時代がようやく埼玉に追いついてきた《ふるさとグランプリ》
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記事：なみ（ライティング・ゼミ）
ミニマリスト、という人たちがいるらしい。
自分の部屋に、本当に必要最低限の物しか置かない生活を送る人たちである。
ミニマリストである後輩の部屋を見せてもらったことがある。
服はほんの五着程度、机も質素でノートや筆記用具もほとんどない。
冷蔵庫は？
なんて言おうものなら、
自分料理しないんで。と返される。
なるほど、だから食器もないのか。
よくいえばシンプル。
悪くいえば何もない、つまらない部屋だ。
こんなに何もなくて、本当に不自由なく生活ができてるのだろうか。
生活は楽しいのだろうか。
なんて思ったりもするが、
本人たちは、何もないことに大いに満足しているようだから、
私のような他人は何も言うことはない。
あえて一つ言うとしたら、地震の時、逃げやすそうでいいね。
くらいだろうか。
ああ、この感覚。
どっかで知っている。
つまらないくらい、何にもないところ。
そうか、
我がふるさと、埼玉だ。
埼玉県と言われて何が思い浮かぶだろうか。
県民でない方は、おそらく何も思い浮かばないだろう。
ここで一県民として、埼玉の魅力を語るべきなのだろうが、
埼玉は本当に何もない。
アピールできる観光地もない。
観光地でもないが、埼玉は古墳が多いと思う。
少しだけ有名な吉見百穴もあるが、
古代人のお墓がたくさんあるんだよ、
なんて言ったところで食いつく人は、一部のマニアをのぞき、ほとんどいないだろう。
ほぼほぼご存知ないだろうが、
埼玉だって誇れる名物がたくさんある。
川越城、草加せんべい、岩槻人形、加須のこいのぼり、武蔵野うどん、狭山茶、細川紙。
歴史的に面白い場所もたくさんある。
けれども、城下町もうどんもお茶も和紙も、もっと有名で人気のあるものが、他の県にある。
埼玉にしかない名物は、残念ながらない。
毎年、都道府県魅力度ランキングが発表されるが、ずっと疑問だった。
なぜ埼玉が最下位でないのか。
2016年度は39位だった。
毎年、最下位から少しだけ離れた中途半端な位置にいる埼玉県。
あえて名前は伏せるが、
最下位争いをしている近隣の県は、どこもほこれる、唯一の魅力を持っている。
温泉もあるし、海もあるし、立派な文化財や、時代劇で人気の有名人だっている。
しかし埼玉は？
埼玉といえば！
なんてものはない。
最下位争いで話題になるのさえ、うらやましく思えてくるくらい、
埼玉は話題にすらされない。
おそらく最下位争いにもならないのは、さいたまスーパーアリーナがあるからではないだろうか。
ところが、レディーガガが来日公演を行った時、
ライブ中に彼女が「hello Tokyo」と発言したことも、一部県民の間で話題になった。
要するに、さいたまスーパーアリーナは東京の飛び地であって、埼玉ではない。
そもそも、埼玉は東京で抱えきれなかったものを、受け入れている役割を果たしている。
東京オリンピックの試合会場も、多く行われる予定だ。
埼玉は、東京を下支えする運命にあるのだ。
ただのベッドタウンと化しているこの場所は、住民の県民意識も低ければ、地域への愛着も薄い。
私自身、小学生の頃、親の代までさかのぼって、埼玉県出身なんて同級生は、ほんのわずかしかいなかった。
そんな埼玉が、他の県に勝てることは本当にないのか。
東京に勝るものは。
そして地元にいながらずっと探した末、見つけたのだ。
魅力がない。
観光地がない。
何もない。
災害も、ない。
そう、
埼玉は災害が少ない。
海がないから津波が来ない。
雪も降らない。
火山もない。
景勝地などもないが、
山がない分、災害に遭う確率が減る。
海がないと揶揄されるが、その分安全だからいいじゃないか。
何もないことこそ、埼玉の魅力だ。
だから私は、他の県の人に、埼玉のいいところは何かと聞かれたらこう答える。
埼玉は何もないよ、と。
今は地方自治体が、魅力を絞り出して競っている。
魅力再発見、ということで、PR合戦をしている中、
多く生み出されたゆるキャラは、リストラされているそうだ。
旅行に行けば、銘菓がありすぎて何を選ぶか困る。どこもかしこも、名物の飽和状態だ。
本来ならきれいな花、美味しい地元のご飯で充分なはず。
珍しいものは、何もいらない。無理に作る必要もなかったんだ。
ミニマリスト。
最初は理解もできず、まねをしたいとも思わなかったが、
物がありふれている自分の部屋を見返すと、少しは見習わなくてはならない。
次の引っ越しの時には、テレビを部屋に置かないようにしようかなぁ。
服もこの冬一度も着なかったのは、捨ててしまおう。
食器も最低限でいい。
何もない部屋にしたい。埼玉に住んで、何もない魅力を知ってしまった。
なんでもいいものを、自分の懐に入れようとしなくていい。
見たければ見に行けばいい。自分のそばに、何でもそろっている必要はないのだ。
何もないことを、隠そうとせず、魅力としていく。
何もないことが、強みになることもある。
ミニマリストが注目されるようになった今なら、
埼玉ならではの魅力を、少しずつ理解してくれる人が、増えてくるかもしれない。
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