持ちで、そのときはいた。しかしそんな思惑とは裏腹に、右肩の痛みは悪化していった。
例えば就寝中、寝返りを打つときに右腕が動くと、肩の痛みで目が覚めた。意識が半覚醒の状態で、痛みが引くまで耐え、再び眠りにつく。
肩が上の方まで上がらなくなり、戸棚の上の方にある食器まで手が届かず、踏み台を使うようになった。
 
子供たちは面白がって、「バンザイしてみて!」と言ってくる。バンザイをすると、右手だけが上がらないので、愉快そうに笑う。
汗で身体にぴったりとひっついたTシャツが、くせ者だった。右肩の可動域がだいぶ狭くなり、服の裾を持って脱ぐ、という日常の行動に支障を来し始めた。
「ちょっとパパの服を脱がしてくれない?」
中途半端に脱ぎかけた状態のまま、次女にTシャツの裾を頭の方に向かって引っ張ってもらい、ようやく脱げた。さすがにこの状態にまでなると、放ってはおけなくなってきた。右腕を身体の横から上に上げようとすると、水平までしか上がらない。まるで右側だけ田んぼの真ん中に立つカカシのよう。
5人組のナントカ戦隊の真ん中で腰に手を当てて偉そうにしているレッドのポーズも出来ない。腰に手が当てられなくて。
どこぞの会社のホームページでCEOがエラそうに腕を組んでふんぞり返って良いこと言っているポーズも出来ない。腕が組めなくて。
 
もしかして、なんか変な病気なのかも知れない。なるべく近場で、かつ評判が良さげな整形外科を探した。Googleの口コミも申し分ない病院を見つけると早速予約。「早速」と書いたが、最初に痛みを感じたあの日から、およそ半年は経過していた。
初めての病院はいつも緊張する。看護師さんと軽妙な、そして慣れたようなやりとりをしている患者さん達を見ていると、新参者の自分は肩身が狭く感じた。余計に肩が痛くなりそうだ。
何人かのベテラン患者さん達が呼ばれ、診察室に吸い込まれては吐き出されてを繰り返し、小一時間ほど経った頃にようやく僕が呼ばれた。
 
やさしそうな男性の医師に症状を時系列で説明したあと、右肩の可動域をチェックされる。
「いたたたたっ」
マジ、スパルタ。あまり優しくなかった。
「カタカンセツシュウイエンですかね」
がーん。え、何その難しそうな名前。やばいの?
「肩関節周囲炎。いわゆる四十肩です」
がーん。お、おっさんの病気じゃん。そんな症状になるという年齢になっていたことにショックだった。
「痛みが出たときに、何かされましたか?」
「いえ、何も。ずっと家にいて、運動とかはしてないので」
「お仕事はご自宅で?」
「ずっと家で仕事してますね」
「運動不足も原意としてはあるかもしれないですね」
自分自身も知らぬ間に、僕の身体は弱っていたのだった。
実はこの時点では病名は確定しておらず、その後は院内でレントゲンを撮り、紹介された病院でMRIを撮り、骨や筋肉の状況を看た上で確定した。
はぁ、運動しないとな……。病院からの帰り道、真剣にそう思った。まともに運動をしなかったせいで、診察と検査で万単位のお金が空へ羽ばたいていったのだ。金を掛けるなら、病院よりも、予防や健康であるための行為に使いたい。
とはいえ、まともに肩が上がらない状態では、運動なんてできやしない。まずは治さなければ。翌週から、1〜2週間に一度のペースで、理学療法士の先生にリハビリをして貰うことになった。
 
担当してくれた理学療法士の先生は、ニコニコと笑顔の50代くらいの方だった。よかった、優しそう。
腕を上げるように言われたので、左腕を真上に、右腕が真横のポーズをした。好きでチアリーダーのLモーションをしているわけではない。しかも右手と左手が逆なのでL字になっていないし。
ベッドに仰向けになり、リハビリが始まった。マッサージっぽくて気持ちいい。寝そう。そう思ったのも束の間で、無理矢理、右肩の可動可能な範囲を超えて強制的に右肩を動かされた。
「いッ……」
マジ、スパルタ!
しかし、少しでも早く治したいので耐える。
理学療法士の先生は話しも面白く、よく世間話もした。
そんな中で、実は先生も四十肩になったことがあるという話になった。
「しかも両肩とも、四十肩になったことがあって」
と、笑いながら言っていた。
先生の場合は、ハンドソープを手の甲でプッシュしたことを契機に、四十肩になったらしい。なるほど。結構些細なことが契機となり、発症するらしいことが分かった。
その話を聞いて、ちょっと安心してしまった。四十肩を経験した事がある先生なら、的確なリハビリをしてくれそうだな、って。
 
そして今は、すでにリハビリを卒業した。
じゃあ、治ったのか、って?
いや、治ってないのだ、これが。
厚生労働省によりリハビリの期間が決められているらしく、肩関節周囲炎の場合は150日とのこと。
病名を変更すれば継続できる、と医師に言われたものの、それをするのは悪いことをしている気がしたので、お断りした。
理学療法士の先生のおかげもあり右肩の可動域はだいぶ改善してきているので、実は今は定期的にジムに通って筋トレをしている。
同じ轍は、二度と踏みたくないのでね。
ちなみに、同じ病名でも2ヶ月空ければ、またリハビリを開始できるらしい。あの理学療法士の先生にも会いたい気もして、通いたい気はするものの、しばらくは自力で治していこうと思う。
肩関節周囲炎は、治るまで時間を要する。長い人で、2年は痛みが取れないとか。
40歳を過ぎた人にこそ、運動をおすすめしたい。四十肩って、本当に辛いから。
 
 
 
 

***

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2024-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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